第25話 報酬
表記としてはたった数字がプラス1されているだけであるが、店で買おうとすると価格は跳ね上がる。
一般的なショートソードは店で購入すると300ラウルの値段というのが相場であるのに対し、プラス1のものは1000ラウル以上になった。
自分の安全のためにも高品質なものは喉から手に出るほど欲しい。
サイズが合わないか何かの制約で使うことができないものであれば、そこそこの値段で店で売ることもできた。
高品質な品は冒険者には好評だが、ダンジョン管理者からみれば敵に塩を贈るようなものである。
今までのダンジョン管理者は回収したものをそのまま置いておくことしかしていない。
珍しいもの、高価なものを求めている冒険者の心理に着目したのは、商売をしていたテニアスならではの視点であった。
新人冒険者の欲を刺激することに成功し、今までの被害に二の足を踏んでいた者も熱心にジャグラットの迷宮を目指すようになる。
このため、ダークハウンドにより第2層で全滅したパーティのような者がときおり出ても影響は少なかった。
新人冒険者が多く入ってくるという評判が異世界に広まり低級の魔物からダンジョン利用の申請も出るようになる。
こうしてゴブリンやオークなどの人型モンスターもダンジョンを徘徊し始めた。
モンスターの利用は滞在時間当たりの単価で賦課される。
前払いなので冒険者を倒そうが倒されようがテニアスが手に入れる金額は変わらない。
こうして安定した収入を得られるようになっているが、初心者の遺体や安い装備品の回収を疎かにはしなかった。
この辺りは1ラウルの利益を出すのにどれだけ苦労するかということを商売を通じて学んでいたことが役に立っている。
商人だった経験は博打を打つような手段を取らないということでも意味があった。
少しまとまった資金ができると派手なことをしてみたくなるものである。
その点は人間も魔人も変わらなかった。
今までは手が出なかった強力なモンスターを有り金をはたいて購入したり、ダンジョンの装飾に凝ったりする。
その投資が新たな収入につながればいいが必ずしもそうではない。
強力なモンスターも人間側に対策されると意外とあっさりと倒されることもある。
格上の相手を倒しそのエネルギーで強化された冒険者は今までの備えでは手に負えなくなった。
そしてダンジョンの床が剥き出しの土だろうが大理石だろうが冒険者は大して気にしない。
グレーターデーモンは派手好きなところがありダンジョンを飾り立てることを好む。
その点、テニアスは管理室の環境整備にすら無頓着だった。
管理を引き継いだときからそのままの倉庫の一角で呪文書を片手にもにゃもにゃ呟いていたテニアスが喜びの声を上げる。
目の前には杖-3という珍品ができていた。
何事かと飛んできたシャーガルにテニアスはできあがったものを指し示す。
「見てよ、これ。こんなに見た目は良さそうに見えるのに実際は呪われた品なんだよ。これで叩いても派手な音がするだけで全然ダメージが入らないし、手にしている時の呪文の失敗率が60パーセントも上がる。当然、解呪しないと他のものは装備できない」
「なんてもの作っているのさ。そんなもの手に入れた冒険者が喜ぶと思ってるの?」
「凄くガッカリするだろうね。でも、数本の質の良いのを出したからさ、たまにはこういうのも混ぜておかないとね。毎回良い物が手に入ると有り難みがなくなるだろ」
「はあ、そういうものなのかな」
「人間は他人と比較するからね。まあ、これを手に入れた冒険者もしばらく酒場での話のネタには困らないだろう。だってマイナス3だよ。ある意味とても珍しい品さ」
「マスターが喜んでるならいいけど。どこに置いておくの?」
「それはこれから考える」
管理室に戻るとジャグラッドの町から冒険者がやってきているとの警告が出ている。
これは新しく導入した機械だった。
「それじゃ、早速置いてこよう。あ、私の魔力が足りなそうだ。仕方ない今回は諦めるか」
侵入してきた冒険者は着実な歩みで進んでいく。
明るくなっている通路で隠し通路から出てきたゴブリンと戦闘になった。
もう2回目の探索であり着実に成長しているパーティだったことが、ゴブリンにとっては不幸な出会いとなる。
6体も居たのにも関わらず、前衛の1人に浅手を負わせただけで全滅した。
神官が声をかける。
「傷を治しておきましょうか? 1回使える回数も増えてますし」
「いや、魔法を使うほどの傷ではなさそうです。この先のために取っておいてください」
「いえ、ここは慎重に行動すべきです」
神官が治癒魔法を使うと一行はゴブリンが潜んでいた部屋に入っていった。
「いやあ、待ち伏せの襲撃者を潜ませるための部屋と普通は思うよな」
「まさか、奥の壁にさらに隠し通路があって、その先に階段があるとか思わんよなあ」
「ホント、あるのが分かっていて、こんだけ近づいて目を凝らしても分かんねえもの」
「発見したパーティには腕のいいシーフがいるんだと」
「え? 魔法使いが2人もいらないから俺とトレードとか寒いこと言うなよな」
そんな会話をしながら隠し通路を抜けて向こう側に通り抜ける。
その奥に見える階段にリーダーは口笛を吹いた。
「ようやく実際に第2層に下りることができる階段とご対面ってわけだ」
「入口すぐの階段はまだ使えないからな」
階段を下りた小部屋の扉は開錠キットを使って開ける。
目の前に広がる広い空間を前にすぐに魔法の明かりを灯した。
カンテラでは見ることができなかった範囲が視界に入ってくる。
かなり大きな部屋の隅にいることが見て取れた。
向かって右手に伸びる壁は魔法の明かりでも光が届かない闇の中に消えているが、左側の壁の先は直角に曲がった壁にぶつかっている。
大事なことはその壁には木でできた扉がついていることだった。
広い空間では前方だけでなく側方や後方から包囲されないように気を付けなければならない。
このパーティメンバーは慎重な性格をしているだけにそのことをよく理解していた。
また、自分たちの実力が第2層に見合うかという点についても慎重である。
先ほど倒したゴブリンたちは身体等の強化に寄与しない。
ダンジョンを出て1晩寝るまでは効果を発揮しなかった。
このパーティの今までの戦果は泡立つスライムと大ネズミを倒しただけである。
まだ強くなっているという実感を欠いていた。
魔法の明かりが届く範囲にダークハウンドの姿を発見するとリーダーはあっさりと撤退を宣言する。
後衛から粛々と扉を開けて小部屋に撤退した。
一番最後になったリーダーはダークハウンドの鼻先で扉を閉める。
ガリガリと爪で引っかく音が響くが、人型ではないモンスターは扉を開けて入ってくる心配はなかった。
「黒ずんだ体毛で鋭い爪と赤く燃えるような目。きっとあれはダークハウンドだね。撤退して正解かな」
男性魔法使いが評する。
リーダーは振り返った。
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