伝記 一章

その昔、人々は平和に暮らしていた。

人間同士の争いがまったくなかったわけではない。小さな衝突も、時には血の流れる争いもあった。

だがそれでも世界は、概ね穏やかだった。


――あの時が来るまでは。


ある日を境に、魔物が世界に現れた。

突如として現れ、人を襲い、村を壊し、命を奪う存在。


もちろん人々は抵抗した。

剣を取り、槍を構え、弓を引いた。

しかし、現存する武器は魔物の前ではあまりにも無力だった。


今まで平和な世界で生きてきた人々に、抗う術などほとんどなかったのだ。


気がつけば、あっという間に人類は追い詰められていた。


これは現実だ。

伝記のように勇者が現れ、奇跡の力で魔物を一掃する――そんな都合のいい物語は起こらない。

魔物が蔓延り、人を襲い、平和だった日常は消え去った。


人々はただ怯えながら生きる日々を強いられた。


そのような世界で、人は安心して暮らせるのか?


――否。

断じて否である。


だが、それでも。


人間は、知恵ある生き物だ。


人々は考えた。

このままでいいのか、と。

我々は、ただ搾取され続ける存在なのか、と。


違うだろう。


我々には知恵がある。

武器を持つ身体がある。

先人たちが築き上げた技術がある。


今こそ、立ち上がる時だ。


この時、世界で初めて人々の心は一つになった。


――魔物どもよ。

あまり、人類を舐めるなよ。


そうして、時は流れた。


魔物の脅威に晒されながらも、

少しずつ、そして着実に、人類は力を蓄えていった。


各地に魔物対策の部隊が設立され、

腕に自信のある者たちは技術を学び、身体を鍛え、魔物を狩る“ハンター”となった。


魔物を倒すための武器が大量に作られ、改良され、進化していった。


さらに――。


これまで「生活魔法」と呼ばれていた、誰もが使えるささやかな魔法。

小さな火を灯し、少量の水を生み出すだけの、戦いとは無縁の力。


だが人類は、その可能性を見逃さなかった。


執念とも言える研究の末、

人類はついに、魔物に対抗できる魔法を編み出したのだ。


準備は、整った。


ここから始まる。


魔物どもよ、よく見るがいい。

これが――人類の反撃だ。


研ぎ澄まされた牙を。


さあ、皆の者。

始めようではないか。


――私たちの戦いを!!!!



イグドラシル伝記 一章始まり




「師匠ー何書いてるんです?」


「ば、馬鹿者!勝手に見るな!」


「あべしっ!!」





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