第28話 黒魔術師
ブレイズとヘルガは縄で縛った人攫いに道案内させていた。
「妙なことをしたら命はないぞ」
「わ、わかった」
二人は人攫いの案内で城下町の中でも治安の悪い、スラムに入って行った。スラムは薄汚く不衛生だった。道の端には汚泥が溜まっており、すれ違う人の目はギラギラとしていた。
「なぁ、あんたら。悪いことは言わねえから、今からでも奴らと関わるのは止めた方がいいぜ。俺らでさえ、あいつらはおっかねぇんだ」
人攫いは道案内の傍らに二人に忠告した。人攫いであっても黒魔術師は恐ろしいようだった。
「忠告ありがとね」
ヘルガはまったく不安を感じておらず、気楽にお礼を言っていた。
そして人攫いの案内で歩くこと数分、人攫いは足を止めた。
「ここだ。ここで攫ってきた奴を引き渡してたんだ」
そこはスラムの中でも大きな建物だった。ここが現在の黒魔術師の根城となっているのだ。
「扉を開けさせろ。いつも通りを演じるんだ」
「わ、わかった」
人攫いは扉をノックした。すると内側から声が聞こえた。
「誰だ?」
「お、俺だよ。また攫ってきたんだが……」
「あぁ、お前か。入れ」
人攫いはここの常連なようで、声だけで確認が済んだ。問答が終わると扉がゆっくり開いた。そしてブレイズとヘルガは武器を抜いて、中に突入した。
中には怪しげな仮面を付けた黒魔術師と思しき連中がいた。
「黒魔術師だな! 動くな! 動くと命はないぞ!」
中に入ったブレイズは大声で啖呵を切った。突然のブレイズとヘルガの登場に黒魔術師は驚いていた。
「クソっ! 騙しやがったなっ!」
黒魔術師は人攫いが裏切ったことをすぐに把握した。黒魔術師はすぐに呪文を唱え始めた。魔法を使う気なのだ。
しかしブレイズとヘルガはそれをさせなかった。二人は一気に黒魔術師に近づいて斬り伏せていった。
黒魔術師は戦闘に慣れていない様子だった。魔法を唱えられた黒魔術師もいたが、それをブレイズとヘルガに当てることは出来なかった。
「ヘルガ! 全員は殺すな! 何人かは生かすんだ!」
「了解!」
ブレイズとヘルガは黒魔術師を生け捕りにする余裕すらあった。ブレイズが峰打ちで黒魔術師を制圧していると、仮面を付けフードを目深に被った人物が逃げようとしていた。
「逃がすか!」
ブレイズはその人物の腕を掴み、万力のような力で握った。
「ぐっ!」
その人物はすぐに懐から短剣を取り出し、ブレイズの腕を切断しようとしてきた。ブレイズはそれを見て、咄嗟に掴んでいた手を離した。
そしてブレイズの拘束を解いたその人物は窓から飛び出て、そのまま逃げていった。ブレイズはその人物を追わなかった。
なぜなら目の前の黒魔術師への対応が忙しかったからだ。
そしてブレイズとヘルガが黒魔術師と戦うこと数分、建物の中にいた黒魔術師は二人の手で制圧されていた。
数人の黒魔術師は生け捕りにした。証人として必要だからだ。
しかし一人は逃がしてしまった。ブレイズは逃がした人物を握った手の匂いを嗅いだ。かなり特徴的な香水の匂いがした。
「犬でもいれば後を追いかけられるだろうな」
「まぁでも、一人じゃ何も出来ないでしょ」
「そうだな」
ブレイズとヘルガは生け捕りにした黒魔術師を縛り上げると、詰め所に行って兵士を呼んだ。兵士は黒魔術師を立たせると、そのまま牢屋に連れて行った。
※
黒魔術師の根城を制圧したブレイズとヘルガは、夜が明けると王城に向かった。大臣に成果を報告するためだ。
二人は応接間に招かれた。そこで待っていると大臣が嬉しそうな様子で入って来た。
「ブレイズ殿、ヘルガ殿、良くやってくださいました! これで黒魔術師が何かする前に処理することが出来ました!」
大臣は黒魔術師の捕縛と討伐に喜んでいた。
「しかし大臣、戦いの最中、一人黒魔術師を逃がしてしまいました」
「心配は無用だ、ブレイズ殿。奴ら一人で何が出来ると言うのです」
一人を逃がしたことは、大臣は気にしていなかった。そして大臣はブレイズとヘルガに報酬を渡した。
「それから王城での登用の件だが、まだ少し承認を得るのに時間が掛かりそうなのだ。今しばらく待っていて欲しい」
「承知しました」
大臣は二人を王城で登用する件を忘れていなかった。まだ時間が掛かるため、一旦二人は王城を後にすることにした。
二人が応接間を出て廊下を歩いていると、目の前から華美な服装の人物が歩いてきた。その人物はこの国の第三王子だった。
ブレイズとヘルガは端に避け、第三王子に頭を下げた。そして二人と第三王子がすれ違うとき、ブレイズは一つのことに気付いた。王子は腕に包帯を巻いていた。
「申し訳ありません、王子。一つお伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
ブレイズは王子に突然話しかけた。
「ちょっとブレイズ!」
ヘルガは流石にいきなり話しかけるのはマナー違反だと思ったのか、ブレイズを注意した。しかしそんな注意を無視してブレイズは王子に話しかけた。
「非常に良い香りの香水ですが、それはどちらのものでしょうか?」
「い、いきなり何だ貴様!」
「それからその腕の包帯、どうなされたんですか?」
「け、稽古で怪我をしたのだ!」
第三王子はしどろもどろに答えた。そしてブレイズは核心を突いた。
「その香水に、腕の包帯、もしかすると昨夜お会いしませんでしたか?」
第三王子は図星を突かれたような顔をした。
「まさかここでお会いできるとは! 黒魔術師様!」
ブレイズは昨晩取り逃がした人物が目の前の第三王子だと気付いたのだ。
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