第21話 冒険者の確保
「あんな軟弱な奴らでは全く満足できんぞ!」
ちまちまと探索が進んでいるジャグラッドの迷宮から遠く離れた都にて、トゥボレニアン王が玉座から立ちあがり足で大理石の床を踏みならす。
地下闘技場から戻ってきたばかりなので完全武装状態だった。
6人ものエウボニア人と1人で戦ってきたというのに白銀の鎧には傷どころか返り血1つさえついていない。
トゥボレニアン王が強いというのもあったが、当人の言うとおり相手が弱すぎた。
エウボニアで捕虜となって送られてきた素人では熟練の戦士である王の前に長く立っていることすら難しい。
トゥボレニアン王はシャラリと音をさせながら自慢の佩剣を鞘走らせる。
数々のモンスターを倒してきた刃は天井から釣り下がるシャンデリアの蝋燭の火を反射して妖しく光った。
「この名剣も雑魚の相手ばかりで啼いておる。たまには歯ごたえのある相手を斬らねばせっかくの切れ味が無駄ではないか」
廷臣は抜き身の剣を手に何かに憑かれたような顔をしているトゥボレニアン王の姿に震え上がる。
「申し訳ありません。恐れながら腕の立つ者は既に陛下が……」
「そんなことは分かっておる。しかし、これほどまでに戦い甲斐のある奴が少ないとはな」
「もう、今日戦われた程度の者も居なくなります」
トゥボレニアン王は舌打ちをした。
「虫ケラどもと思って少し殺しすぎたか。このままでは余が戦えなくなるではないか。今後はエウボニア人どもを無闇に殺すことは禁じろ。いいな。ところで、1つ尋ねるが先の戦いで減った親衛隊の補充はどうなっておる?」
話題が変わったことにホッとしながら廷臣は答える。
「はっ。元の定員の8割ほどには戻りましてございます。腕前についてはやや見劣りするところもあるやもしれませんが……」
「ならば、十分だ。それだけ揃っていれば遠征先を選べば問題あるまい。そうだな、次は小国のくせに生意気なジャンバル国に目にもの見せてくれよう。急ぎ親衛隊の派遣の準備をするのだ。なお、戦力の不足分を補うために今度の戦には余も出る」
何のことはない。
トゥボレニアン王が思うさま人斬りがしたいというだけの話であった。
さすがに外聞が悪いとエウボニア攻略の先頭に立つのは諫止されたのを忘れたらしい。
廷臣は比較的大きな周辺国の名を挙げて、都を留守にしないように言上する。
「陛下がご不在のときに変事が起きるやもしれません」
「我が国に挑んでくると申すのか? そんな度胸はないだろう。それに正規軍も厚めに国境線に張りついておる」
「それでは陛下が出陣されるかについてはまた日を改めて議論いたしましょう。その前に親衛隊の補充について気がかりな点がございます。申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なんだ? 遠慮なく言え」
「恐れながら申し上げます。今まではいいですが親衛隊の補充のために中級冒険者まで動員したため、現役の冒険者の質が急激に低下しております。他方では育成を急ぐあまりに初心者がダンジョンに入って全滅することもあり、冒険者になることを忌避する動きもあるようです。この先の親衛隊の補充に支障が出るかもしれません」
「なんだ。そんなことか。心配ない。これ以上の損害を出さなければいいのだろう? 親衛隊の被害を軽減するためにも余が陣頭指揮を取る」
「それはそうですが……。いずれにせよダンジョンと違い戦場は広うございます。人数も多いですし全く損害がないというのは難しいでしょう。この先の補充方法は考えておく必要があります。それに闘技場での陛下の相手も確保しなくてはなりません」
「まあ、それはそうだな。何かいい案でもあるのか?」
「最も深き迷宮を使うことができず、中級以上の冒険者が腕を磨く場所に困っております。聞くところによればダンジョンは中に入った者が多いほどより深く拡充されるとか。生き残っているエウボニア人をダンジョンに挑ませてはどうでしょう? 強くなったら自由にするという約束で」
「なるほど。訓練を積ませた者を地下闘技場に連れてきて、我が相手としてこの世から自由にしてやるのだな。面白い。許す。ただし、反乱を起こされぬようにしろよ」
「はっ。仰せの通りにいたします」
ふはははは。
トゥボレニアン王は機嫌よく哄笑するのだった。
リーレルが同行したパーティが連れ帰った2人の遺体にアークレウス神殿で蘇生魔法が施される。
当たり前のことだが蘇生のための喜捨の額は決して安くはない。
新人冒険者にはそう易々と払える金額ではなかった。
ただ、冒険者育成促進のためにギルドに対して国から資金が交付されている。
一部は支給、一部は貸与という形で蘇生の費用が用意された。
裏口から神殿に運び込まれた遺体は血や汚れを洗い流される。
体表に残る大小の傷も事前に修復された。
ジャグラッドの町の高司祭が遺体を前にしてアークレウス神へと祈りを捧げる。
蘇生魔法は使える者が少ないだけでなく、成功率も高くはない。
また、蘇生魔法という名だが、正確に言えばダンジョンという異空間で強引に引きはがされた魂を肉体に呼び戻す効果を持つ祈りである。
地上で死んだ者に対しては効果が無かった。
そのような制約のない高位の蘇生魔法もあるのだが習得している者はほんの一握りである。
長い詠唱の後、高司祭がアークレウス神の像に頭を垂れた。
戦士の1人は激しく咳き込みながら身を起こす。
ゲホッ、ゲフッ。
どうやら死んだ際に垂れた舌が喉を塞いでいたらしい。
体表は復活のためにきちんと措置されていたが、口内は見逃したということのようだった。
「はあっ、はあっ。死ぬかと思ったぜ」
生き返った男は周囲の人間からするととぼけているのかと思われるようなことを言う。
男は周囲を見回してようやくどういう状況か悟った。
自分が生き返ったことへの反応が薄いことへの不平を口にしようとしたところで気がつく。
男が横たわっていたものと同じ作りの寝台に乗った人型の塩の塊のようなものを皆が鎮痛な面持ちで見つめていた。
これは蘇生魔法に失敗したことを示している。
2人の結果に差が出た理由は分からない。
生前の行いなのか、肉体の損傷程度か、本人の生への執着度合か。
いずれにせよ、1人は生き返り、1人は墓石の下に埋められることとなった。
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