転生少女の苦悩6

 急に外が騒がしくなった。アニエスは、店の方に顔を出す。

「どうしたっすか!?」

 店番をしていたフォスティーヌが振り向いた。

「ああ、アニエス。今お客様達と話してたんだけど、さっきこの近くで魔物が現れたみたいなの」

「え!!」

 こんな街中にも魔物が出てきたのか。


「騎士団が退治してくれたようだけど、怖いわね……」

「……そうっすね……」

 アニエスは、何かを考え込む表情で呟いた。


 その夜、アニエスが寝た後、ジョズエとフォスティーヌは二人でリビングで話していた。

「……あの子、帰って来た時は元気が無かったみたいだけど、大丈夫かしら」

 フォスティーヌが、頬に手を当てて言う。

「大丈夫だ。エルネスト殿下が支えてくれる」


 ジョズエは、以前エルネストと二人きりで話した時の事を思い出していた。アニエスを婚約者に選んだのは、彼女がマリユス・ヴィトリーの娘だからかと聞いたジョズエに対し、エルネストははっきり言った。

「違います。僕は、彼女自身を愛しています。彼女が誰の子であっても、僕は彼女を手放す気はありません」


 実家に泊まったアニエスは、翌日実家から学園に向かい、授業を受けた。

「アニエス、話って何?」

 放課後の教室で、アニエスはエルネストと二人で話していた。


「……マリユスが亡くなって十八年も経つのに、魔物が頻繁に出現するのはやっぱり変っす。誰かが、マリユスの代わりに魔物を生み出しているとしか思えないっす。……私は、マリユスの血縁として真相を追究する責任があると思うっす。書庫で調べたんですが、マリユスの弟がルミ王国に投獄されているようなんです。私、彼に会ってみようと思うっす」


 ルミ王国は、このレーヴ王国と交流のある国で、マリユスの弟であるクレマン・ヴィトリーは十五年前からルミ王国に投獄されている。彼は生まれも育ちもマリユスと同じレーヴ王国だが、ルミ王国で貴族を数名殺害した為、投獄される事となった。


「弟のクレマンは、マリユスと仲が良かったそうっす。もしかしたら、マリユスが誰かに魔術を教えたりしていないか聞けるかもしれないっす。……それと、私の本当の母親の事も……」

「でも、厳重な警備があるとはいえ、終身刑が言い渡されている罪人と面会するのは危険じゃないかな?」

「……それでも、会いたいっす。学園を十日程休む事になりますので、殿下にはお伝えしておきます。……婚約者なので……」

「……わかった。いつ出発するつもりなの?」

「三日後っす」

「そうか。……君のお母さんについて、何か聞けるといいね」


 『魔術の継承について有益な情報が聞けるといいね』ではなく、『母親の事を聞けるといいね』なのか。本当にこの人は。

「……ありがとうございます」

 アニエスは、穏やかな顔で微笑んだ。


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