第23話 ひっかけ問題の後
管理室の機械から聞こえてくる焦りを含んだ声からも1人にウッドゴーレムの攻撃が直撃したことを示している。
ウッドゴーレムは購入価格が高いだけあってそこそこに堅い。
その耐久性を生かして肉薄し攻撃を受けつつ反撃するという行動を取ることができた。
初心者の戦士ではなかなかウッドゴーレムが行動不能になるような打撃を与えることは難しい。
斬りかかって表面に軽傷を負わせることができても、その瞬間に至近距離から重い一撃を食らってしまうことになる。
残った2つの赤丸がウッドゴーレムを示す青い三角に近づいたり離れたりをしていた。
ヒットアンドアウェイに切り替えたということらしい。
ウッドゴーレムの後方をちょこまかと素早く動き回る点もある。
全く動かなかった印の側に別の赤丸が寄り添ったというように見えた。
すぐに2つの丸が一緒にウッドゴーレムから離れるように移動する。
これは神官が倒れた戦士を引きずっていき初級の治癒魔法をかけていることと想像できた。
初心者ながら連携のとれた動きをしている。
ウッドゴーレムはテニアスが事前に与えた指示に忠実に動いているが、仲間を助けようとする神官を先に攻撃するというような複雑な判断までは無理だった。
「あー、これは勝てそうにないな」
テニアスは独り言を漏らす。
それとほぼ同時に青い三角が消滅した。
すべての赤丸は武器が届く距離に位置していない。
どうやら魔法でウッドゴーレムを倒したということが推測された。
シャーガルが残念そうな声を出す。
「倒されちゃったみたいだね。でも、どうやって倒したんだろう? 初級の魔法じゃウッドゴーレムを1撃で破壊するなんて難しいはずなんだけど」
「そうだな。火球の魔法じゃそんな破壊力はない。なにか小細工をしたんだろうな。後方をうろちょろしていたシーフが何か工夫をしたんだろう。あいつらが引き上げたら確認しに行くさ」
「それにしてももったいないね。大ネズミよりもずっと高い値段がしたのに」
「まあ、それは仕方ない。今回は探索が進んだことで良しとするよ。まあ、ウッドゴーレムは新品を買うより安い価格で修理してもらえて再利用できるからね。それに簡単な指示には従ってくれる。そういう意味ではお買い得だよ」
そう言いながら、テニアスは頭の中で損得を冷静に計算した。
ウッドゴーレムが機能を停止してくずおれる。
冒険者たちは歓声を上げた。
その興奮が落ちつくと奥の扉に期待に満ちた視線を向ける。
「たぶん、あの扉の先には第2層への階段があるはずだよな。確かめてくれないか?」
リーダーが発言すると女盗賊は扉に近づいた。
近くから観察し、最後は扉に触れてみてから女盗賊は立ちあがる。
仲間を振り返った顔は憤然としていた。
「くそったれ」
小さく吐き捨てる。
「どうした? 開けられそうにないのか?」
リーダーが1歩近寄り問いかけた。
「ああ、誰にも開けられないだろうよ。壁に描いた絵なんだからな。ご丁寧にダミーの把手までつけてやがる。しかも罠まで仕掛けてあった」
女盗賊は体を捻ると把手を指差す。
「コイツを把手だと思って捻ると扉ごと吹っ飛ぶことになる。どれくらいの威力かは分からないが酷い目に合うことは間違いない」
女盗賊の説明に冒険者たちはざわめいた。
「だから、あの亡霊は戦いに参加してこなかったのか」
「つまりウッドゴーレムとの戦い自体が意味がないってこと?」
「あの野郎が、引き返した方がいいというのは本当のことを言っていたわけか。くそ。今頃はどこかで大笑いしてるだろうぜ」
「ふざけやがって」
ひとしきり悪口を並べ立てた後に静まりかえる。
「それじゃ、第2層への階段は入口近くのものだけってことなのか?」
女盗賊は首を横に振った。
「それはないな。私の経験からいって、入口近くのものは明らかに上級冒険者用だ。浮遊の魔法は大魔法使いガレオンヌの分類で難易度3になる」
女盗賊は魔法使いの方をチラと見て同意を求める。
魔法使いは首を縦に振って同意した。
「その通りだ。私はまだ難易度2も使えない。浮遊の魔法を使えるのは当分先だろうな」
「難易度ごとに使える回数の上限があるのに貴重な難易度3の魔法をダンジョンに入ってすぐに使うなんてのは贅沢過ぎる。初心者には無理だし、第1層の探索で難易度3が使えるようになるまで成長するのは難しい。絶対に他に階段がある」
女盗賊は自信を持って言い切る。
「よそのダンジョンのことも知っているあんたが言うならそうなんだろうな。で、それはどこにある?」
「あの亡霊っぽい奴は本当のことを言っていると思う。だとすればこの部屋じゃない」
冒険者はぞろぞろと引き返し始めた。
部屋を出る扉の把手のところに小さく文字が掘ってあるのが見える。
ご苦労さん。
煽り文句に冒険者たちはブーイングの声を上げた。
第1層の最奥部で見かけた謎の男とその言動がギルドに報告され、冒険者のやる気に火をつける。
なんとしてでも第2層を踏破してやろうぜ、という声がわき上がった。
侵入してきた冒険者の会話を盗み聞きしてそのことを知りテニアスは満足そうな顔になる。
「ほら、私の悪戯も役に立っただろ? こうでもしなければいつまでも第1層をウロウロしていたんじゃないかな」
そう言いながら視線を向けた壁の額縁の中には第2層の様子が表示されていた。
階段のところにある小部屋には6個の赤丸が密集している。
最初の第2層到達者だった。
シャーガルはうーんという顔をする。
「それならさ、最初から分かりやすいところに階段を設けておけば良かったのに」
「それだと、力ばかりの戦士と攻撃に特化した後衛で編成したパーティがゴリ押ししていくだろ。攻撃力だけなら、戦士3魔法使い3という編成でもいいわけだし。不慮の事故に備えて神官、罠などの捜索に盗賊も入れなければいけないということを学んで欲しいのさ」
「慣れてきちゃえば同じじゃないですか? 第1層はほとんど踏破されちゃいましたよね」
「まあね。だから、色々と配置を変えたりする必要はある。ただまあ第1層にそんなにムキにならないくてもいいかなとも思ってる。とりあえず今は第2層に下りてきた冒険者を歓迎しなくちゃね」
テニアスは壁に描かれる赤丸の様子を見て目を細めた。
***
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