第十一信:結晶人
私は彼等に歓迎された、と言っても良いだろう。本来であれば決して交わらぬ二つの世界の住人。夢を基礎とし積み上げられた架け橋を通じ、私達は或る種特別な絆の様な物で結ばれていたのだ。しかし、それはそれとして、彼等と私とが如何にして会話をしたかについて述べておく必要があるだろう。
と言って、私の方はほぼ何もしていないに等しい。彼等の言語能力には、全く驚嘆とする外ない。私がほんの一言二言単語を並べただけで、彼等は立ち所にその言語全体を把握し、次の瞬間にはもう、まるで生まれた時からその言葉を使って来たかの様に流暢に話し始めるのであったから。
しかし、それよりも私の心を惹き付けたのは、彼等の発する声であった。彼等の喉から発せられる声は、さながらグラスハーモニカをもっと澄んだ繊細にした様なもので、その玉を転がす様な音は、地球に於ける夜空で覗う事の出来る星々とは明らかに違う配位の夜空に、微かな物寂しい余韻を残しながら吸い込まれて行ったのであった。
そんな声を持つ彼等の耳に、私の喉頭から発せられる声がどんな風に響いたか。
しかし、彼等にとって、この声を使った会話でさえも好ましい物では無く、彼等が互いに会話する際には、結晶人としての彼等の身体の機能を利用した別の方法が存在したのであった。
その時には私も気付いていたのだが、彼等の身体を動かすのに必要な情報伝達系、即ち人間の身体で言う所の神経に相当する物は、彼等の身体中に張り巡らされたグラスファイバーの様な糸であった。
それは、彼等が何らかの動作をする際に、網の目のように張り巡らされた上を、様々な色の光が奔って行く事からも伺えた。
彼等はこの光を使って会話するのである。指先に点る色とりどりの光、それらを様々に組み合わせる事に依って。
しかし、これにも彼等の厳しくも繊細な美意識が働いているのであって、余りに強い光や、派手な色は好まれない。微細な色合いや、殆どそれと分からない微かな光を使い、更に加えて、その変化を出来るだけ滑らかに、ある光が、気付いた時には別の光に置き換わっていた、と云う様に行うのが好ましいとされるのであった。
彼等がその活動を夜間に置いているのも、そして、やがて訪れるであろう永遠の夜の世界を希求するのも、彼等のこの会話の仕方に原因があると思われる。
昼の黄色い空の下、のっぺりとした一律の世界よりも、静寂の支配する夜に於ける方が、より彼等の織り成す繊細な光の世界を浮き立たせ、そしてそれによる彼等の意識の広がりが生んだこの都市の建設に、より具体的な広がりをもたらすであろうから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます