半径1メートルちょいでSF
四喜 慶
半径1メートルでSF
第1話:ワレワレハウチュウジンダ(不謹慎)
「ワレワレハ〜ウチュウジンダ〜」
「今のご時世センシティブワードになっちゃったね、それ」
世界に宇宙人の下僕、人型AIが溢れかえって三年。新しい常識にも慣れてきた。
ここはハンバーガーチェーン店。僕らは二人掛けのテーブル席に向かい合っている。
四月に入り外を歩けば少し汗が滲むようになってきたせいか、幼馴染の
「ハンディファンでやったって意味ないでしょそれ。風情のかけらも無い」
「そっちにも風あげよっか?」
「ください」
舞は仕方なさそうにハンディファンの首をこちらに向けた。
僕、
「そういえば、舞は奨学金申請した?」
「もち、学費減免特待生制度さまさまー」
「まぁ、そのために勉強頑張ったしね」
僕らの夢は医者だ。医学部のある大学にも進学した。だが、そこで直面した問題があった。それが“金”である。
僕らの家庭は所謂、片親だった。舞の家族と一緒に行った家族旅行で舞の父親と僕の母親が事故で死んだ。
その時、病室の親と約束したこと──それが医者になること。だから長生きしてほしいと。まぁ、後半の部分は叶わなかったけど。
その時、舞と約束したこと──兄弟のいない僕らは、お互いで寂しさを埋め合うこと。支え合って生きること。
十八歳になった今もこの二つの約束は僕らの中で生きている。
「そういや、教科書代高すぎて親ビビってたわ」
「そうね、うちの母上は持って帰ってきた教科書の重さにもびっくりしてた」
最近はレジュメと問題集で十分だと思うんだけど──ガラガラと氷の入ったコーラをストローでかき混ぜる。
「楽しい話をしよ」
「勉強しにきたんだよな。僕ら」
「辛気臭い話をしても仕方ないでしょう?」
僕の話を聞いちゃいないな。目的が迷子になっているが、僕らは定期試験に向け要点を整理しにきたはずだ。なんか雑談する雰囲気になってるけど。
「正臣、何か案出してよ」
「じゃあ、自分らが宇宙人だとして効率のいい人間の捕まえ方を考えよう」
「なんか話題がセンシティブじゃない?」
じゃあ、僕からね。
「喫煙所に入ってる人間を網で掬い上げる」
喫煙所は外から見えづらいし、非喫煙者は近づかない人が多いし、煙いし、拉致ってもバレなそうだよね。
「肺機能が弱めの人しか収集できなそう」
「ローリスク、ローリターンってやつだね」
「なんか違う気もするけど」
そんな話をしていると、どこからか視線を感じた。視線の元は僕らの斜め後ろのテーブル。男二人から熱い視線を向けられている。
なんだこいつら──視線が気持ち悪くて、トイレに行くと言って席を外す。用を済ませ、手を洗い、出る。この間約十五秒。自己ベストタイムだ。
「なぁ、喫煙所だって」
「確かにあそこなら人間捕まえてもバレなそう」
「でも肺機能が弱いって」
「誤差だろ、地球人のサンプルにするには問題ない」
静かに席に戻ろうとすると、僕に視線を送っていたな男二人の話が聞こえてくる。すごい宇宙人目線で話してるな。
「「あ」」
「あ?」
目があった。なんだその顔、男二人がいけないことをしていたかのような反応しやがって。もしや本当に人型AIか?
何もなかったことにして席に着く。
「正臣、遅かったじゃん」
「今度からお前で手を拭いてやるよ」
舞は履修科目一覧を出して何やら考え込んでいた。
選択科目の欄にいく捕まるが付いている。
「どしたのさ。そんなに悩んで」
「いや、もうすぐ選択科目の締め切りじゃん。どうしようかなって」
「どうもこうも、選択科目自体少ないからあまり悩むことないと思うけど」
一年生なんてほぼ基礎科目しかないからそこまで考えなくてもいいのに。悩むとしたら第二外国語くらいか?
「ううん、正臣と同じのにしようかと思って」
「そっか」
「第二外国語は? ドイツ?」
「いや、フランス」
「体育とる?」
「1コマ目のやつでしょ? 取らないよ」
朝は図書室で自習。そう決めている。あとは選択科目といえど、単位の都合上ほとんど選択権はないようなものだ。
「なんでフランス語なの?」
「周りがドイツ語と中国語だったから当選倍率高いかなって」
決して人見知りだからではない。勘違いしないでほしい。
そこから、僕たちは数学のテキストを開き、わかるところから黙々と埋めていった。正直、数学Ⅲをやっていた僕らにとってそこまで苦ではなかった。
日が暮れて、お互いの家へ帰る。といっても隣同士なので行き先は一緒だけど。
「私たちって、生身の人間だよね」
「そうだね」
「……時々わからなくなるの。人型AIって生身の人間の記憶も操作するっていうじゃない? もしかしたら自分の記憶も作られたものなんじゃないかって」
「世界五分前仮説みたいだよな」
舞の瞳は不安に揺れていた。思わず彼女の手を取り、引き寄せる。
「大丈夫。二人で共有した想い出がいっぱいあるだろう。それを大切にしよう。何かあっても僕が助けてあげるから」
「──ありがとう。私も、助けてあげるから」
久しぶりに二人で手を繋いで歩く帰り道は、穏やかでとても温かかった。
こんな日常が続けばいいな。
「ただいま」
父はまだ仕事だろう。二人で住むには大きすぎる家に声がよく通る。
返事は当然帰ってこない──
「──お帰りなさい、正臣」
返ってきた。茶髪、ポニテ、標準体型の女が目の前にいる。
誰だ? 父の恋人? にしては若すぎるし、何より母さん一途な父がそんなことするとは思えない。
「お姉ちゃん。ご飯作っといたから。一緒に食べよ?」
姉だった。
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