燃やせ、その心まで

その雷、刹那を駆ける メイ

「えーと、じゃあまず、好きな食べ物とかあるのかな?」

「…やだ。」


 やだ。おまえと話したくない。なにもされていないのに、頭のズキズキが止まんない。キッと睨んでやったら、心底つまらなさそうな顔をされた。


「…お母さんの手料理は?なにが好きだった?」

「………お母さんなんていない。」

「あはは。誰にでもお母さんはいるもんだよ。ほら。思い出してみて。」


 お母さん…?

 どうしよう。もっと痛くなった。頭が締め付けられるような痛み。お母さんなんていない。お父さんなんていない。メイは1人。1人なんだから。


『メイ、おはよう。』


 え?この声は誰?優しく包んでくれる、あったかい声。自然と涙が出るような声。メイにお母さんはいない。そう思ってたはずなのに、気づけばメイは…。


「ママ…?」


 と、つぶやいていた。


「いやぁ、よかったよかった。やっぱり記憶って何かの拍子に思い出せるものだからなぁ。」

「メイ。大丈夫?メイ!」

「…ケイト…メイには…ママがいた。」

「…辛くないの?」

「うん。」


 でもまたひとつ、頭が痛くなる。

 ハッと浮かんだのは、家の中のことだった。


『メイ、お姉ちゃんになるの?』

『そうなの。この子の名前はーー。メイ、ちゃんと仲良くしてあげてね。』

『うん!』


 どうしよう。震えが止まらない。

 メイはおねえちゃんだから大丈夫。少し頭が痛くなるけど使っていたおまじない。

 あの「おねえちゃん」は、『大人びた女の子』じゃなくて、ただ、『姉』っていう意味だった。


「メイ…お姉ちゃんだから…。」

「ん?」

「メイ、お姉ちゃんだった!忘れてたけど、お姉ちゃんだった!」

「…へえ。それはおめでとう。」

「だから…お前も倒す!」

「………。」

「メイは誰かのお姉ちゃん。でもその前に、メイには弟がいるもん!コウ、ガク、ケイトっていうんだけどね。」


 ケイトの表情がやわらかくなる。

 メイはお姉ちゃんだったけど、それは元から変わらないことなのだ。


「お姉ちゃんだから、弟たちは絶対守る!」


 ツノにグッと力をこめて、身長を伸ばす。行き場のないこの『ときめき』をぶつけるのだ。

 あんまりやりたくなかったけど、やるしかない。ずっとあいつらとやってきたことだ。研究されていたことだ。大丈夫、ちょっとだけなら。


「メイ、お姉ちゃんだもん。」


 ツノにググッと力をこめる。まずはコウより少し小さいくらい。そこからさらに、胸に力を込める。


バチバチバチッ…。


 ツノの周りで音が鳴る。

 

「っ……!」


 痛い。けどもう止められない。両手を思いっきり、『なにか』に向けた。


バチッ!


「グッ…!」


 あんまりやりたくなかった、手のひらから電気を発する技。『なにか』は感電して、倒れていった。

 大丈夫かな。怖がられてないかな。


「…守ったよ。」


 呆然と立つケイトを見て、そう言った。

 

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