悪役令嬢と転生少女1

「エルネスト殿下、五分だけお話宜しいかしら?」

 ある日の昼休み、エルネスト達のクラスに来たブリジットが笑顔で話しかけた。

「何かな?ブリジット嬢」

 エルネストも笑顔で応えるが、穏やかな話じゃなさそうだと察した。ブリジットの目が笑っていない。


「先程、裏庭を通りかかったのですが、アニエスが数人の女生徒に取り囲まれていました」

「え!?」

「恐らく、アニエスに嫉妬して言いがかりでもつけていたんでしょう。アニエスが木刀で脅し……説得していたようなので大丈夫だと思いますが、行ってあげて下さい」

「わかった、ありがとう。……いつの間にかいなくなったと思ったら、裏庭にいたのか……」

 走り出そうとするエルネストをブリジットが呼び止めた。


「エルネスト殿下」

「何?」

「……アニエスを不幸にしたら、私、あなたを許しませんから」

 ブリジットは、鋭い目つきでエルネストを見据えた。

「……絶対幸せにする」


 エルネストは、真顔でそう言うと、駆けて行った。その背中を見送りながら、ブリジットは呟いた。

「そうでなくては困ります……」


 ブリジットがアニエスと初めて会ったのは、ブリジットが十一歳の時。初め、ブリジットはアニエスにきつく当たっていた。アニエスの前に専属メイドだった女にしたのと同じように、お菓子を出すのが遅い、お茶がまずい、辛気臭いだの難癖をつけて虐めていた。


 しかし、アニエスは気にする様子もなく、淡々と仕事をしていた。そんな様子も気に入らなくて、ブリジットはますますアニエスにきつく当たった。


「お前、そんな態度だといつか痛い目見るぞ」


 ある日、ブリジットの兄のシリルが、眼鏡の位置を直しながら眉間に皺を寄せて注意した。シリルはブリジットより六歳年上で、当時十七歳。学園で優秀な成績を修めていた。栗色の髪に茶色い瞳を持つシリルは顔立ちも整っていて、女生徒の人気も高い。ちなみに、ゲームの世界ではシリルは攻略対象の一人だ。


 ブリジットは、優秀過ぎるシリルにコンプレックスを抱いていた。ブリジットがいくら頑張って良い成績を修めても、シリルには敵わない。


「余計なお世話よ」

 そう言って、ブリジットはリビングを立ち去った。


 アニエスが専属メイドになって二週間くらい経ったある日、ブリジットは貴族の令嬢を数人招いてテラスでお茶をしていた。

「ブリジット様、今日も素敵なドレスですわね」

「先日のパーティーでのダンス、素晴らしかったですわ」

「知識も豊富で、私達と同じ年齢とは思えませんわ」


 令嬢達が、口々にブリジットを褒めちぎる。ブリジットは、笑顔で「ありがとう」と言った。アニエスは、相変わらずきつく当たられていたが、無言でお茶を淹れている。

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