第9話 二次元に勝てる三次元、いる?
市の東を走る右京山から日が昇り、市を赤く照らし出す。アパートの窓を開けて日差しを浴びながら、新谷は軽く伸びをした。
新谷の住むのは、東西南北にまっすぐ伸びる道路が碁盤の目のように敷かれた地方都市。
盆地になっていて山にぐるりと取り囲まれているため夏は蒸し暑く冬は底冷えがするが、風情があるために観光都市として栄えてきた。
実家から通える国公立の大学も考えたが、一度きりの大学生活。歴史小説で読んだあこがれもあり、C判定で幸運にも合格した座命館大学に進学を決めた。
ぼろいアパートに住むのは、一人暮らしを許してくれた親の金銭的負担を少しでも減らすためと。
「エロゲを家族に見つけられる心配がないからなあ」
昨日クリアしたエロゲ、「アンサマ」のパッケージを見ながら新谷はこぼす。田舎の海沿いの町を舞台にした純愛ゲーだ。
アンサマを発売したメーカーはシナリオが笑えて鬱展開もないので気軽にプレイできる。新谷が科長になった十年後には会社発足二十年を迎える、老舗メーカーだ。
この時代にはエロゲはダウンロード販売がないため、A4サイズの辞書並みのサイズがあるパッケージを買うしかない。実家の部屋に隠しておける量など、すぐに超えてしまう。
新谷はそんなことを考えながら、とりあえず大学に行く。
何度目になるかわからない大学の校門を抜けると、周りは十代後半から二十代前半の男女ばかり。
社会人になって会社に入れば、周囲の年齢が二十代から六十代となる。決してあり得ない光景だ。
だが同時に、ふと思う。
彼女が、結婚相手が欲しいとは思っていた。同期が先輩後輩とゴールインするたび、職場の看護師と良い仲になるたびに、祝福しながらも妬んでいたのも事実だ。
だが。
こうして大学生に戻ってくると、女子に対する苛立ちがよみがえってくる。
自分のような地味系男子を見るたびに彼女たちの目に宿るあざけりの感情。
おごられて当然、おごらない男子はクズ、おごる時もスマートに会計すまさない男子はクズという産業廃棄物同然のクソ女ども。
社会人とくに病院という職場では女性はある程度落ち着いたメイクが、大学生では濃い。濃いを通り越して気持ち悪い。
香水かコロンか、甘ったるくて不愉快な香りがそこらに満ちている。
彼氏の家から直接登校してきたというのを隠そうともしないのか、乱れて乾ききっていない髪に不自然な歩き方をする女子を稀に見かける。
男子校出身の新谷が大学で出会った大部分の女性に抱いたのは、異性への憧れでなく恐怖と嫌悪。
『二次元に勝てる三次元、いる?』
新谷は二千二十五年にアニメ化もする、とあるエロゲのヒロインの名言を思い出す。
「翔太―。女子ってどこがいいの? なんだかよくわからなくなってきた……」
早速ラインで新谷は翔太に愚痴ってみる。
前回の時間軸では友達同士でも下手なことを言って嫌われたらどうしよう、いじめの原因になったらどうしよう、気づかないうちにハブられていたらどうしようと思ってなかなか積極的な会話に乗り出せなかった新谷。
だが十年もリハビリ職という様々な人種に接してきた経験のたまものか、会話スキルがだいぶ磨かれてある程度安心して人と話せるようになった。
スマホが震動したので手に取ると、さっそくメッセが帰ってきていた。
『お? お前もそういう話するか。 今日の昼メシで熱く語り合おうか!』
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