第7話 モンスターファーム

「他に服がないのだからこの格好なのは仕方ないだろう」

「なるほど。では、服の入手方法をお知りになりたいということですね?」

「いや、それは後回しでいい。ダンジョンにおいてモンスターと人間の亡骸についてどうするのが一般的なのかを知りたくて本を開いたんだ」

 小さな生き物はテニアスの首から下がる鍵に目をやる。

「ダンジョンマスターの依頼とあらば……、索引の妖精シャーガルにお任せください」

 シャーガルは書見台の上に浮かび上がると本の中に飛び込んだ。 パラパラと勝手にページが繰られるとピタリと止まる。

 テニアスが覗きこむと、倒されたモンスターの処理について書いてある章だった。

 ダンジョンが不衛生だと疫病の恐れがあるし冒険者に忌避されるとある。

 綺麗に保つためには、なんでも食べるスライムがお勧めという文字にアンダーラインが引いてあった。

 『低コスト、勝手に増えるといいこと一杯』というお勧め文句も踊っている。

「ねえ、読みにくいんで文字を動かすのはいらない」

 テニアスが言うとクネクネした文字が止まった。

「次は倒した侵入者の処理方法を知りたい」

 ページがめくられ今度は倒した冒険者についての情報が得られる。

 回収できればアンデッド系などのモンスターの素材として再利用が可能とあった。

 ただ、死体は重く運ぶのが大変とも書いてある。

 しかも、その割には、高等な魔法を使わないと元の能力より低いものにしか生成できないらしい。

 ダンジョンの構成次第だが、あまり冒険者の再利用は効率が良くないとあった。

 一方で装備品は回収をお勧めするとある。

 宝箱を配置し中に報酬を入れておかなければダンジョンに冒険者を集めることができない。

 どんなものでも宝箱の中に入れておけば冒険者を引きつける餌となるようだ。

 さて、どうしたものかと考えているとシャーガルが本から飛び出してくる。

「マスター、他に何が知りたいですか?」

「遺体と武器を運んでこようと思うんだけど私は力がないから大変だなと思って」

「そんなの魔法で転移させちゃえばいいじゃないですか」

「魔法が使えればね」

「なるほど。荷役用のゴーレムを雇うとか? あ、ゴーレムは結構お値段が高いかも。倉庫に何か役に立ちそうなものがあるんじゃないですかね」

 なるほどと納得したテニアスは書斎を出て倉庫を見にいった。

 片隅に掃除道具と一緒に1輪の手押し車が置いてあるのを見つけて、ついてきたシャーガルは得意げに胸を反らして明滅する。

「できたばかりのダンジョンは何かと不足しがちです。とりあえず運んできちゃったらどうでしょう。遺体保管場所にはまだまだ余裕がありますし」

「シャーガルは運べないの?」

「この細腕で運べると思います?」

 テニアスはやれやれと首を振ると1度管理室に戻った。

 兵士の遺体の近くの場所に鍵で触れる。

 倉庫にもどり、そこの扉から手押し車を押して出ていった。

 死体を乗せるのに苦労するが、それでも3往復して全ての遺体を運ぶ。

 管理室に戻ったテニアスはふよふよと浮かんでいるシャーガルに質問する。

「お勧めされたスライムはどうしたら入手できるんだろう?」

「そういう具体的な方法はこの本に書いていないですね。どこかにそういう実務作業とか連絡先をまとめたものがないでしょうか?」

 テニアスは書棚をながめ、次いで近くの平台の上に置いてある機械の近くにぶら下がっている薄い冊子を手に取った。

「これかな?」

 シャーガルは開かれた冊子にダイブするとすぐに出てくる。

「大正解。この機械の使い方と連絡先です。数字のボタンを押せば対応する場所と話ができますね。低級モンスター育成所は15番から20番。15番なら1の次に5を押して最後に鈴の絵のボタンです」

「そう……」

 しばらく管理室を沈黙が支配した。

 テニアスにとっては見たことも聞いたこともない機械である。

 遠くと話すことができる魔法が使われているようだ。

 ダンジョンの様子が表示される壁といい、人間の世界よりも高度な魔法技術が使われている。

 シャーガルがテニアスの周りをぐるっと1周して目の前に戻ってきた。

「連絡しないんですか?」

「何体ぐらい必要かとか、いくらするのかとか全然分からなくて」

「それも聞けば?」

「そうだね。できれば相場感が分かっていた方が交渉事にはいいんだけど仕方ないな」

 テニアスは興味津々で初めて見る機械に触れシャーガルから聞いた通りの操作をする。

「まいど! ご連絡ありがとうございます。アーコギ・モンスター・ファームです。ご注文ですか?」

 いきなり機械から元気な声が聞こえてきた。

「えーと、その前に価格を教えて欲しいんだけど。スライムっていくらかな?」

「ということは初めてのお客さんですね。うちの価格表送りますよ。そちらの番号は?」

「えーと」

 テニアスが見回すと機械の上の壁に119という紙が貼ってあった。

 番号を伝えると得心がいった声がする。

「あ~、新しく作ってるダンジョンですね。それで、新規にスカウトされたダンジョンマスターさんってわけだ。いくつかある中でうちを選ぶとはお目が高い。それじゃ価格表を送ります」

 ポンと気の抜けた音がすると空中に現れた紙がフワフワと浮いていた。

 テニアスがその紙を手に取ってみると文字と数字の羅列が表示されている。

 左端にモンスターの名前、その横に1体の価格、12体のセット価格が組になった表が左右に2列でびっしり書かれていた。

 文字や数字を見るのに慣れていない人だとそれだけで嫌になりそうである。

 シャーガルが飛んできて一緒に覗き込んだ。

 テニアスが表のモンスター名に指を走らせる。

 スライム類の欄だと数種類の名前が書いてあった。

 名前から判断するにノーマルのものから強酸性の体液を持つものまで取りそろえてあるようである。

「泡立つスライムが安いけどどうです? ただのスライムよりはセットで6エキュ高いけど通常価格よりはお安くなってます。とりあえずダンジョンに放つなら1セットもあれば数は十分かな。そうそう、泡立つスライムなら即時発送できますよ」

 機械から期待に満ちた声が聞こえてきた。

「じゃあ、それでお願いします」

「え? 即決?」

「はい。そちらの都合もあるでしょうけど、継続的な取引の可能性がある新規客に対して阿漕あこぎな商売はされないでしょう?」

「もちろんです。それじゃ、代金を通話機の前に置いて」

 テニアスは銅貨を指示された文様の上に乗せる。

 それが一瞬にして消えたと思うと代わりに筒状に丸められ紐でくくられた紙が乗っていた。

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