第3話 キジに会いました

「さてと、君たちにきび団子を……」

「ぼくたんにもくださいな!」


 突然、降ってきた音程の高い声。空から、鳥の翼を持った男が降りてきた。

 おかっぱ頭で、目と顎が細い。神経質そうな顔だ。


「お地蔵様、これは……」


お地蔵様『賑やかしキャラです。テキトーに扱っていいよ』


 犬と猿が登場したときと違って、お地蔵様の声には覇気がない。興味がないらしい。

 鳥は片方の翼を胸に当てると、丁寧なお辞儀をした。


「ぼくたんは、キジ。桃太郎さんは、鬼退治に行かれるとのこと。頭脳明晰なぼくたんを、お供にするといいですぅ」

「上から目線で言うんじゃねーよ!」


 猿の額に青筋が浮く。キジが空から降りてきたときから、猿は苦々しげな顔をしていた。どうやら知り合いらしい。

 猿は、僕の耳にひそひそ話をした。


「断ってください。こんなヤツいなくても、俺と犬で鬼退治できます」

「ケーン! 聞こえてるですぅ。力馬鹿のキミと違ってねぇ、ぼくたんは頭脳派。鬼ヶ島がどこにあるか、調べてあるですぅ。これが地図。桃太郎さん、仲間にしてくれるなら、見せてあげてもいいですけどぉ?」

「え? 海の向こうに見えるあの島が、鬼ヶ島じゃないの?」

「ケーン! 桃太郎様は賢い!! 千里の目をお持ちでございますぅ。ぼくたん、感動しましたですぅ。お供させてくださいませませ!」


 キジは胡麻をるように、両翼の先を擦り合わせた。

 

 僕としては、仲間は一人でも多いほうがいい。それにキジは、空中戦ができるので魅力的だ。

 だが、猿は舌打ちをしているし、犬も気に食わないといった目でキジを睨んでいる。

 キジは、ケンケンとした甲高い声で得意げに話しだした。

 

「ぼくたんのパパは、寺子屋をやっておりますですぅ。そういうわけで、ぼくたんは頭がいいんですぅ。軍師として、提案するでありますぅ。猿くんが切り込み隊長。命を捨てる覚悟で、敵を分散させてくださいですぅ。わんこくんは囮となって、鬼の頭領に食べられてください。頭領に隙ができたところを、ぼくたんが目を突っつきますですぅ。目が見えなくなった頭領を、桃太郎さんが倒してくださいませませ。完璧な作戦ですねっ☆」

「おまえ馬鹿か? 犬よりもキジ肉のほうがいいに決まっている。おまえが囮になって食べられろ」


 猿は自分の後ろに犬を押しやると、キジを眼光鋭く睨んだ。


「ケーン! な、なな、なんという非道な作戦! キミには鳥を慈しむ心がないのかね!! ぼくたんを失うのは太陽を失うのと同じくらい、世に損失を与えるのですぅ!」

「そんなわけない」

「あるですぅー!」

「じゃあ、試しにキジ鍋になってみろ。太陽が消えるかどうか見てやるよ」

「桃太郎さぁ〜ん! 猿がいじめるですぅー!!」 


 なんてめんどくさい性格。キジは仲間にしないほうがいいだろう。


お地蔵様『キジも必要だよ! 同人誌では、意外と人気だった。仲間に入れてあげて!』


「えぇー……」


お地蔵様『君に秘策を与えようぞ。もにょもにょもにょ』


 お地蔵様から知恵を授けられ、僕は桜の木に登った。

 猿とキジは、言い争いを続けている。


「おまえみたいな調子のいいヤツ、嫌いだ。そのダセー髪型も、反吐が出る。犬くん、こいつが仲間になるなら、俺らは抜けようぜ」

「そうだね。仲間の命を大切にできない鳥とは、行動を共にできないわん」

「ケーン! みんなそうやってぼくたんを嫌って、離れていく。ぐすん」

「泣いているのか?」

「泣いてましぇん!! ぼくたんだって、猿くんみたいな高身長と筋肉ムキムキとワイルドフェイス、嫌いだぁ! 犬くんの、みんなに愛されるきらきらオーラも嫌いだぁ!」

「羨ましいのか?」

「ぜーんぜん! 厚い胸板とか、愛されオーラとか、全然羨ましくないですぅー!」


 僕は桜の木から降りると、三人に告げた。


「これから、きび団子争奪戦を行う。あの桜の枝にかけてある袋には、きび団子が入っている。袋を取った者が、鬼退治に行く仲間を選ぶことができる」

「わんわん! ボク、桃太郎さんと猿くんと三人で行く!」

「ウッキー! 桃太郎さんと犬くんと三人で行くぜ!」

「ケーン! 桃太郎殿とぼくたんで乗り込むのでありますぅ!」


 犬と猿は、コソコソと相談を始めた。キジは、寂しそうな目でそれを見ている。

 僕は落ちていた木の枝を使って、地面に長い線を引いた。


「三人とも、この線の前に立って。僕が、よーいドンって言ったら走るんだよ」

「わおーん! 了解です」

「ウッキー! 興奮するぜ。やってやる!」

「ケーン! ぼくたんの身体能力の高さに平伏すが良いですぅ」


 三人は、線の前に立った。真ん中は犬。左に猿。右はキジ。


「よーい……ドンっ!!」


 すばしっこい猿がいち早く飛びだし、キジは翼を広げた。


「ケケーン! 空をひとっ飛びするですぅ」

「そうはさせないわん!」


 犬はキジの両足を掴むと、踏ん張った。キジは飛び立つことができない。


「卑怯なりぃ!!」

「桃太郎さんは、卑怯なことをしてはいけないと言っていない。これも作戦だわん!」


 犬と猿がしていたコソコソ話は、木登りのできない犬がキジの足を掴んで時間を稼ぎ、その間に猿がきび団子を取るというもの。見事な連携プレーだ。

 キジは、鋭く一鳴きした。


「ケーン! こうなったら、おまえごと飛んでやるぅ!!」


 キジは力強く羽ばたいた。小柄な犬の体が、宙に浮く。


「わわっ⁉︎ ボク、高いところ苦手ー!!」


 地上戦と空中戦が始まった。

 猿は木登り上手。身軽にスルスルと登っていく。だが、キジだって負けていない。滑降して、一直線にきび団子を狙う。

 犬は落ちたら死んじゃうと泣きべそをかきながら、キジの足に必死にしがみついている。

 猿の長い手が、きび団子の入った袋へと伸びる。キジのくちばしが、袋を掻っ攫おうと狙いを定める。


 猿の手とキジのくちばしが、あともう少しで袋に届こうかというとき——。


 

 


 

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