Gaurika Unboxing ――我、メイドロボを開封す――
ねんど
第1話 はじめに
幅と高さ60センチ、長さ1メートル、分厚い非分解性プラスチックで誂えたケース。本来、納まっているべき実用本位な円筒形の機械は、銀髪でミルクココアの肌色をした無駄に可愛い少女の姿だった。
「……なに、これ」
それは休日のお昼ちょっと過ぎのこと。荷解きの為そこだけ退けられたゴミだらけのリビングの中央には、お疲れ気味な三十路と梱包された少女……型のロボット。
家事用機器を買ったのは、そもそもが色々と限界だったからだ。中堅のIT系企業でリモート業務から対面対人要員に部署替えになったとたん時間が吸い取られた。なぜに「その話は俺を通せ」っていう奴に限って仕事ができないのか。
かくして日々の削れる精神は物理的なゴミとなってマイ賃貸マンションに堆積していく。そう汚部屋。汚部屋はまずい。片付ける気はあっても帰宅し惨状を見た途端やる気がなくなる。まさに悪循環。
決して綺麗好きではないが、それでも人並みには片付いていた。散らかしパワーが片付けパワーを上回って1年。まだ床は見えるし異臭もしていないけど、そろそろ本気で対策しないと人間の尊厳と賃貸物件に瑕疵が付く。
だから焦っていた。飲酒からの現実逃避の流れで家事代行業者を探してはみたものの、土壇場になって入居中の賃貸にはこういった業者は規約上入れないと判明。
いや、まだだ。現在の高級家電には家事機能付きのモノがある。全国のお嫁さんが全力でお勧めするHon〇aの家宰ロボット。中古なら100万しない。
酔う為だけの安酒が酒瓶から半分ほど消えたころ、世界的なオークションサイトで登録されたばかりの家事ロボットを見つけた。
比較的有名なインドの家事ロボットメーカー製。製造から7年、実質的な稼働は100時間未満の新古品。世代的には1世代前となる。価格は120万ほど。予算オーバーだが最新AI対応済、構造的バッテリーは電子篭式蓄電池、擬指型マニュピレーター、省電力静音モーター装備と欲しい機能は全て備えていた。
「出品もインドの人だけど……準備中?」
出品ページには商品の写真は見当たらない。商品紹介は現状ではテキストのみだ。また後でとページを移動しかけてチャットコールのダイアログが表示された。
”ID:xxxxxhg様宛に出品者からチャットの要請が届いています”
IDはもちろん俺の登録したものだ。ページ見てたのわかるのかと若干驚いたがメーカーHPのヘルプチャットと仕組みは同じだと納得して申し出を受けた。
――はじめまして。私はイシャーンという。あなたは日本人か?
――はい。日本人です
入力されたテキストは相互に翻訳されている。やり取りに問題は無い。
――私は日本のマンガが大好きだ
出品物も日本のマンガやアニメをリスペクトしたセミオーダー品だ
――ほうほう
――愛らしさと機械の格好良さをモチーフにした
このデザインの価値が解る日本人にぜひ譲りたい
最初こそセールストークかと警戒していたが、彼の熱く語るロボット&漫画談議についつい話が弾み、それを肴に酒は進む。
もちろん出品物の確認は忘れなかった。なにせ少なくない額の貯蓄を取り崩すのだ。AI規格が未承認で日本では使えないってのではシャレにならない。
買う直前に慌てて調べ始めた程度の素人な質問にイシャーンは丁寧に答えてくれた。日本の家庭用電動体規格に適応していて問題なく使用できるようだ。本体保障に関しては起動時間が対象なのでほとんど残っている状態。整備に関しては日本に直営の代理店があり、しかも割と近所だった。
移譲手続きや輸出も日本なら他の国と比べてかなり楽だという話を耳に引っ掛けながら、出品物と同程度と思しき価格帯の家事ロボットをネットでチェックする。
なんというか、贅沢仕様の収納式二腕型とはいえ背の高いキャスター付きの炊飯器。セミオーダーしたい気持ちもわからなくはない。これで新品だと……ざっと200万か。新古品扱いで、ほぼ半額。悪くない。というか条件が良すぎるのでは? と探りをいれると、このタイプのセミオーダー品は未使用であっても良い値はつかない。なにより即金が条件ではしょうがないと正直に伝えてきた。あ、即金だったのか。
まぁ、気が付けばポチっていた訳だ。酒に酔ってはいないつもりだったが、少なくとも素面なら送料、登録諸費用等々で130万超えの買い物を海外の、しかもオークションで、あまつさえ即金で買うなどまずありえない。夢なら良かったが口座からはがっつり引き落とされていた。
金額が金額だけに翌朝の後悔は現実逃避を伴った。ようするになかった事にして記憶の外に追いやったのだ。したがって届くまで商品を再度チェックする事もなく、梱包状態を撮影して送ってくれた出品主のメールを確認することもなかった。
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