第63話 虚飾は魔剣の始まり




「ヘヘッ。どうだ、ビビったか」




 俺はレイエルを見下ろしながら言い放つ。

 レイエルは今、水路の方に佇んでいる。イリテュムより放たれた突風に体を浮かされ、吹き飛ばされたからだ。


 しかし、イリテュムはただの鉄の剣。

 風魔鉱石のような特殊な素材を使っているわけではない。悲しいことに俺自身も〈風魔法ベント〉は扱えない。


 ならばどうして風が生まれたのか?


「イリテュム」


 俺が呼びかけるように魔力を流せば、再びイリテュムに変化が訪れる。

 フィクトゥス同様、〈虚飾〉の〈罪〉が宿った罪器はみるみるうちに変形し、その見た目を透き通る結晶のような短剣と化した。


「──凍れよ」


 変形するや一閃。

 すると魔力が流された刀身から冷気が迸り、レイエルの立つ水路を瞬く間に凍結させていく。


 これにもレイエルは無表情を貫くも、危機を悟ったのか咄嗟に跳躍して水路から抜け出した。


 だが、ここまでは予想通り。


「そーれッ!」


 今度はイリテュムを一振りの槌へと変え、水路の床を叩いた。

 打ち砕かれる石畳に魔力の光が溢れ出す。


 次の瞬間、魔力を帯びた石畳が二本の巨腕と化し、宙に佇むレイエルに向かう。

 これにはレイエルと言え反応に遅れ、一瞬の隙を狙った巨腕が彼の体を捕縛した。


「ッヒュ~♪ 良い感じじゃ~ん。このまま……」

「──」

「っと……そう簡単にはいかないか」


 岩石の巨腕に掴まれていたレイエル。

 常人なら脱出不可能な状況に置かれるも、彼の両手から閃光が迸るや、巨腕は爆音を奏でて砕け散った。どうやら魔法で岩を破壊したらしい。


 そのまま舞い降りるレイエルは飛天で肉薄。

 鋭い一閃をこちらに向けて繰り出してくる。


「チィ!」


 再びイリテュムを変形させた後、俺はレイエルとの激しい剣戟を演じる。

 死体であったとしても元騎士団長かつ元聖騎士。一太刀が俺とは比べ物にならないくらい重い。辛うじて刃を受け流すので精一杯だ。


 ……まあ、聖騎士相手に受け流せるだけでも上等か。


 ババア! ありがとうなぁ!

 アンタが殺す気で剣を教えてくれたおかげで今俺は死なずに済んでいるよぉ!

 でもババア! 俺が楽しみに取っておいた蜂蜜を勝手に食ったことだけは許さねえぞ!


 と、過去の思い出を力に変えて奮戦し続けること数秒。


「はい、ここで問題です! 俺が今握ってる剣はなんて言うでしょーか!?」

「──」

「ドゥルルルルル……ジャーン! はい、残念時間切れ! 正解はぁ~?」

「ッ──!?」


 俺が答えを口にしようとした、まさにその瞬間だった。

 刀身に電光が走り、濡れたレイエルの全身が大きく跳ね上がる。


 感電。魔力より生み出された電気であっても、実際の電気とそう性質は変わらない。

 一瞬にして全身に電撃が駆け巡ったレイエルは、痺れるままにその場で膝を突いた。


 そこへ俺は刃を閃かせる。

 狙うは首。大抵のアンデッドは首を落とせばそこで死ぬ。


 即殺を狙っての一撃──だが、寸前で邪魔が入った。

 痺れる肉体。全身には激痛が走っているだろうに、アンデッドであるレイエルは強引に腕を振り上げ、俺の一閃を文字通り骨肉で受け止めた。

 刃は肉を裂き、骨すらも絶つ。

 だが、その一瞬の遅れさえあれば十分だったようだ。レイエルは首を切り落とされるより前にその場から飛び退いて距離を取ってくる。


「流石の反応速度だな」

「──」

「おっと、そういえば答えがまだだったな。こいつは『電光でんこうつるぎ』って言ってよ、文字通り電撃が出る剣だ」


 電光が迸る剣を見せつけながら、俺は言い放つ。


 今一度言うが、イリテュム自体はただの鉄の剣だ。

 しかしだ。フィクトゥスが生まれた時よりも洗練された〈虚飾〉の〈罪〉を刻んだことで、フィクトゥスにはなかった力が宿っている。


 『虚飾』とは上辺だけの飾り。

 だが、上辺とはどこまでだ?


 フィクトゥスは形だけを模倣する罪器だった。

 イリテュムは形だけ──には留まらない。


「構えろよ、聖騎士」


 電光の剣を構えた俺は、飛天でレイエルの懐まで潜り込む。

 当然レイエルはこれに応戦する。が、先の電撃を浴びたその動きは、当初切り結んでいた時よりもかなりぎこちなかった。圧倒的に剣の腕で劣る俺でもレイエルと互角を演じられるほどだ。


 だが、レイエルもただやられるだけではない。

 電光の剣と切り結べば痺れると理解した上で距離を取り、空いた片方の手から次々に魔法を繰り出してくる。


 撃ってきたのは〈水魔法オーラ〉だ。

 なるほど、俺も濡れれば迂闊に電撃を繰り出せないだろうという魂胆か。


「それなら!」


 すかさず俺はイリテュムを変形させる。

 今度は赤い波打った剣──いわゆるフランベルジュと呼称される類の剣にだ。


 ギルシンではこいつを『火焔かえんつるぎ』と呼び、古くより剣士や騎士が愛用する魔剣として扱われている。

 その効果は、魔力を流せば刀身より炎が噴き出るというもの。

 俺如きの魔力であろうと吹き出す炎はそこそこの勢いとなり、向かってくる〈水魔法〉を真正面から相殺してみせる。


 おかげで俺はずぶ濡れにならずに済んだ。

 これで再び電光の剣でレイエルと斬り合えるというものだ。


「さて……次はどうする?」

「──」


 魔法も防がれ、接近戦は危うい。

 そう受け取ったレイエルは慎重にこちらを観察しているようだった。


 当然だ、俺だって同じ状況ならそうするわ。


「けどな」


──その時間が欲しかったんだよ。


 音が反響する。

 レイエルの背後より。


「──……!!?」


 驚愕するような息遣いがレイエルより漏れる。

 だが、それ以降彼の呼吸が続くことはなかった。


 なぜならすでに──。


「……俺が得意なのは不意打ちでね」


 ゴトリと重たい物が落ちる音。

 振り返れば警戒に警戒を積み重ねていたはずのレイエルの首が落ちていた。


 彼の体はずっと〈虚飾〉によって生み出された幻影の方を向いていた。


 だから気づけなかった。

 姿と気配を隠し、喉元に迫ったイリテュムの刃に。


「こういうの、勝負に勝って試合に負けるって言ったっけ?」


 応答はなく。

 しかし、俺の視線の先ではレイエルの肉体が崩れ落ちた。


「──悪ぃが、先に進ませてもらうぜ」


 それを見届けた俺は踵を返し、前へと進む。

 イリテュムを納め、淡々と。


 そうして歩くこと数分。


「……迷っちゃった」


 迷っちゃった。

 うん、ここどこ?

 元々は現実験場とやらの騎士団詰所目前の水門までたどり着いていたはずだが、レイエルとの死闘を演じている内に、謎の場所にたどり着いてしまったらしい。


 ……謎の場所? うっ、頭が!


 だが待て。まだ慌てる時間じゃない。

 いくら目的地から離れてしまったとしても、そこまで遠く離れたわけではないだろう。ちょっと地上に顔を出せば、それっぽい建物は見えてくるはずさ!


 これが俺の武器、どんな時でもポジティブハート!

 ギルシンRTA本走でオリチャー発動して新記録を樹立した俺にとって、この程度の不測の事態……敵ではないわぁー!


「あっ、待って。目の前クラクラする」


 細心の注意を払い、魔法で身を隠しながら地上を覗こうかなぁーとか考えた時だった。

 途端に全身から力が抜け、へにゃへにゃとその場に座り込んでしまう。


 これは……あれだ。


「ま、魔力が……! イリテュム乱用するもんじゃねえわ……!」


 ただでさえ中の下の魔力量を酷使したツケが今になって回ってきたようだ。


 ねえ、知ってる? 魔力量って生まれつきの才能なんだって。


 だから、いくら後から鍛えようが成長の限界はある。

 俺の場合、冒険者になってから色々と努力してきたつもりではあるが、それでもイリテュム──もとい、魔道具乱用に耐えうる魔力量には育たなかったらしい。


「クソッ、考えみりゃ当然か。罪器と魔道具の効果発動……ダブルで魔力使ってるわけだしなぁ……!」


 先に使用した電光の剣や火焔の剣──あれは武器に用いられた魔鉱石の性質を利用し、電撃や炎を生み出す類の魔道具だ。

 世の中にはたくさんの魔道具があるが、これらは結構ポピュラーな部類の魔道具。何せ素材に魔力を流せば勝手に効果が発揮されるのだ。騎士団でも騎士隊とかがよく使っている代物である。


 そう、イリテュムは形だけでなく素材をも模倣できるようになった罪器。

 モデルとなった魔道具の効果が素材由来であれば、たとえ偽物であろうと魔法効果を発揮できる。


 これはフィクトゥスから大幅に進化した俺だけの武器。

 そして、俺こそが使いこなせる罪器だ。


 なぜかって?


 そいつは俺がギルシンの大ファンだからさ!

 ギルシンに登場する魔道具の設定はまるっとこの頭ん中に入ってるぜぇー!

 俺の聖典バイブル、『ギルティ・シン 20th アニバーサリー 公式ガイドブック 予約特典歴代勇者フィギュア付き(税込み49,800円)』を即決購入10周読破した俺の知識量に勝てると思うなよぉーーーッ!


 そういうわけでギルシンに登場する魔道具に精通している分、イリテュムには俺にとってこの上なく頼りになる罪器と化した。

 魔法効果が素材由来な分、術式を刻み込んでいるタイプのものが再現できないのはネックだが、それを差し引いても十分強力な剣だ。


 アータンみたいな魔力お化けが持っても強力……いや、あの細腕じゃ持てないな。

 箸と箸で摘まめる食べ物しか持てぬか弱いお嬢様なアータンには、このイリテュムはちと重すぎる。


 やっぱりお前は俺の愛剣だぜ。チュッチュ♡


 ともかく、先に進むのはちょっと休憩してからだ。

 魔力回復を促進できる丸薬は持ってきたが、それも即効性ではない。


「あー、クソッ……これなら罪化した方が魔力節約できた説あるぞ」


 でもなぁー、こんな狭いところで翼生やしてもなぁー。

 それに身体能力上げても剣術は向こうの方が上手だし、力任せに攻めても早く倒せた保証はない。


「こりゃあ反省会行きだ……」


 丸薬をポリポリと貪りつつ、頭の中で先の戦闘の反省会を開催する。

 首を切り落とした以上、二度目はないと願いたいが、それでも似たような相手が出てこないとも限らない。


 ……出てこないよね?


「あっ……このお薬旨っ」


 ビュート印の丸薬は蜂蜜入りで旨い。


 止まらねぇ……止まらねぇよ……!

 クスリが止まらねぇ……!


「っ、ヴェッホォ!!?」


 なんてふざけて食べていたら咽た。

 ごめんて、ビュート。

 もう食べ物で遊ばないから許して。




 ***




 ライアーやベルゴが戦っていたその頃。

 救出した女性を連れるアータンとリーンの二人は、ドゥウスの外を目指して歩いていた。


 行きはよいよい帰りは怖いとは言うが、実際彼女たちの進むペースは遅かった。

 見回りの悪魔に見つからぬ為という理由が一つ。

 もう一つは純粋に長い監禁生活で女性達の体力低下が挙げられた。


「ゆっくりでいいですからね」

「は、はい……ありがとう」

「頑張ってここから逃げましょう!」


 とぼとぼと歩む女性を勇気づけるアータン。

 やはりこういった辛気臭い場面では、彼女のような可憐で健気な人間の声援が力となるものだ。女性達も疲弊した体を何とか動かし、少しずつではあるが歩を進ませていた。


「船でもあれば流れに任せていけるんだがな」


 そう呟いたのはリーンだ。

 基本的に地下水路の流れは下流へと向かっている。


 つまり、船さえあれば勝手に出口へと向かうこと自体は可能であった。

 問題なのはその船がないこと。


「〈氷魔法ラキエ〉でも使えれば船を作れるんだが……」

「……ごめんなさい」

「アータンが謝ることじゃあない。事実、私にも使えんしな」

「お湯なら出せるんですけど……」

「意外と惜しいとこまでは行ってるな」


 ちょぼちょぼとお湯を出すアータンに、リーンは感心しながら告げる。


「そもそも二属性を同時に行使するのはセンスが要る。騎士団でもそれが使えるのは魔法専門の聖歌隊でも一部だ」

「へぇ~、そうなんだぁ~」

「アータンだったら練習すればいずれは〈氷魔法〉も使えるだろう」

「なるほど……私、練習します!」

「その意気だ」


 溌溂と宣言するアータンに笑みを零した、まさにその瞬間だった。

 先頭で警戒していたリーンがピタリと歩みを止め、後続の行進を手で制する。


「待て。誰か居る」

「! ……悪魔ですか?」

「いや、この魔力の感じは──」


 心当たりがあるような言い草。

 次の瞬間、身構えたリーンの前に人影が現れて飛び込んできた。


 その人影とは──。


「ライアー様の魔力ですわぁ~~~~~!!」

「ふんぬ」

「ぷぎゅるぁあああ!!?」


 まるで予想外とでも言わんばかりの声色で、飛び込んできた人物はリーンのバックドロップを喰らった。

 美しい弧を描き、反り返るリーン。

 一方で石畳に叩きつけられた人物は、口から半分魂が抜けた状態で白目を剥いていた。


 ほとんど事故現場のような光景ではあるが、アータンは見事なまでのバックドロップを喰らった相手を見るや、『えっ』と驚愕の声を漏らした。


「セパル様!?」

「こ、この声は……アータン、ちゃん……?」

「大丈夫ですか!!?」

「ライアー様に……わたくしは最期まであなたを愛していたとお伝え……うぐぅ!!」

「セパル様ぁーーーッ!!?」


──〈海の乙女シーレーン〉団長セパル、殉職。


「何寝ぼけたこと言ってるんですか」

「世界がわたくしに手厳しい!!?」


 しかし、すぐさま後から追いついた副官にショック療法ビンタを貰い、セパルは蘇生された。


「しくしく……あんまりですわ……」

「セパル様……時と場合は考えましょう」

「うぅ……真面目な子の正論が一番心にクる。アイベルとは違った方面で言葉のナイフが鋭いわ……」


 さめざめと涙を流すセパルは、アータンからトドメの一撃を貰うことで完全敗北を喫した。今この場に彼女を庇う者は居なかった。


 それはさておき。


「というか、どうしてセパル様がここに?」

「よくぞ聞いてくださいましたわ」


 ここまで散々な目に遭っていなかったセパルは、副官のザンに目配せを送る。

 仕方がない──そう言わんばかりに団長の意図を察したザンは、案内役と思しき騎士に一言入れた後、アータンとリーンの方へと歩み寄ってきた。


「お察しの通り、現在地上では〈灰かぶり〉と魔王軍が交戦中です。我々〈海の乙女〉はその別働隊として地下に潜っていたんですよ」

「〈海の乙女〉が!?」

「はぁ……極秘の別動隊だったつもりですが、貴方方を見る限り勝手に動いていたようですね」

「うっ!? ご、ごめんなさい……」


 責めるようなザンの口振りに、アータンは肩を狭める。

 別に彼女だけが悪いわけではないが、今回の潜入に加担していたのは事実だ。肩身が狭くなるのも致し方ない。


「まったく……あの男を野放しにするとすぐこうなるんですから。おかげで救出作戦の段取りが滅茶苦茶です」

「へっ? 救出……?」

「貴方の後ろに居る人達のことですよ」


 ザンはアータンの後方を指差しながら続ける。


「囚われた人達の救出が我々の第一目標──要は手間が省けました」


 呆れた笑みを浮かべるザン。

 彼女の後ろからは小走りで数人の騎士が現れ、襤褸切れ同然の服を身に纏っていた女性達に厚手のマントを羽織らせる。

 人肌で温められたマントの感触に安堵を覚えたのか、女性達の中には涙を流す者が居た。


(──そうだよね)


 そこでアータンはやっと理解する。


 自分とは違い、彼らは正式な騎士。

 ただの少女と騎士とでは与えられる安心感が違うだろう。


 そして、


(貫手で扉突き破る人よりは安心できるよね……)


 自分の感性が真面であったと再確認でき、アータンも安心した。

 あの馬鹿共が。無駄な心配かけさせやがって。

 しかし、その内の一人がすぐ傍に居るというのだから口には出せない。


 ともかく、これにて救助した女性の身の安全は確保できたようなものだ。


「リーンさん!」

「皆まで言うな」


 何か言いたげなアータンに対し、リーンはすかさず視線を返す。


「──行くんだろう?」

「……はい!」


 迷いはなかった。


 自分も彼の──彼らの下へ。


 その思いが一緒であると理解したアータンは、ニッと笑みを湛え、今度はセパルの方を向いた。


「セパル様はこれからどうするんですか?」

「わたくし達ですか? このまま敵陣の中央に向かって色々やるつもりですが……」

「私達も連れてってください!」


 アータンは力強く言い放つ。

 これに対しセパルの瞳がスッと細められた。


「よろしいんですの? 敵陣の中央ともなれば危険は段違いですが……」

「承知しています」

「地獄を見ますよ?」

「っ……それでも、」


 一瞬気圧されるものの、アータンの脳裏にはリーパの村での出来事が過る。

 あの時ほど戦う覚悟を決め、同時に死に直面した瞬間はない。


 だからこそ、それを乗り越えた今の自分を信じられるのだ。


「私は──の力になりたい」


 たとえ自分に為せることがちっぽけだとしても。

 大事を為そうとする彼の力になれるのであれば。


「ライアーの力になりたいんです!」

「……そう言うと思っていました」

「! セパル様、じゃあ……!」

「元々わたくしに貴方を止められる権限なんてありませんもの」


 片目をウインクさせながら悪戯っぽく笑うセパルは、秘密だと言わんばかりに自分の口に人差し指を立てる。


「頼りにしていますよ、アータンちゃん♪」

「セパル様……!」

「それにリーンも。あなたが居れば安心です」


「フンッ」


 面白くなさそうに鼻を鳴らすリーン。

 そんな彼女とセパルを交互に見るアータンは、いまいち二人の関係が分からず小首を傾げる。


(でも……)


「さっきはよくも思わせぶりな魔力で勘違いさせてくれましたね、あぁん?」

「お前が勝手に勘違いしただけだろう、ドスケベムチムチデカメロンが」

「誉め言葉として受け取っておきますわ」

「そうしておけ。中身が腐らん内はな」

「一線越えましたね? 誰のパーフェクトボディーが売れ残ってジュクジュクの熟女になるって?」


(仲良いのかなぁ?)


 これを見てそう思うアータンも大概馬鹿ライアーに毒されてきているのだった。


 しかし、二人が睨み合っている最中、地下水路を揺らす激震が足元を襲う。


「きゃあ、何!?」

「……どうやら地上の戦闘が激化しているようですね」

「こんなところで駄弁っている暇はなさそうだな、騎士団長さん」


 リーンの挑発するような言葉を受け取ると、セパルは案内役に目配せを送り、案内の再開を促す。


「……今回最大の目的は、敵将ネビロスの討伐。奴を討たなければディア教国やその周辺国家──いえ、大陸全体に危機が及ぶことでしょう」


 静かな、しかし、それでいて闘志を宿した力強い声色で彼女は紡ぐ。


「何としてでも討ち倒し、地上に平穏をもたらさなければ……良いですね」

『は!』

「その為には多くの人々の協力が必要です。アータンちゃん、それはあなたも例外ではありません」

「はい!」

「共にプルガトリアを守りましょう」


 力強い騎士団長の言葉に士気が高まった一同は、そのまま中枢を目指して走り出した。


 ただ、この時のアータンは見誤っていた。


 進む先に待ち構えている“地獄”がどれほどのものかを。




 ***




 暗い、暗い道。

 誰も居なくなった地下水路に斃れる首無しの死体があった。


 既に生命としては終わった肉体。

 あとは流れる時のままに朽ちていくだけ──のはずだった。


 指が、手が、腕が。

 そして体が起き上がり、無くした己の頭を探して動き出す。


 ペタリ、ペタリと。

 血に濡れた手で辺りを探る死体は、やがて転がり落ちていた自分の首を拾い上げ、綺麗に切り落とされた断面同士をくっ付けた。


 血の気を失った頭に血が巡る。

 青白かった皮膚はみるみるうちに肌色となる。


 そうやって首の繋がった死体は、再び命令に従うように動き始めた。


 自分を殺した鉄仮面の剣士を殺すべく。




 悪夢は、まだ終わってなどいない。




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