第2話 ファーストスキル
八年前、崩界が起きて半月ほど経った頃、多くの人々が一斉に身体の不調を訴えた。
老いも若いも男も女も関係無く、概ね十人に一人。
皆、揃って一週間ばかり微熱が続いた後、等しく右手に同一の紋様を宿した。
通称『スキルスロット』。これにも探索者同様、長ったらしい正式名称があるんだが、やはり忘れた。覚える気も無い。
お偉方だの学者方だのは、どうしていちいち小難しい漢字や英単語を並べたがるのか。読み上げるだけで舌噛むわ。
ともあれ、俺の右手にも当然宿っているこの奇天烈な紋様こそ、人類がクリーチャーに対抗する二つの武器の片割れ。
白い塔の内部でありながらクリーチャーの脅威に晒されることのない安全地帯である一階、そのきっかり中心に鎮座する黒い柱。
通称『モノリス』──例に漏れず長ったらしい正式名称以下略──こいつに触れることで、俺達スキルスロットを持つ人間は『ファーストスキル』を発現する。
ファーストスキルとは、絶対防御にも等しいクリーチャーの外套を貫くチカラを持った四種の異能。
剣を生み出す『魔剣』。
槍を生み出す『魔槍』。
鎧を生み出す『魔甲』。
弾を生み出す『魔弾』。
四種のいずれを発現させるのかは、完全な運次第。しかもやたらと偏りが著しい。
そして俺のスロットが発現させたのは、この中で最も希少な『魔弾』。
熟練した探索者が扱えば、一キロメートル離れた位置からでも標的を穿つ異能。
最弱のコボルドを除けば、ほぼほぼ全種が人間を超越した肉体性能を持つクリーチャー達を相手に安全な間合いを保ちながら一方的に攻撃ができる、理想的なチカラってワケだ。
「チッ……当たらねぇ」
最初の交戦から約十五分。現在、白い塔の三階層。
五階層を目指し進攻を始めてから都合六度目となるコボルドとのエンカウントと同時、モデルガンを発動媒体に魔弾をブッ放す。
「すばしっこい連中だ」
〈ギギッ!〉
なんとなく「別に動いてないぞ!」みたいなことを言い返された気がするが、無視。いくら俺が天才でもコボルドの言葉など分からん。
撃っても撃っても当たらないから、焦れて一気に踏み込み、距離を詰める。
直近五回の交戦でも繰り返した流れと、寸分違わぬ焼き回し。
〈ギキャッ!〉
「だから、遅せぇって」
通常の武器兵器ではクリーチャーに有効打を与えられないのと同様、通常の防具でクリーチャーの攻撃を防ぐことも出来ない。
そして魔弾は他三種のファーストスキルと違い、防御手段が一切無い。
「バレエのレッスンじゃねぇんだぞ」
なので振り回される剣をひらひら躱しつつ、喉笛に銃口を押し付け、撃った。
まともに受ければ即致命傷の剣戟だろうと、当たらなければどうということはないのだ。
「次」
仲間の頭がザクロの如く弾け飛んだことで動きを止めた二匹目も、同様の手順で射殺。
「ラスト」
赤ん坊くらいなら丸ごと飲み込めそうなほど大きく顎を開き、飛びかかってきた三匹目。
その口腔内に銃口を突っ込み、ボンボヤージュ。
「……おろしたての銃がヨダレ塗れに……何しやがんだテメェっ!!」
蹴飛ばした亡骸が壁際まで転がり、次いでさらさらと砂のように崩れて行く。
砂は風も無いのに吹き流れ、やがて三匹分の亡骸は綺麗さっぱり消え去る。
後に残ったのは一円玉サイズの、しかし持ってみるとそれなりの重量感がある灰色のコインが三枚。
「やっぱ例外無く一匹につき一枚か……流石コボルド、しけてやがる」
このコインこそが様々な資源の元となるのだが、それについてはひとまず割愛。
ひと目惚れで買い求めたモデルガンの汚れを上着で迅速に拭き取り、拭き終えたら二度と使う気が失せた上着は放り捨て、ついでにズボンの埃を払う。
そしてチリも積もればなんとやら、気付けば計二十枚を超えたコインを厚地の小袋に収め──ふと、首を傾げる。
「はてさて。そう言えば二階層や三階層に居るコボルドは、基本的に単独だと聞いてたが」
六度のエンカウント全てが、三匹か四匹の団体様。
一体どうなっているのやら。
「……まあいいか。どうでも」
こんな浅い階層で些事にかかずらっていられるほど、俺の時間は安くないのだから。
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