黒龍外伝~幽界への扉~
青鳥翔(あおとりかける)
第1話 死の誕生
「お前は、化け物だ・・・!何者なんだ!お前は!」
今目の前で木の棒を振り落ろそうとしてくる黒服の男に対し拳銃を向け、恐怖を露わにする者。しかしそんな弱りきった者の懇願の叫びは虚無であった。その黒服の男は何も言わずに木の棒を振り落とし、その者は頭蓋骨粉砕、脳漿が吹きだし絶命していった・・・。
『早く沙也加の元に行かなければ・・・。』
フラフラの状態となり、理性をギリギリのところで保ちながら、自身の妹の元へと急ぐ黒服を着た男。しかし、全身は銃弾を何発も喰らった事で血塗れになり、心臓も撃ち抜かれている。彼は虫の息であった。そしてその男の命の灯は自身の妹の頭蓋骨を持ったと同時に消え失せた。
・・・
「はっ・・・!此処は・・・?」
男は緑色に染まった草原にただ突っ立っていた。さっきまで暗闇の中であったのに、太陽光がサンサンと光り輝く大地に居たのだ。その景色に茫然としていた男だったが、突然黒服を摘み、声を掛けてきた者がいた。そう。彼の妹、沙也加だ。
「・・・ごめん。救う事が出来なかった。沙也加のお兄ちゃんなのに、ごめん。ごめん・・・。」
この男の名は暁翼(あかつき つばさ)。たった今滅ぼされた『このゑ村』の住人の一人であり我流の刀の使い手だ。
「つばさ兄ちゃん・・・。あれは、仕方なかった。私達が銃を持った団体に太刀打ち出来る筈がない。最期まで私達の為に戦ってくれてありがとう。」
沙也加は震えている手を押さえながら、翼の事を宥めた。その様子を見た翼は涙が止まらなくなり、彼女を抱きしめ、「ごめんなさい!」と何度も言い続けた。
「つばさ君・・・。」
このゑ村の住人たちが二人の元へと歩み寄る。しかし、その感動の再会は一瞬で終わりを告げた。次の瞬間、得体の知れない者がその中の一人を斬り裂き、平和な光景は一瞬にして赤く染まった。それはたった一瞬の出来事であった。いつの間にか赤色をした化け物達が村の住人達を囲んでいたのだ。その場にいた全員が凍りつき、その恐ろしい見た目をした化け物に、住人達はパニックを起こす。そして、それらの手により次々と住人が倒されていった。
「やめ・・・やめろ・・・!俺から何も奪うな!!」
翼は目の前に広がっている赤い景色に心が潰される。それと同時に助けなければと死ぬ前に持っていた木の棒を握り締め、化け物達を叩く。しかしそんな攻撃は化け物に通用する筈がなく、あちこち血潮が舞っていった。そして沙也加の身にも鋭い爪が迫っていた。
「危ない!!」
沙也加を庇う翼。しかし、庇おうとしたところで足を挫き、バランスを崩した事で鋭い爪が彼の腹に深く突き刺さった。
「がはっ!!」
翼は腹部から血を吹きだしながら、その場で倒れ込む。腹から腸が飛び出し、激痛が彼を襲う。
「つばさ兄ちゃん!!」
その光景を見た沙也加は恐怖のあまり、固まった。そして動けない少女を化け物は見逃さなかった。背中から貫かれたのだ。
「はっ!・・・お前・・・許さない!!」
激痛を怒りに変え、木の棒を手に取り、フラフラと立ち上がる翼。すると何故か怪我していた腹部が回復していったのだ。それに加え体が燃えるように熱くなり、いつの間にか持っていた木の棒が黒の刀に変わっていた。
「これは・・・?いや、今はそんな事どうでもいい!!」
がむしゃらに刀を振るい、化け物を制裁していき、血が止まらない沙也加にトドメを刺そうとしていた化け物の首を斬り落とした。
・・・
「み、皆・・・。また俺の前から消えて・・・。」
翼は血に染まった草原の中に立っていた。化け物の脅威から誰も助ける事が出来なかったのだ。するとか細い声で沙也加が何か話そうとしていた。
「沙也加!!死ぬな!!今止血するから、目を閉じないでくれ!!」
翼は沙也加の元へ駆け寄り、草を使って止血をしようとする。しかし、それを沙也加は止め、ある一言を発した。
「貴方は・・・本当に、人間なの・・・?」と。
「・・・えっ?」
その言葉に硬直する翼。しかし沙也加はそれ以降口を開く事もなく、消滅していった。
「あれ・・・?何故俺だけ生きている・・・。何故俺だけ死なない。ふざけるな、ふざけるな!!!」
彼は二度も村の仲間達を救う事が出来ず、自暴自棄になり、自身の顔面を何度も殴り続けた。そしてこれから20年もの間、血潮の飛び交うこの世界で生きていく事になるのだった。
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