第119話 珍しく雪の舞った朝に


この町では珍しい雪雲が

ひらひら氷の粒を降らせた朝

冷えた指先をこすり合わせながら

少年はまだ覚めきっていない朝の町を

足早にすり抜けようとしていた


すれ違う人の手には色とりどりの傘

濡れたアスファルトはしんと冷えている

今年初めての雪の気配は

そんな些細なところに集約されていた


いつしか氷の粒は雨へと変わる


もう完全に溶けてしまったけれど。

少年は思う

ひらひらと美しく舞い落ちた雪は

地に着くかつかないかのところで

完全に溶けてしまったけれど。


心に確かに雪は降った。


あとほんの数時間後には

雪もそして雨すらも

この町から影も形もなくなってしまう

ほんのり熱を持ち始めた指が差したのは

雲の切れ間から覗く青い空

それでも少年の心の雪は

まだやさしく降り続いている

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