第4話 交錯する思い

あの日、自分の情けなさに涙があふれた

神託を受けて勇者になっただけで強くなったと勘違いしてた

たった一体の魔獣に恐れ、立ち向かうこともできずに一人逃げた

男の僕が逃げて、女の子のミュラは立ち向かった

勇者の相棒としてなのか、賢者としてなのか僕についてきてくれたあの子は

初めて会った僕を助けるために

でも、あの時あの人が来てくれなかったらミュラはもしかしたら…

顔も知らない、どんな人なのかもしれない

僕の知り合いといったけれどそんな強い人は僕の記憶の中にない

けれど、何か…何か…


「カノンまたやってたの?少しは休憩しなね?」


野営地から少し離れた水辺で汗を流すカノンを見てミュラは言う

ミュラはカノンの眼を眺める

あの魔獣との戦いからカノンは変わった

前までの少し頼りない眼はもうそこにはない

迷い、不安を持ちながらも光を灯す眼を

昔に見たあの眼と同じ目をしていた


「うん、もう少ししたら休憩するよ」


カノンは額から流れる汗を拭う


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水がしたたり落ちる音が室内に響く

誰からも忘れさられた森の中の小さな小屋の中にレオは一人小さくなっていた


あの日、自分が犯した罪が心に大きな傷を作った

今まで人を殺したことはなかった

そう、人は…

だがあの日初めて人を手にかけた

そして、過去に手をかけた魔獣にも魔王軍の兵も命がある

知っていたつもりであった

いや、知った気になっていた

だが、分かっていなかった


自分が殺めた命の数の多さに


この現実から目を背けた


ミュラを見つけるために

もう一度抱きしめるために来たこの時代に打ちひしがれていた


「どうしたのだ?ここ三日ほど何もしておらんではないか」

「もういい、何もない」


そう全て終わったのだ

今、全てを終わらせてミュラの元に行きたい

この苦しみから早く抜け出したい


何も考えることができない頭の中に一つの考えが浮かんだ

レオは静かに立ち上がり小屋を出る

その足取りは勇者のものとは思えぬほど弱々しかった。


「何をしておるのだっ!」


リリスの声が聞こえた頃には崖の上にいた


あぁ、ようやくついたんだ


「貴殿の目的はまだッ…」

「もういいんだよ、何もないんだ」


風の音が良く聞こえる

森の声が最後の音も悪くない

耳に森の音と人の叫び声が良く聞こえる


人の声…?


レオは声が聞こえる方向に振り返る


「貴殿の耳にも届いておるであろう?あの声が

貴殿の中にまだ燻っているものがあるのであろう?」


誰かが助けを求めてる

頭で考えるより先に体が動いた

先ほどまでの弱々しい歩きとは打って変わり、

音を置き去りにするほどの速さ木々をかき分け駆け抜ける

鉄と鉄が交わる音が段々と近づいてくる


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どうしてこうなったのか…

周囲は確認していたはずだった

この場所は誰にもバレないはずだった

戦で劣勢に陥り、仲間が殿を務め私を逃がしてくれた

だからこそ、確実に生きて帰らなければいけなかった


そのために百騎ほどの兵とともに敵の包囲していないこの森を選んだはずだった

だが、森に入ってしばらくしたところで横から矢が放たれた

自身は上手くかわしたが後ろにいた騎馬兵は数を減らしていった


国境に近い森の出口に来た時には兵は50騎ほどになっていた

その数でこの兵力差…最悪の小説かと思ってしまった


森の外には敵兵が待ち構えていた


「アリス様…」

「覚悟決めるしか無いですね…」


アリスと呼ばれる騎士は剣を高く掲げ叫ぶ


「誇り高き帝国の騎士よ!目の前の障害を薙ぎ払え!」

兵の雄たけびが響き渡る


騎馬のスピードを上げ敵の包囲に真正面からぶつかる




「アレン、こっちは後何人残ってる?」

「私たちを入れて残り10人ほどです」

「逃げ切れたのは?」

「…」

「そう…」


背中を向けあい味方と愛馬の血だまりの中に立つ2人は肩で息をしながら襲い掛かる剣を捌く

200近くいた敵も50ほどまで減らしたが残りは精鋭だった


もう助からない…

なら…

一人でも多く


アリスは敵に切りかかる

しかし、その一撃は防がれ満身創痍の体では受け止めきれない


「アリス様を助けろ!アリス様さえいれば何度でも立ち直れる!」


アレンは声を張る

その声に残りの騎士はアリスの周りを囲むために急ぐ

だが、彼らも限界を迎えているうえに敵を背負っている

その背を敵に切られる


アリスの前に立つ兵は剣を振りかぶる


「この戦いから退場しろッ!アリス・フォン・オルレアンッ!!!」


アリスは目を閉じることなく気高い瞳を敵に向けていた

帝国兵たちはその姿に誇らしさと助けられない無力さ悔しさを味わう


私の物語はもう終わる

帝国に勝利を届けられないことが悔しいけど十分やった


騎士の心を持つアリス

最期の最後にもう一人のアリスが顔を出す

平和な世界で笑顔で皆で生きたい

騎士になった時に誓った決意が壊れる


死の間際に一筋の涙がこぼれる


生きたい…


だが無情にも敵の刃は振り下ろされる


はずだった

だがアリスを切るはずだった剣は一向にアリスを貫かない


「君の仲間の剣借りてるね」


アリスの前には一人の剣士が刃を抑えていた


「あなたは…」


敵の剣を弾き男は答える


「俺は何者なんだろうね

分からないけど気づいたらここにいた

助けを求める思いがここにあったから」


男は悲しげに微笑む


その姿を見てアリスは昔読んだおとぎ話を思い出した

綺麗ごとだけの綺麗な憧れの騎士の話を

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Alternation End~最強の勇者は過去を変える~ たかてぃん @takatin1020

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