第336話 人力輸送
「それで、俺になんか用か?」
俺のせいで少しだけそれてしまった話を元に戻した。
「私に貸して頂いたこの布ですが・・・私に譲っていただけないでしょうか?」
「え?別にいい・・・というかそれはもうあげたつもりだったし」
「ありがとうございます。では・・・」
そういうと、赤髪の女性は体に纏っていた布を剥ぎ、おそらく盗賊の誰かが使っていた短剣でいきなり切り裂き始めた。
「えぇ!?何してんの?」
「この布はとても大きいので、加工し、服を失った他の女性達に与えようかと」
「あ、あぁ・・・なるほど」
たしかに彼女に渡したシーツの予備用としてストックしていた布であれば、とりあえず体を隠す程度のものならかなりの人数分を作れるだろう。
別にそんなことをしなくてもああいった小物は、ストレージの便利さと未だに底が知れない容量に必要以上に稼いだ財力を注いだ結果、無駄に多いストックを誇っているので、全員に同じものを与えても良かったのだが、彼女は布を手早く加工して胸のみを隠すチューブトップのようなものと下半身の大事な場所だけを覆うミニスカート・・・というより温泉地で下半身にぐるりと巻いて大事な場所だけを隠すタオルみたいな形に加工し、既に数人の女性へ配り始めていたので、こちらから新しいものを提供するというのを伝えるタイミングを逃してしまった。
「ありがとう、リン」
「これはサトル様から頂いたものだ。お礼は使徒様に」
そんなやりとりを即席服を渡した女性達全員にするもんだから、次々に俺の下へほぼほぼ全裸の女性がやってきてお礼をしにやってきたが、普通にお礼をする人と妙にお礼と共に熱を持った視線を送ってくる人がいたが、後者は俺の斜め後ろに控えていた狐耳さんが笑顔のまま凄い威圧を放つという器用なことをしていたので、それにビビって慌てて離れていくハメになっていた。
ほんとすんごいんだから。直接見てない俺もビンビンに伝わってきた位だから、対面して直視してしまった彼女達のあの反応も頷けるってもんだ。
そして俺達は商人達が奪われた品物や盗賊達が元々持っていた装備などをとりあえず俺のストレージへ放りこみ、全員を引き連れてリンの案内で崖上に繋がる細い階段状になっている通路を通って上へ登った。
階段は天然のものではなく、盗賊達が作ったであろうものだ。段差の大きさも幅もまちまちで非常に登りにくい。
本当は前みたいに荷車を担いで飛んで行きたいが、今回は荷車一つで運ぶのには人数が多すぎる為、それをやるためには何回も往復する必要があるし、そもそももうMP残量が本当にエンプティーに近い。車だったら燃料マークが赤くなっていると思う。
こんな状態で無理して途中で飛べなくなって地面に落っこちることになったら、俺達は大丈夫だとしてもせっかく治療した人達がまた怪我するハメになってしまうし、そうなった場合、治療する魔法も使えない。そんな危ない事は出来ないから今はこうして歩くしかないのだ。
「なんかこうして普通に歩くのって久しぶりだな」
「そうですか?ダンジョンでは普通に歩いてますし、そうでもないのでは?」
「いや、あれを普通というのはちょっとな・・・」
俺達のダンジョン探索はもうかなり効率化が進んでいて、移動する時はオリヴィエの超スピードについていく為に全力ダッシュだし、連れていかれた地点に到着すると、その地点にいる魔物と戦っている間にオリヴィエやココ、サハスの釣り部隊がどんどん追加を連れてきてかなり忙しい。
それで周辺の魔物を全滅させるとまたオリヴィエが号令を出して次の狩りポイントへ移動するというのを繰り返す為、普通に歩いて移動する時間なんてほぼ皆無なはずなのである。
だが、俺が否定してもまだハテナマークを浮かべている様子を見ると、俺とオリヴィエ間では普通というものの解釈基準がそもそも一致していないのだろう。俺の方がまともだと思う。ココもオリヴィエと同じ顔をしていて、ルーは助けた人達とずっと話ながら歩いているので、こっちの話をそもそも聞いていないから仲間内で多数決をしたら負けそうな雰囲気ではあるが、これは譲れない。絶対俺の感覚が普通です。
そんなことを考えながらも森を大人数で練り歩いていたら、助けて治療した人達の中で、元々重傷だった人から歩みが重くなり、遂には座り込んでしまう人まで出て来てしまった。
おそらく原因は、治療で使った魔法の一つであるサナトリウムは体力を回復できるが、無尽蔵に湧き出すようにするというものではなく、どちらかというと元気の前借という側面が強く、使って効果が切れた後はちゃんと反動がくるので休養しなくてはならない。
今また使って無理矢理元気を取り戻させることも可能ではあるが、それをやると反動も大きくなるため、シスもあまりオススメしないって言ってきたしな。
だから、俺はストレージから荷車を出し、疲労度の高い人を優先して荷台に乗せて休養を取らせながら進むことにした。
みんな俺がその荷車を引くことに恐縮して自分達がやると言ってきたが、乗せられる限界の人数を乗せた荷車を、道が整備されているわけでもない自然の森の中を普通の人が引くというのは無理な話だ。
荷車の車輪はゴムのタイヤを履いているわけでもない普通の木製だし、地面は土だからな。
だからオロオロしながら私が私がと言って代わろうとしてくる人達の要請は丁重にお断りした。どう考えてもこの方がはやいしな。超人的ステータスを持ってしまっている今の俺にとってはこんなものはどうってことない上、さらにオリヴィエが後ろから押してサポートしてくれているからもはや俺は荷車を引くというよりほぼ進行方向を定めることしかしていない。
「申し訳ございません。私どもの馬車が一つでも無事であればこのように使徒様のお手を煩わせることはなかったのですが・・・」
森の中でもファストへ続く街道のように地面がちゃんと整備されていなくても、通りと名乗れる程に木々が伐採してあるのなら馬車も通れるのだが、ここはなんの手も入っていないただの森なので馬車が通れるような場所はかなり少なく、場合によっては通行不能な場所に行き着き、引き返したりしなければならなくなったり、そもそも進みたい方向へまったく行けなくなる場面も多々あるだろう。
だからこそ盗賊達は商人達が持っていた馬車をアジトへ持ち帰ることはせず、荷台の商材や人だけを奪い、襲撃の痕跡を隠すために馬車は破壊して街道脇の草むらへ隠したのだと思う。
ま、その痕跡隠しはウチのルーによって看破されてしまったわけだがね。
「ま、馬が数頭無事だっただけありがたいさ。この荷車だけじゃ全然足りなかったからな」
馬車は全て破壊されてしまったが、それを引く馬は襲撃時に負傷したり戦いに巻き込まれてしまった子達以外は盗賊に連れられてアジトへ運ばれていた。
俺達が崖上に登るために使ったあの不格好な階段を馬が通るには無理があったので俺とオリヴィエが人力で持ち上げて運んだ。
本来人が乗る馬を人が持って階段を登るというこの世界でも非常に珍しい光景が繰り広げられ、持ち上げられた馬も大いに暴れたのだが、ココが馬達の頬をそっと優しく触って話しかけると、何故か馬達は大人しくなった。
別に俺とオリヴィエは馬に蹴られたくらいじゃノーダメージだが、暴れられるとやっぱり持ちづらかったから非常に助かった。
この階段を使えない以上、盗賊達がどうやって馬を下に降ろしたのかわからなかったが、商人達の話を聞くに、馬は彼らよりもかなり遅れてアジトへ連れられてきたということだったので、きっと離れた別の場所に馬も降ろせるような道があるのだろう。
こうして俺達は休憩する人を荷車や馬に乗せかえながら進み、
盗賊のアジトがあった森を抜けた。
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