ep10.紅月と交わす契り feat.小夜

「しっておるか? サヨ。今宵の満月は、特別なんじゃぞ」


日傘を片手に、血の入ったペットボトルを口に運びながら言う。

彼女ーソルー・ルシェは、かつてうちに行くべき道を示してくれた恩人である。


元四天王であり、吸血鬼でもある彼女は、今もなお国や村を放浪して、足りない資材や道具を配りに行っているらしい。

自然と音沙汰もなくなったのに、あの一件からこうしてよく顔を見せにくるようになった。


「月なんて、いつ見ても同じでしょう。何が特別なの?」


「相変わらず可愛くないのう。そういうのはマヒルだけかと思っておったが、似たもの同士惹かれるものがあったということじゃな」


「悪かったわね、可愛げがなくて」


「なんでも、惑星と月が重なって、赤く輝くそうじゃ。50年に一度しかみれんといわれておって、人間達はこぞって楽しみにしておったわ。中でも巳胡と言ったら……結婚記念日と重なったと騒いでおったわ」


「ああ、それであんな伝達が届いたのね。単なる偶然で騒げるなんて、あの人らしいわ」


彼女の言葉に、朝一番に届いた伝達を思い出す。

今日は仕事はしなくていい。それぞれ、好きなように夜を過ごしてほしいと。


彼らの結婚記念日は毎年、異国の人や他族長を招いたりで盛大なパーティーが催される。

うちら四天王は嫌でもそれに護衛やおもてなしや仕事が回ると思っていたのだが、それすら彼女達は覆してきた。


赤い月をみたい人にと、気をまわしたのだろうか。

そんなものあると知ったところで、うちは興味すらわかないと言うのに。


「そういえば、赤い月には伝承があってのう。せっかくだから教えてやろう。奴と見る時に参考にするとよい」


くつくつと、彼女が笑う。

その伝承が何を意味するかすぐにわかったうちは、すぐに海の中へと戻って行った。





「足場、不安定だから気をつけて。危ないから、あたしの手、掴みなさい」


凛とした、頼もしい声がする。

上から差し伸ばされる手を掴むべきか悩んでいるうちに、強引に彼女は上へと引き上げてくれた。


「ほら、みなさいサヨ! ロケーションバッチリ!!」


マヒルが、自慢げに笑う。

空に浮かぶ赤い月に、うちは思わず感嘆の声を上げた。


ルシェに言われて数時間後、うちは今月を見るために彼女ーマヒルと共にいる。

街中は人がたくさんいて、見えるものも見えないという意見から、マヒルはとんでもない場所に連れてきた。

普通の人では入ることすら、選択肢にすらできない場所ー魔王城の屋根の上である。


「しかし、魔王城の屋根の上で見る、なんて思い切ったな……四天王とはいえ、さすがにバレたら怒られないか?」 


「いいじゃない。こんなことできるのも四天王の特権なんだから、使わないだけ損ってもんよ!」


「魔王様のことです。もしバレたとしても、きっと許してくださいますよ」


ちなみにここにいるのは、マヒルだけではない。

ユウナギ、アサカ。つまり、四天王全員だ。

何故彼女達に声をかけたのか、自分でもよくわからない。

ただ、なんとなく。ルシェに話を聞いた時、四人の顔が浮かんだ自分がいてー


「しっかしあいつらもよくやるわよね。毎年やってた祭典を、たかが月一つで中止にするなんて。なーーにが二人だけで過ごしたい〜よ! あのバカ夫婦!!」


「まあまあ、そう言うなって。せっかくの記念日なんだ、二人だけで過ごしたいんだろ」


「ユウナギ様のおっしゃる通りです。この赤い月には、伝承がありますからね。恋人と過ごしたい気持ちも、わからなくはないかと」


「はぁ??? 伝承? 何よそれ」


「なんでも、赤い月の日に流れ星を見たものは、どんなことがあっても一緒にいれるといわれています」


知っていたのか、とすら思ってしまう。

その話自体ルシェから聞いただけだし、うち自身ろくに信じちゃいない。

それでも、街にいた人はそう言う人ばかりだった。

きっとそうでもして、一緒にいたいと思う相手がいるから。


「……知ってたのにきてくれたのね。断ってくれても全然、よかったのに」


「何言ってんだよ。いつも一人を好んでたサヨが、自分から声かけてくれたんだ。断るわけないだろ?」


「私も同じです。驚きはしましたが、たまには、皆さんと過ごすのも、悪くないと思いましたので」


それでも声を掛けたのは、彼女達と一緒に見てみたいと思った自分がいたからである。

四天王なんて、ただの仕事。

少しの時間しか一緒にいない人達と、仲良しこよしなんてする必要すらない。


むしろ、するだけ無駄だとさえ思っていた。うちと彼女達とじゃ、流れる時間も、生きてきた道も、何もかも違うから。

それなのに、こうも変わるなんてー


「それに、そのような伝承に頼らずとも、アミとは十二分にラブラブです。ご心配なく」


「こんなとこまで惚気るなんて、さすがね。あたしはびっくりしたわよ、あんた達とみたいって言われた時は」


「ま、まあ二人の時間を邪魔するのは気が引けだ……でも、本当よく誘ってくれたよな。サヨだって、その伝承知ってたんだろ?」


「……賭けて、みたかったの。もし星に、あなた達と共に生きたいと願ったら……うちは、どのくらいあなた達と一緒にいれるのかって」


人魚の一年は、人の何倍も長い。

自分たちにとっては少し前くらいでも、人間にとっては十数年前も昔のことになる。

それを知ったところで、うちにとっては興味もないし、関係ないとさえ思っていた。


あの日ー村が滅んだ時は、いつ死んでもいいと思っていた。

それが今では、いれるだけ……願わくば、ずっと一緒にいたいとさえ思う。

この差は、一体なんなのかしら……


「はぁぁ〜あんたって本当バカね。そんなこと、願う必要なんてないじゃない」


「……そんなことって、あなた……」


「あたしは最強無敵のマヒル!! 例えどんな事があったって、あたしは死なないわ!! ずっとずっと、あんたの隣にいてあげる! 離れてなんかやらないんだから!!」


月の下、ふふんと胸を張る横顔。

その顔が、声が、どこかの誰かと重なってー


『大丈夫だよ、サヨ。サヨが一人になることなんて、ぜぇぇったいない!! だってみんな、サヨのこと大好きだもん! いざってときは、私がなんとかするよ!!』


彼女ーリンは勝手だ。

この先どうなるかわかってもないのに、大丈夫だと言葉を投げかける。

それでもなぜか、不思議と安心してしまう。

少し前までは、小言がうるさい子供だと思っていたのに。

不安な思いの方が強いはずなのに、リンの言葉を思い出すだけで、なんだかホッとしてしまいー


「別に願わなくても、オレは一緒にいるよ。四天王である以上に、友達だって思ってるしな」


「一生はさすがに難しいですが……そうですね、アミがいない時はお付き合いいたしますよ」


「揃いも揃って物好きね。じゃあ、もしあなた達がうちより早く死んだら、未来永劫恨んであげるわ」


「おっかないこと言うなぁ〜ま、サヨらしいけどさ」


「成程。誰が一番最後まで生き残るか、競争というわけですね」


「いいわねそれ! なら、この月が次にみれる50年後に、またここでみましょう! 誰一人かけることなく、四人で!! 絶対よ!」


その約束が、果たされるかなんてわからない。

きっとその頃には四天王ですらないかもしれなし、誰かいないかもしれない。

けれど今は、その可能性に賭けてみたい。

人生なんてどうでもいいと思っていた自分に、生きる価値を与えてくれた人達だからー


「ええ、約束ね」


四つの小指が、重なる。

うちらを見渡す空には赤い月と、一つの流れ星が地上へと流れ落ちていたー


fin


おまけの裏話

ユサ「ふふ……不思議なものだね。種族も経歴も違うのに、こうして共にいるなんて( -ω- `)」


アミ「本当だよねん〜付き合ってる相手が、四天王同士ってだけなのにウンウン(( ˘꒳˘))゛」


ルシェ「……すまんのう、お主らの相手をとったみたいな形になってしまって」


アミ「全然。もともと月を見る気はなかったし、それに……あれを見る方が、なかなかに面白いと思うからねん」


リンネ「えっもぉぉぉ!!! 何この四天王!尊すぎ!!(´;ω;`)」


ルシェ「あの娘は本当に面白いのう。月ではなく、四天王の様子を見ようと言い出すとは」


ユサ「さすが、ナギ達を繋いだ子猫ちゃんだ。お茶が入ったよ、1つどうだい?」


リンネ「いただきます!!(T^T)」


みんなで四天王鑑賞会 withリンネ


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