第42話 修学旅行最終日も、彼女と共に
観光バスに乗り、俺達は最後の目的地である大阪の大型テーマパークへとやってきた。
修学旅行最後の滞在地にして、多くの生徒が楽しみにしていた場所。
それは勿論俺達も同じだ。
担任の飯島先生から口酸っぱく周りの迷惑を考えるように言われ、それを心にしっかりと留めた後に、行動班でまとまって中に入る。
そして入り口から少し離れた場所に全員で移動した後に、蓮が口を開いた。
「あー、えっと……ど、どうせ楽しむなら行動班じゃなくて二人一組のペアで回るのはどうかと思うんだけど、どうだ?」
事前に決めていたこともあってか、少しわざとらしいセリフに小さくだけど笑ってしまった。
「いいんじゃないかしら? なにも行動班全員で絶対に回らなきゃいけないっていうわけじゃないし。じゃあ藤堂君は私とで良いわよね?」
「え……委員長と?」
「何か文句でも? 東川さんが言うには、この中だと私くらいしか手綱を握れないみたいだけど? 周りに迷惑をかけない自信があるならそれでもいいけど」
「いえ、委員長が良いです!」
変わって話をまとめ始めた栗原さんは慣れた手順でペアを決めていく。
蓮と栗原さんは事前に打ち合わせている筈だけど、それでいいのかというペア決めの理由だった。
まあでも、こういった楽しい場所で羽目を外しそうな蓮を止めるという意味では栗原さんが最適だろう。
そんな事を思いながら苦笑いをして二人を見ていると、栗原さんは次に俺を見た。
「優木君は嵐山さんとペアで良いわよね? 友人二人で、存分に楽しんできて頂戴」
「ああ、分かったよ」
「了解」
流れるような動きで俺と嵐山さんのペアを決め撃つ栗原さん。
そして最後に青木と矢島さんの方を見た。
「そうなると、最後に余る形で申し訳ないんだけど、矢島さんと青木さんでいいかしら?」
「え……う、うん……青木君、それでいい?」
「う、うん、大丈夫」
栗原さんと蓮、そして俺と嵐山さんがペアになったことで、自然と青木と矢島さんがペアになる。
二人はこの修学旅行の行動班で一緒に居る間、良い雰囲気だったという事もあって、意外とあっさりと受け入れてくれた。
チラチラとお互いを見ては目を逸らす矢島さんと青木をほっこりとした気分で見ていると、蓮が声を上げる。
「じゃあ、行くか。お互い好き勝手にアトラクションに乗って……あ、でも昼飯くらいのタイミングでどのアトラクションが面白かったとかはグループRINEで教えてくれよな」
「おっけー」
「分かったよ」
誰か一人が報告すればいいので、俺と青木が返事をする。
そうして俺達は二人一組となって、それぞれ違う方向へと歩き出し始めた。
◆◆◆
数分後、俺達は立ち止まってテーマパーク内の地図を見ていた。
たまたま置いてあったパンフレットが目に入ったので、それを一人一つ手にして見ている感じだ。
と言うのも理由が一つあって、実はどのアトラクションに乗るかを事前に決めていなかった。
俺が嵐山さんにペアで回ることを打診したのは昨日の午前。
そして昼にはあの厄介な出来事があって、その後は一切連絡を取っていなかった。
本当なら夜にRINEのやり取りで決めようと考えていたが、それも出来なかった。
そんなわけで、いま改めて決めているという事。
ちなみに事前にどんなアトラクションがあるのかはネットで調べている。
だから後はどれに、どういった順番で乗るかなんだけど。
「嵐山さん、苦手なアトラクションとかある? 絶叫系がダメとか、ホラーがダメとか」
「ない。優木は?」
どうやらないらしい。
こういうのって女の子は苦手な場合が多いと思うけど、嵐山さんは違うみたいだ。
確かに彼女が絶叫系やホラーを怖がっている、という様子は想像できないけど。
「俺はまあまあかな。苦手ではないけど、みたいな感じ」
実際は少し苦手ではあるんだけど、ちょっと良いところを見せようと思って強がった。
嵐山さんは俺をじっと見た後に、再び手元のパンフレットに目線を落とす。
やがて再び俺の方を見て、なら、と口を開いた。
「私がどこを回るか決めてもいい?」
「え? うん、決めていいよ。嵐山さんの選んだアトラクションなら楽しめると思うし」
正直に思ったことを口にする。
なんでかは説明できないけど、彼女が選ぶアトラクションなら外れはないと、そう思えた。
同じ趣味を持って、共感し合えた仲だからかもしれない。
嵐山さんは小さく笑って、俺に近づく。
持っているパンフレットに指を置いた。
「それじゃあ、ここで整理券を貰った後に、こっちに移動する。で、並んだ後に乗って、次は――」
嵐山さんは次々にアトラクションを回る順序を説明していく。
さっきの短い時間でここまで考えられたのか、すごいなと思いつつ説明を聞いていた。
彼女が指さしていく中には絶叫系のアトラクションがあり、最初に整理券を貰うアトラクションについてはホラー系だった。
他にはそうじゃないものもあるけど、意外と攻めたチョイスで少し驚いたくらいだ。
「ジェットコースターに、ホラーか……」
「うん、実は結構こういうの好きなの」
「あ、そうなん――」
好きという言葉を聞いて嵐山さんの方を見ると、思いの外彼女が近くにいて驚いた。
言葉を止めてしまったことを不審に思ったようで、嵐山さんも少し遅れてから反応する。
「……ちょっと多い?」
「あ、ううん、このくらいの数なら回りきれるんじゃないかな。今日は平日で人も多くないし」
「うん、そうだね」
一つのアトラクションに並ぶ人もそこまで多くないだろうと思って、俺はそう答える。
すると嵐山さんは満足したように俺から離れた。
パンフレットを見て、俺はこれから向かう先に目を向ける。
言った通り、歩いている人はそこまで多いとは感じなかった。
「じゃあ行こうか、時間がもったいないし」
「うん、それについては同感。早速行こう」
嵐山さんと頷き合って、俺達は歩き出した。
◆◆◆
数時間後、ジェットコースターを始めとするいくつかのアトラクションを楽しんだ俺達は、少しだけベンチで休んでいた。
楽しみつつも、少しだけ疲れた感じがする俺とは別に、嵐山さんは心から楽しんでいるみたいだ。
絶叫系が好きというのは本当だったみたいで、乗る前と乗り終わった後は珍しいくらいの笑顔だった。
乗っているときも叫び声こそ上げていなかったけど、楽しんでいるんだろうなというのが隣から伝わってきていたし。
「優木、大丈夫?」
「うん、ちょっとだけ疲れただけだからね」
かくいう俺は少しだけ疲労を感じていた。
絶叫系が大丈夫だと思っていたけど、実はこういった大型テーマパークに来るのは久しぶりだ。
楽しめているのは間違いないけど、絶叫系に関してはなんというか、おお、という感じだったりする。
なんだろうか、楽しめてはいるけど手放しで喜べるほどではないと言うか。
苦手ではないけど、大好きというわけでもないと言うか。
加えて、結構なペースでアトラクションを回ったというのもある。
当然各アトラクションの距離は離れているから少し早歩きをする場面もあるわけで、移動の連続で少し疲れてしまった。
自販機で購入した飲み物を一口飲んで、一息つく。
疲れたとはいえそれは本当に少しで、伸びをして、よし、と気合を入れれば気持ちを切り替えられた。
まだ時間はあるし、全然まだまだ楽しめそうだ。
スマホを取り出して念のために時間を確認する。
見てみれば、お昼を過ぎていた。
どうやら楽しんでアトラクションを回っていたことで、時間があっという間に過ぎたようだ。
「あ、もうお昼の時間過ぎてるね」
「え……あ、本当だ」
嵐山さんもスマホを取り出して時間を確認したようで、声を上げる。
彼女も夢中になっていて時間を忘れていたようだ。
「楽しかったから全然スマホ見てなかった……」
「並んでいる間も音楽の話とか、色々していたからね」
「うん……楽しい時間が過ぎるのはあっという間。授業の時間とかは長いのに」
「それは本当にそうだと思う」
嵐山さんと一緒に居ると退屈しない。
アトラクションに並んでいる間も、前方に並んでいる人や後方に並んでいる人を見て話題にすることはあったけど、スマホに関しては取り出すことすらしなかった。
そのくらい、彼女との会話は楽しめたから。
「じゃあ、どこかでお昼にしようか」
「そうだね、近くにレストランがあるみたいだから、そこでいいかも」
パンフレットを見ながらそう言ってくれた嵐山さんの言葉に頷く。
俺も嵐山さんも、どちらかというとこの場では食事よりもここにいる時間を楽しむことが目的だった。
このテーマパーク特有の食事には興味があるけれど、わざわざ見て回ったり、遠くまで行くつもりはない。
立ち上がると、嵐山さんも少し遅れて立ち上がる。
そうして俺達は二人揃って、レストランへと向かって行った。
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