パチットモンスター〜世界の調和を守るため!世界の破滅を防ぐため!誠の正義と悪を貫く!〜

低生下衆《ひくき げっしゅう》

Hello New World

これってパチモンじゃねーか!


──ザザッ……


 世界にスノーノイズが走った。荘厳なBGMが何処からか流れ始める。


 クラシックだろうか?運命のように鳴り響いて叩きつけられた。


──不気味な谷の向こう側に人影が見えた。


「改めましてっ!パチットモンスターの世界へ、おかえりっ!儂の名前はショーキド!世界中の人からパチモン博士として──」



──知られておらんのかもしれんのう……



 突然話し始めた人影は白髪の老人になり、顎をさすって残念そうに首を振った。谷の向こう側に居たはずなのに、いつの間にか真正面に居た。ひたすら不気味だった。


「まあええわい──この世界には、パチットモンスターと呼ばれる不思議な生命体達があらゆる所に住んでおるっ!そのパチモンという生き物を人は相棒としたり、防衛に使ったり…そして儂は、このパチモンの研究をしているというわけだ」


「では、改めて君の名前を教えてもらおう!」


 俺の──誰かの口が勝手に開いて、知らない名前を言った。


「ふむ…ハタガシラ=オロカと言うんだな!」


 違うっ!と……言えなかった。なんだか確かにそんな気がしてきた。


「──さあ!名前も決まった!いよいよ、これから君の物語は書き直される。危険と困難とパチットモンスターの世界へ、ホールインワン!!」


 俺はただ見つめる事しか出来なかった。いつの間にか背後に回った、訳の分からない爺さんにぶっ飛ばされて、俺は不気味な谷の向こう側へと飛んで行った。変な夢だと思った。そして、いつの間にか意識が途切れた。



─────



 頭が痛かった。何か年老いた男の声が響いた気がした。熱くて焦げた匂いが、酷く鼻を刺激した。


「うぅ……ここは?」


 周囲を見回す。コンクリートの瓦礫と近くで燃え続ける真っ赤な火種。サイレンの音。まるで空襲を受けたような街が、目の前に広がっていた。


「なんだこれ……それに血?」


 痛みから、頭を抑えた右手には血がベッタリとついていた。どうやら怪我をしているらしい。


──ドーン!!!


「こっちに来たぞー!!」


「やべぇって!アイツたぶん黒とクリアのカラーのパチモンに操られてる!コアが濁ってるっ!」


「ガードとガードリーダーはまだか!!」


「センジュさん達は南東でまだ大型パチモンの大群の相手をしてるって!!」


「くそっ!!なんとかして市民が避難する時間を稼ぐぞ!!」


 唐突に大きな破壊音がした方に目を向ける。すると、銀色の未来的な篭手を片手に装着し、統一された制服を着た男達がいた。周囲には男達と一緒に戦う小さな怪物達と、それに対峙する赤く強大な怪物がいる。現実感がない。それでも怖気が走る。冷や汗が止まらない。


「なんだあれっ!やばいだろ。逃げなきゃ、逃げなきゃ・・・」


  思わず、怪物達とは逆方向へと駆け出す。


──でも、なんだ。あの怪物達なんか見覚えが……


「市民の皆さん!!こちらです!!訓練通りに、慌てず騒がず避難を!!」


 息を切らしながら逆方向に走っていると、運良くあの怪物から逃げている集団と、その集団を誘導している制服の男と合流が出来た。制服の男の傍には犬の様な生物が居て誘導を手伝っている。


 そのまま、彼らの流れに逆らわずに逃げた。すると地下のシェルターへと誘導されて、とんとん拍子に怪我の治療まで受けられる事になった。


「これで良しっと…後は1週間もすれば、傷も綺麗に塞がるだろうよ。坊主、よく我慢したな!」


 賞賛を込めて、ドクターが背を叩いてくる。人好きのする笑みだ。


「ええと、ありがとうございます。それより先生、あの暴れてた怪物ってなんなんですか?」


「ああ?どいつのことを言ってるのか分からねえが、どうやらこの街に恨みを持つ黒とクリアのカラーのパチモンに操られて、近隣の大型パチモンが侵攻してきたみたいでな、上は酷いことになってるよ」


「パチモン・・・」


「ああ、坊主の治療を手伝ってくれたこいつみたいな優しいパチモンもいるんだがな。こうやって攻撃してくるパチモンもいるんだから、厄介な話だぜ」


「リチュチュ」


 およそ40センチほどの、緑色のリスに似た生物が、ドクターの肩に登って可愛らしく挨拶をしてくる。額には綺麗な緑色の宝石が輝いている。


──はあっ?何だこの生き物。つーかパチモンって、あれだろ腕に装着するキャプチャーガードで、パチモンのコアを狙撃してパチッと捕まえるやつ。色んなパチモンをGETして鍛えて最強のパチモンマスター。エンペラーガードを目指すやつ。


──懐かしいよなあ。パチットモンスター【ファイア】【ウォーター】【プラント】それぞれで出るパチモンが若干異なってて、通信交換とか友達とやったっけ。その後も後継のシリーズが何作品も出て、漫画もアニメも盛り上がってた。続けてやりたかったけど、新しいゲーム機を買えなくて第三世代までしかやれなかったんだよなあ。


──つーか、じゃあこのリスってイヤシリスか?なんとなく面影が……それにあの火を噴いてた怪物も、赤のカラーのバーナドンか?でも野生でバーナドンって出なかったような……


「それじゃ、坊主。後は避難所でゆっくり休んどきな」


「あっ、はい。先生ありがとうございました」


 そこからは事態が落ち着くまで避難所生活だ。ただあの襲撃で両親は行方不明。戸籍はあったようで、なんとか両親の遺産やらなんやらと、相続は出来たが、親戚もおらず天涯孤独の身。


 容姿と名前は前世……いや、パラレルワールドの自分と変わらず、なんというかパチモン世界の幼い自分に憑依したみたいになった。けど、現実感が無くて気持ちが"ふわふわ"している。


──つーか、今8才だよな。俺が初めてパチモンをプレイしたのも大体そんくらいだから、そういう事か?そもそもこのゲームの記憶も意味わかんないよな。まあ、孤児になってしまったから、この街──セントラルシティが後見人になってくれた。


──希望したら、この世界の俺が通っていた一般スクールではなく、パチモンマスターを養成するマスターアカデミアにも編入できた。そして、そのアカデミアの寮にも入れた。


──直近だと大丈夫そうだけど、ゲームとかアニメ通りに、悪の組織の暗躍とかパチモンによる世界の危機とかあんのかな?


「だとしたらやべーよな。つーか今の時系列がわからん。ただセントラルシティのガードリーダーがセンジュさんなんだし、ゲームが始まるより前って考えていいよな。ゲームだとセンジュさんがジェネラルガードになって、娘のエンジュちゃんがリーダーになってた。それならまだ悪の組織は結成されてないって事か?」


──まあ何にせよパチモンだよな。パチモン。かっこよくて、可愛くて、強くて、怖くて、優しくて……そんな奴らをGETして、鍛えてエンペラーになる?…やべーだろそんなの。


──くぅ〜…テンションぶち上がるって!しかもこの世界、普通にエスパーとかゴーストスイーパーとかスーパーマクロ人とか特殊な能力を持った人達が普通に存在してんだろ?いやいや、怖いけどさ、そんなのワクワクが止まんねえんだけど!?


「まっ、何にせよあれだよな。まずは普通に金が欲しいわ。両親の遺産があるとはいえ、歳のせいで自由に使えないし、この世界でもウチは貧乏だったみたいだしな。やっぱ欲しいよな。金稼ぎ用のパチモン」



Tips

──パチモンは高次のエネルギー生命体だ。摩訶不思議な力を使い、意味不明な生態をしている。パチモンの主な特徴としては3つ。


──特異なエネルギーを操り、パチモン世界に創造して顕在する【具象化】


──危機に際して、自らの身を守る小さくて堅牢なコアに身を隠して、省エネ化する【核化】


──高次のエネルギーのぶつかり合いの果てに、錬磨し具象化を昇華した果てに至る【進化】


──そして、コアの色によってパチモンは具象化した時に振るう力を決定づけられ、様々な姿を形取る。よってパチモンは赤、青、緑などのカラーによって区別されている。


──パチモンの由来はパチモンの核化を利用して捕まえる際に、パチッという効果音を残して、人の用意したコアへと移動する事から名付けられた。決して現実に存在する姿が仮の姿だからではない。

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