第5話
どこにでもありそうな学園長室、応接セットがありその先に学園長のデスクがある。
俺と西園寺は学園長冴島とここまで案内してくれた女性の前に並んで座る。
「話はさっきの続きになるね」
そう話を切り出した冴島学園長。
「続きとは?」
さっきの場にいなかった西園寺が質問をする。
「彼にはウチへ編入してもらいたい」
「それはいいですね!」
なぜ?
即学園長に賛成した彼女に疑問符を浮かべながら見つめる。
「……あれ?ホノカ君は嫌なんですか?」
「理由が無い」
「でもここに来れば魔術の基本や術師としての在り方、術式構築の基礎も……学べますよ……?」
とそこまで言ったところで俺にはそれらの事は既に身についていることを察したのだろう。
魔術の基礎、術式構築の初式から師匠に叩き込まれている。
つまりは、俺はここに来て何を学ぶのかと。
「さっきからそんな感じでね、彼はあまりうちに魅力を感じてくれていない、私としては彼の保護としても編入して欲しいんだが」
「保護ですか」
「彼は形式上で黒木飛鳥の子供であり、正式な弟子でもある、そんな存在を奴等が逃すとは思えん」
「さっきもそんな感じのこと言ってましたけど、実際俺をなにから守るってんですか?」
学園長は険しい顔をして少し考えてから口に出す。
「奴等に正式な活動名は無くただ世界の半分と自分達を呼称してる、目的は魔術師を表舞台に立たせること
世界の半分。
現在一般的には知られていない魔術を公表し世界に自分達のような優れた者達がいるんだと言ってやりたい組織。
今の世界の在り方を否定し、魔術師が中心の世界を望み、その為には犠牲も羨わ無い活動もする、そして組織には魔術師だけでなく否術式も協力者に居て政治家等の有名人にもその手先が居ると噂されていて実態もだいたいの大きさも解らない。
そして彼等は自分達を世界の半分と名乗る。
組織からすれば敵である黒木飛鳥の子である君の存在、これは黒木を殺す切札になりえるし、そうなら君を攫って人質にすることくらい……殺しだって奴等は簡単にする」
魔術師の世界に身を置くものであれば誰もが知っているような有名な組織の説明を冴島はしてくれたが、別にそれを知らないわけじゃなし。
世界の半分?
簡単に人を殺す連中?
それがどうしたというのか。
こういった問題に一切かかわりのないような人なら解るが、世界の半分とやりあっているような人物を師匠としている身としてる側としてはそういった奴等に狙われることも珍しくない。
つまりはすでに、今日までに、殺されに来られたし、殺している。
「…少しは何が言いたいのか分かりましたけど、これでも現代最強の弟子してるんですよ?そう簡単に殺されてあげないので大丈夫ですよ」
「奴らの下っ端相手ならそうかもしれない、だが組織の幹部として活動している奴等は君の想像以上の実力を持っているかも知れない、そういった相手と対峙したとき君はどうするつもりかな?」
「逃げればいいのでは」
「そう簡単に逃がしてくれるとでも?」
なるほど。
……それよりも話長くなって飽きてきたな。
「それに西園寺からの報告を聞くに君の実力は私やハンナと並んでいるかもしれない、そうなると無許可の術師を野放しに出来ない」
「許可?」
「そうだよ?私達術師は教会に登録して魔術を使った活動することに許可を得ているからね、教会の許可が無い人は違法術師として教会が捕縛することになってる、君のような術師の子供はここみたいな魔術学校に通い卒業と共に許可を貰えるんだけど、君は通っていない」
このままでは無許可の術師、違法術師として捕まえることになるけどほんとうにいいかいということだろう。
「学校に通わなくても許可を取る方法はあるのでは?」
「1級術師以上の人物からの推薦によって許可を得ることもできるね」
「じゃあ冴島さんが許可をくれるというのは?」
「ありえないね」
「では、私の師は1級ですか?」
「もちろん」
「ならまずは許可貰えるか話してみようと思います」
「……そうかわかった、今すぐ返答が欲しいわけじゃないからね」
そういって冴島は立ち上がる。
「この話はここまでにしようか、答えは後日聞かせてもらおうかな」
その言葉に返答はせず自分も立ち上がる。
「ホノカ君は本当にそれでいいんですか?」
西園寺のその言葉になんて返せばいいのか、真剣な眼差しにどんな答えを求めているのか考えてしまって少し黙ってしまった。
「それでいい」
ただその一言。
それしか出せなかった。
魔法使いのアトリエ 安心院りつ @Azimuritu
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