第31話 エウボニア人の生き残り
大きく息を吸って吐き心を鎮めるとテニアスはくるりと踵を返してエウボニア人の生き残りに声をかける。
「大人しくついてきてくれると手間が省けるんだけど。さもなきゃまた抱えあげられることになる。どっちがいい?」
目の前で繰り広げられた戦いで実力差を思い知らされた小柄なエウボニア人は鋭く剣を振って鞘に収めるデュラハンにチラリと視線を向けた。
諦めたように頷く。
「もう、ナイフも無いし、抵抗しても無駄だろ?」
テニアスは動きだそうとしてあることを思い出した。
「ねえ、魔法のかかった地図持ってるでしょ?」
そう聞きながら手を出す。
エウボニア人の生き残りは素直に懐から紙を取り出した。
紙には灰色の線でここまでのダンジョンの形状が書き込まれている。
テニアスは紙の端を持つとカンテラの覆いを開けて火を移した。
紙はぼっと燃え上がり細かな燃えカスとなって地面に落ちる。
「これ、他の地図と連動しているよね。どうして教えてくれなかったの?」
「そうなんだ? 私は自動的に周囲の形状を書き込んでくれるとしか聞いてなかった」
地図を作るために使い捨ての駒として使われただけか。
テニアスは納得すると歩き始めた。
デュラハンが迫ってくるので生き残りのエウボニア人冒険者も慌ててテニアスを追いかける。
扉を抜け広い部屋から通路に入るとすぐ左に折れていた。
「どこまで行くの?」
「そんなに遠くない」
テニアスが答えてしばらく進む。
通路の途中に赤く光を放つ魔方陣が見えた。
さらにその奥には上への階段が見える。
エウボニアの冒険者は首を傾げた。
「これ、踏んだらまずいやつでは?」
「ただの転移床だよ」
「どこに通じているの?」
テニアスは答えずカンテラを差し出した。
「行き先も分からない転移床に乗れっていうの?」
「ダンジョン探索ってのはそういうもんだよね」
「まあそうですけど」
冒険者はテニアスを睨みつける。
溜息をつくと諦めてカンテラを受け取り足を踏み出した。
その瞬間小柄な姿が消える。
それを見届けるとテニアスは踵を返して歩き始めた。
これまで黙って成り行きを見守っていたシャーガルが驚きの声をあげる。
「ねえ、どこに行くのさ? あの子追いかけないの? 転移床はマスターには反応しないから管理室経由で移動するのかと思ったけど」
「どこって、さっきの戦闘があった場所さ。遺体と装備品を回収する。貴重な資源だからね」
「あの冒険者、ほったらかしにされて怒るんじゃない?」
「まあ、それは仕方ない。物事には優先順位ってものがある」
戦闘現場に戻ると鍵を取り出し管理室への扉を作った。
デュラハンに遺体を回収して保管庫まで運ぶように命ずる。
固まりかけた血はまだ鉄のような臭いを漂わせていた。
しかし、先ほどのような血への渇望を覚えないことにテニアスはホッとする。
遺体を運び終わるとデュラハンにほうきを使って集めたスケルトンの骨を手押し車で運ばせた。
それを見守る間にテニアスはシャーガルに礼を言う。
「さっきは魔法で支援してくれてありがとう。スケルトンが粘れたのは何か支援のための魔法を使ったんだろ?」
シャーガルは飛び立って正面で向かい合うと思い切り得意そうな顔をした。
「まあね。力と素早さを上昇させる支援魔法を使ったよ。凄いでしょ?」
「ああ、大したものだ」
「マスターも冒険者と直接対決するならこれぐらい身につけておいた方がいいと思うよ」
「あまり積極的に前線に立つ気はないんだけど。スクロールだって安くはないし、他に先に手に入れたいものもあるからさ」
「でも、いずれはこの国の王と対決することになるんでしょ?」
確かに将来トゥレボニアンと戦う際にはモンスターだけに任せるよりも臨機応変の対応ができる分効率が良いはずである。
「そうだね。まあ、考えておくよ」
デュラハンの作業が完了したのでテニアスは一緒に中に入った。
倉庫へ向かうデュラハンを見送ると管理室に入り真ん中のテーブルへと近づく。
テーブルの上の設計図をめくった。
第4層のページが開き壁に描かれる図形も形を変える。
渦巻き状となっている壁の真ん中にある円形の場所に小さな赤い点が1つだけ表示されていた。
すぐ近くの場所に鍵で触れるとテニアスは扉に向かう。
「マスター、ちょっと待って。デュラハン連れていかなくてもいいの?」
「たぶん大丈夫じゃないかな」
「ちょっと気を許しすぎ。マスターは自分でどう思っているかは知らないけど、もう人間じゃないんだよ。それに向こうはどう思っているか分からないじゃないか」
「でもデュラハンがいると怖がらせると思うんだよね」
「イイじゃん、怖がらせておけば。障壁膜に穴が開いている状態なんだし、用心にこしたことは無いよ」
さっと飛んできたシャーガルが通せんぼをするように空中に浮かんだ。
「やり過ぎな気もするけど……」
ぼやきながらもデュラハンを呼び寄せる。
シャーガルはテニアスの肩に乗った。
「私も行くからね」
テニアスはチラリと横目で見たが何も言わず扉を開けた。
外に出るか出ないタイミングで声が響く。
「遅い! 何をやっているのよ?」
今まで放置されていた間に元気を取り戻したかのようにエウボニア人は大きな声でなじった。
ただ、その声はちょっと乱れ、足が震えている。
テニアスは困った顔をした。
「私にも都合があるんだ。これでも精一杯急いできたんだぜ」
「そう。それで、こんなところに私を連れてきてどうするつもり? 頭からむさぼり食う?」
「そんなつもりはないよ。言っただろ。私もエウボニアで生まれ育ったんだ。だから君が死ぬのを見過ごせなかっただけさ」
「そんなことを言っても騙されないから。他の5人は大きな犬に食わせたじゃない」
「あれは事故だよ。私はダークバウンドを支配下においているわけじゃないんだ」
「首無し騎士に命じているのに? 聞いた話ではあの犬よりもずっと強いはずよね?」
「そうなんだけど、違うんだよ。犬の方は呼び寄せて放しただけというか、僕が支配しているわけじゃないんだ」
「ふーん」
エウボニア人はあまり信じていなさそうな相槌を打つ。
「それで私に何をするつもり? 食べないんだったら、モンスターの苗床にでもするの?」
「は? なんて?」
テニアスは予想だにしないセリフに素っ頓狂な声を出した。
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