第三章 思いもよらずライバル

「あれ?日高君・・と、一組の叶野君?珍しい組み合わせ・・というか、二人、友達だったの?」


「友達も友達。親友と書いてマヴと読む?BL的展開もアリな相棒です。」


「・・ぇ?」


俺から距離をとろうと後ずさる望。・・ぃぁ、もちろん冗談だよ?


「・・日高君、」


ゆらりと立ち上がる飛鳥井教師。・・ぬ、なんとなくだが黒っぽいオーラが見えるような、


「・・せんせい、そんな冗談、好きじゃないって前に言わなかった?言ったよね?」


「すいません、冗談がすぎましたぁ!!」


慌てて最敬礼の姿勢をとって謝罪する俺。ただの注意にはありえないレベルの恐怖を感じてしまいました。


「全く、職員室でそんなことを言うなんて・・」


「え?職員室じゃなければOK?先生には「腐」属性もあり?」


「ひ、だ、か、く、ん!?」


「すいません、また調子に乗ってましたぁーー!」


再び最敬礼な自分。後ろから笑いをこらえる声。望、笑うなっての。


「・・はぁ。・・・それで君は、私をからかいに来たの?」



「いえ。・・・魔法学を教えてもらいに来ました」



・・両者の間の空気が固まる。



「・・・ごめん。今のはどの辺が冗談なのかわからなかったわ」


「はい。冗談は無しで言いましたから」


 真面目に飛鳥井先生を見る。・・正直、普段の俺は、いい加減というかやる気がないのは自分でもわかっている。・・こうでもしないとまともに取り合ってくれないだろう。

最初から真面目に行けと言われそうだが、・・まぁ、その辺は性分なのでしょうがないと思ってくれ。


(・・・全く、その表情を普段から出せたら、もてるでしょうに・・・)


「え?何か言いましたか?」


小声すぎてよく聞き取れなかった。


「なんでもありません!真面目に勉強に取り組むことは良いことなので、補習をしてあげます!・・ただ今からだと、先に教える約束している子がいるから、その後になるけど、いい?」


「え?実は先生、ご指名率No1?」


「・・今この瞬間、補習の厳しさ度合いがうなぎのぼりになった気がするのは何故かしらね?」


不思議なこともあるもんですね、はい。


「他の人も補習とは、僕たち以外にも魔法を使えない生徒が?」


横に出て質問する望。む、いい質問だ。魔法が使える率がどのくらいかわかれば、習得の難易度もある程度わかるってなもんだ。

・・俺と先生の会話では、話が進まないと思ったからではないと思うことにしよう・・


「ううん、まだ魔法が使えない子も君たち以外に何人かいるけど、この子は、・・何て言うか自主トレの手伝い、みたいなものかな?」


「え?自主トレなら先生いなくても勝手にやればいいんじゃ?」


「・・はい?」


つい口に出してしまった突っ込みに、きょとんとした表情で返される。え?何かおかしな事言ってしまったか、俺?


「・・えっと、自主トレって実技の方よ?理論の方ならここで答えるし・・君たちもそのつもりで来たんでしょ?」


「ぁ~、モ、モチロン!」「・・そうですよ!」


「・・・なんかいきなり疑わしくなったなぁ・・」


とりあえず口車を合わせる形で返事をする俺と望。それにたいして疑わしげな視線を向ける飛鳥井先生。・・まぁ、当然だぁな。


 それにしても、・・とっさに俺に合わせた望の機転に、頼もしさを感じた。


「ま、いっか。やる気があるというのは嘘じゃないようだし」


「・・じゃあ、え~っと、・・多分三十分くらいで終わると思うから、その頃にまた来てもらっていい?」


う~ん、三十分か。微妙に時間があるなぁ?その間に、少しでも教科書とか読んでおくか・・っていうか、


「あの~、・・その人の自主トレを見学させてもらうって言うのは、ダメです?」


「!」


「・・いえ、それはちょっと、」


「僕からもお願いします!もちろん自主トレ希望の人が断れば仕方ないですが、できれば聞いてもらえないでしょうか!?」


予想外の支援に驚いてきょとんとなる先生。・・まぁ、正直、俺も驚いたけど・・


「・・わかりました。普段から優等生な叶野君がそこまで言うなら、彼女に一応聞いて見ます。ちょっと待ってて。」


「・・先生、生徒を差別するのはいけないことだと思います。」


「世の中、普段の行いがここ一番で利くってこともあるのよ。・・私、ちょっと良い事教えた♪」


・・・個人的には少々納得いかないが、身に覚えが無く無くもないので、そのまま待つ俺と望。



待っている間にふと思い出す。


「・・そういえば、フォーチュンはどこに行ったんだ?」


「ここにいますよ。」


声のしたほうを見ると、先ほどの妖精、フォーチュンが当たり前のようにそこで飛んでいた。俺も望も、驚く。


「・・さっきまでいなかったよな?」


「ずっといましたよ。他の人に見られたら、話がややこしくなると思って姿を隠してたんです。・・こんな風に。」


・・と言った時には、フォーチュンの姿は忽然と消えていた。辺りを見回すと、


「ここです。」


突然、真上から声がし、反射的に上を見上げる。フォーチュンが見えた。


「・・すごいな。全く見えなかったぞ。」


「たぶん、この姿が望さんとユージ以外に見られて、ややこしくなるのを防ぐためについた能力でしょう。・・望さん以外に姿を見せないなんて、なんて奥ゆかしい私♪」


頬に手を当て、なにやら妄想に浸っている妖精さん。俺についてはカウントする価値もないらしい。


「まぁ、確かに、他の人に見られると説明が面倒くさいからいいか。それはともかく、・・・その位置だと見えるぞ?」


「垂直切り込みキック!!」


空中から鼻っ先への鋭い一撃。ピンポイントで勢いがあるため、かなり痛い。


「全く、デリカシーのない人ですね。望さんとは大違いです。」


鼻っ面を押さえる俺と、かわいらしくプリプリ怒る妖精。そんな光景を見た望から一言。


「仲が良いよね、君たち」


・・うん、聞かなかったことにしよう。


「ぅ~、イテェ。・・それはともかく、望、ちょっと聞きたいんだが」


 しばらく経っても痛みが引かない鼻をさすりながら、俺は尋ねる。


「俺は実際、魔法をやるのを見て覚えるのが一番だと思って提案したわけだが、・・ひょっとして急がなきゃいけないくらい、きついのか?」


「え?そうなんですか、望さん?」


心配そうに望を見るフォーチュンと俺。


「・・確かに今もちょっとフラってするし、早く治せるならそうしたいという気持ちもあるけど・・」


望は、よく見ればやや不自然な呼吸と油汗をかきながらも、こちらを見ながら笑って言った。


「・・せっかくの魔法だし、できるだけいろいろ見たいというのは、僕も同じなんだよね・・」


む、かなり納得した。フォーチュンも心配そうながら、大体納得したようだ。



「あ、そろそろ先ほどの先生が戻られます。消えますね。」


言うや、再び忽然と姿を消すフォーチュン。う~ん、便利かも。


「お待たせ。承諾してもらったわよ。じゃあ、ついてきて。」


 先生の後についていく俺と望。そういえば、


「先生。自主トレ希望って誰なんです?俺の知ってる生徒ですか?」


「ん~。君が知っているかどうかはわからないけど、七組の立花さんよ。」


「立花・・聞いたことあるような・・」


「まあ、彼女二年ではちょっと有名人だし、隣のクラスなんだから、噂とかに疎い君でも聞いたことあるかもね。」


「噂に疎いってなんすか・・」


まぁ、そういうのにあまり興味がないのは事実だが。


「二年では有名人というのは?」


「・・あらら、叶野君もそういうのに疎い方?それなら、この日高氏と友人というのも納得できるかもね。」


「・・せんせの中の俺のイメージについて、できる限りの修正をお願いしたいのですが。」


「答えるまでもないと思うけど、もちろん却下します♪」


意地悪笑いを浮かべながら、教室のドアを開ける先生。ここは、確か空き教室か。


「ごめんなさいね、ちょっと無理言っちゃって。早速はじめましょうか。」


「いえ、彼らが見学希望という人たちですか?」



「「あ」」



 先生を待っていた生徒の顔を見て、ようやく思い出した。そうか、たしかにそんな名前で呼ばれてたな。


「・・見学希望って、日高君?」


俺の名前がすぐ出てきたことにちょっと驚いたが、あっちも顔を覚えていたのだろう。・・まぁ、正直、人の顔と名前を覚えるのがかなりダメな自分ですら覚えてたんだから、それが普通なのかもな。


「ああ。と、あと一人。いきなりでごめんね。」


「えっと、一組の叶野っていいます。突然ごめんなさい。」


「あ、ううん。それは別に構わないけど、」


「ひ~だ~か~く~ん~~?」


目を吊り上げ、不快そうに詰め寄る先生。下からその目線でみるのは辞めて。


「どういうこと?なんで日高君みたいないろいろ駄目な生徒が、よそのクラスの女子、しかも結構かわいいプチ有名人と面識があるわけ?一年でも同じクラスじゃなかったよね?」


・・・とりあえず泣いても良いですか、俺・・・


「あ、先生、日高君とは同じ部活なんで・・」


かばうように先生に説明してくれる立花さん。


「あ~、そう言えば~。それならお互い名前くらい知ってても不思議じゃないか~。立花さんも弓道部だったわね。」


「はい。」


 なにやら気が抜けたような我がクラスの担任。しかしこのままでは話が進ま


「えっと、・・何か大変そうですが、補習はどうなったんでしょう・・?」


んぞ、と思ったところで望からの提案。む、微妙にいいタイミング。

正論を突かれて、複雑そうな顔で仕切りなおすマイティーチャー。・・なんでそんな表情になるの・・?


「そうですね。・・細かい事情はまた今度ということで、始めましょうか、立花さん。」


「はい!お願いします!」


・・細かい事情ってなんだ~~



「魔法結界展開。強度レベル・・・4」



飛鳥井先生が授業の時と同じ様に複雑に手を振ると、これまた授業で見たのと同じ様な空間になる。・・いや、授業の時と何か違う?


「強度レベル4ですか! ・・ありがとうございます。」


「うん、立花さんが気兼ねなくやれるようにね。先生としてもなるべく生徒の全力を見ないと評価できないというのもあるし。」


そうか、確か今日の授業で結界を出したときは強度レベル3と言っていた。今回は4、その違いか。

ちなみに強度レベル3が授業用の最高レベル、レベル4は魔法学の講師用の特別レベルに相当すると知ったのはちょっと後の話だ。


「・・では行きます。今回の講義は魔法球の座標移動でしたよね。」


「普通に‘魔法の放出’って言ってくれて良いんだけど。・・まぁ、あなたがその方がイメージしやすければ、そっちでもいいわね。じゃあ、五番の的を狙ってみて」


先生が示した先には、丸い的が九つ並んでいた。高さも位置もかなりバラバラだが、五番の的はちょうど地面に接する彼女の正面にあった。そして的までの距離は立ち位置からおおよそ二十m程度。これは、


「なるほど、射るときのイメージですね。」


「うん、最初はその方がイメージしやすいと思って。」


あれ?飛鳥井先生って、弓道知っているのか?


「そういうことな・・ら!」


さすがに射法八節通りには行わないが、やり慣れた形だけでもと、身体を的に対して垂直方向に向けて立ち、左手を突き出してから魔法を放つ。


拳大の大きさの魔法球はまっすぐ飛んで、的からわずかに真上を通過する。


「最初からほとんどずれなし・・さすがね。真ん中に中るまでやってみて。」


「はい!」


二射目、わずかに下。三射目、・・的中、的は倒れてバッテンと変わる。


「ありゃりゃ、三射でもう中っちゃったか。じゃあ、次二番狙ってみて。」


「二番ですね。・・いきます!」


二番もまっすぐ飛んで三射で的中。その後はコツを掴んだのであろう、言われた的を一~ニ射で中て、あっという間に九つ全部の的をバッテンに変えてしまった。


「は~、お見事。普通なら「魔法球を移動させる」ってだけで結構時間がかかるのに、ほとんどノーミスで思い通りに中てられるなんて。」


「ありがとうございます。」


確かに、今日の授業でも半分以上の生徒が「魔法球を移動する」ということすらなかなか出来なかった。そう考えるとこれは破格なのだろう。

・・もっとも、俺からすれば魔法球を出すことすら出来ないのだから、それ以前の話なのだが・・うまい奴を見れば何かしらコツみたいのがわかると思ったが、どうもその段階の話ではないらしく、残念ながらほとんど参考にならない。

隣で見ている望もぽかんとした顔をしているだけだ。・・む、ひょっとして自分も傍から見れば同じ様な表情なのか?



「じゃあ、本番いきましょうか?」


「はい」


「え?」


 先生がポケットからリモコンらしきものを取り出し、何かボタンを押すと、倒した的が一斉に元に戻った。


「LV4だから、この前みたいに壊れることはないわよ・・多分。だから本気で撃っちゃって構わないわ。あ、評価自体はさっきので十分満点だから、その辺も気にしないでね。」


「・・わかりました。ありがとうございます。」


「なんのなんの。じゃあ、早速どうぞ。・・で、そこのお二人さん。」


「「はい?」」


いきなり話しかけられ、同時に返事する俺と望。


「今まで立花さんはあっさり魔法出してたから参考にならなかったと思うけど、次から彼女、本気で魔法を練るから、その様子を良く見ておいて。」


「「わ、わかりました」」


・・って、本気じゃなかったって、さっきのでも今日の授業で俺が見た中でかなりでかい魔法球だったのだが?

・・と、思いながら立花さんを見ていたが、


「で、でかい・・」


としか、言い様に無い大きさの球を創っていた。ポーズは飛鳥井先生が最初に見せてくれた、胸の前で手のひらを向き合わせるポーズ、ちょうどボーリングの球を持つような感じだ。他の生徒も同じポーズが多かったので、きっとそれが基本形なのだろう。あるいは飛鳥井先生が教えたからかもしれない。

だが、そこからできる魔法球の大きさは、先生も含め大きくても両手で包める程度だったのが、今、彼女が出しているのは、先ほど例に挙げたようなボーリングの球くらいはある。・・しかも、まだちょっとづつ大きくなっているようだ。


「はぁ~。・・わかってはいたけど、立花さんってすごいわね。ちょっと嫉妬しちゃうかも。・・・もちろん、胸の大きさのことじゃないからね!」


「・・せんせい、それセクハラじゃ・・」


(・・まぁ、胸の方も勝ててないような・・って、いかんいかん、意識しちゃだめだ。)

俺はつい、高校生女子の平均以上はありそうな立花さんの胸に視線をや・・りそうになるのは健全な男の性で仕方ないが、さすがに今回は真面目にやらねばと自分に言い聞かせ、その前にある大きな魔法球と集中している彼女の様子に意識を向ける。

先ほどの先生と俺の馬鹿なやり取りも聞こえないくらい集中していた彼女は、視線を的に向けると、


「・・よし、五番、行きます!」


そのままバスケのチェストパスのように、魔法球を放つ。その大きな魔法球は、指定した的の左上をザシンとかすり、そのまま抜け、


ドゥン


といった鈍い音を響かせ、消滅した。


「フゥ~」


「・・何とか耐えられたけど、相変わらずすごい威力。それに外れはしたけど、衝撃だけで十分っぽいわ。・・・ってことで、今日のところは終わりでいい?」


「はい。ありがとうございました!」


礼をすると立花さんは先生のところまで戻ってきた。



「じゃあ、今度は男子組の方ね。問題児組とは、叶野君がいるから言わないでおいてあげる。」


「先生、なにげにひどい・・・」


「・・・・・」


 何か問答があったようだが、よく聞こえない。ただ魔法を練る様子だけを、頭に何度も繰り返す。

「!」「・・ふぅん」

この時、女性陣の反応がちょっと変わったようだが、集中している今の俺には関係ない。


「イメージする、ですよね。・・次、行きます。」


「・・いつでもどうぞ」


俺は先ほど、彼女が魔法を行ったところに移動する。イメージ、要するに集中だな。


「ふぅ~」


俺は彼女が最初行ったように、五番の的に対して斜に立つ。肩の力を抜くよう軽く深呼吸。

(・・的中率は低いが、集中しやすいからこれでいこう。)

部活でやっているように足踏み、胴造り、そして弓構え。当然今は弓を持っていないので、ここで代わりに魔法をイメージする。先ほどの球をイメージ、イメージ・・・

 するとついに魔法の球が出来た。大きさは拳大ほど、だが、俺にとっては初の魔法。結構感慨深いかも・・背後から望、他一名の「おー」といった声も聞こえた気がした。

だが、まだ射は途中だ。・・初めてで出来るかはわからないが、飛ばすところまでやってみよう。首を的の方に向け、球をそのまま両手で持ち上げるように打ち起こし。そして引分け。今は弓はイメージする必要はないだろう。なんか弓道の達人は、弓矢がなくても的を倒したという。遠当て、気功?そんな感じだ。


イメージは矢。一本の矢をイメージし引分けた。イメージどおり、球状の魔法が細い矢の魔法になる。よし、上手くいってる。

 後は両側に伸びるように会。そして飛ばす離れだ。さらに意識を集中する。主観的なのか回りから音がしない気がした。


・・実際この瞬間、周囲はいろんな意味で静かになっていたわけだが。


 そしてなるべく集中した上で離れ、魔法の矢を飛ばす。矢は的に向かってまっすぐ飛び、



 的の手前約五m地点で落ちて消滅した。



(・・カッコ悪!)


「・・えっと」


「・・・ぐはっ」


残心。本来はおそらく心の中で今の自分の射を見返り、次に反映するための気構えを練るための動作なのだろうが、自分でも格好悪いと思う結果がつい口に出てしまった。ちなみに最初の突っ込みは近くにいるのであろうフォーチュンからのテレパシーっぽいもので、二人目は望の反応だ。そこそこに構えを解き、ばつが悪そうにここにいるみんなの方を向き、


「・・えっと、こんなんが今の自分の実力なんですが、どうでしょう・・?」


 そこに見えた三人の表情が印象的だった。まずは苦笑を浮かべる望。これはわかる・・多分同じ立場なら自分もそうなるだろう。

だが、他の二人の表情がちょっと意外だった。

飛鳥井先生は予想外なものを見たと目をぱちくりし、続いて、苦笑を。立花さんにいたってはもっと如実にぽかんと口を開けていた。

(な、なんか変なことしたか、俺・・?)

いたたまれない気分で三人の所に戻ろうとしたところに、先生からのありがたい一言。


「日高君、・・さっきの、もう一度やってみて。」



(あなたは鬼ですかーーーー!!)

 ・・とはいえ、客観的に観れば反復練習、という教育の一環を言われただけで反対することも出来ず、もう一度五番の的に向けて射る。

 ・・せめて届いてくれ! という思いも微妙にしか叶わず、結果手前約三m地点で魔法の矢は無残に落ちた。



「・・ふうむ。」


「・・もう勘弁してください。」


さすがに三射目は言われないうちに、先生たちのところにすごすご戻ってきた俺に思わぬ一言がかけられた。


「? なんで恨みがましい目で見てるの?あんなすごいことやらかしといて。」


「へっ?」「え?」「・・・」


今度はこちらがきょとんとする番だった。同じくきょとんとする望。そして立花さんは何故か俺を睨み付けると、


「日高君! さっきの魔法の変化は何!?」


「えっ、何って、さっきの魔法の矢のこと?」


コクコクと勢いよく顔を縦振りする立花女史。なんでそんな興奮してるの?


「何って、イメージが大事って言うから、わかりやすく矢をイメージしただけだけど・・」


「!!」


「こりゃまた・・・」


目を見開いてあからさまにビックリする立花さんと苦笑する飛鳥井先生。ぇ、ナニナニ?


「無意識で「形態変化」やったって、とんでもない才能じゃないの。・・ひょっとしてこれまで隠してた?」


「え?形態変化って、魔法の球から矢に変えたやつですか?」


「そう、それ。」


「いや、魔法だから当然変えられるって思ったんですが、何かいけなかったんですか?」


「いけないっていうか・・いや、教科書に載ってないから生徒に教えることではないからいけないのかなぁ?・・まぁ、とにかく言えることは、」

飛鳥井先生はもったいぶったように、こう告げた。



「・・・私の知る限り、この学校で「魔法の形態変化」が出来る生徒は、日高君、君だけよ。」



「・・勝負です。」


「え?・・立花さん?」


突然、勝負とか不穏な言葉が聞こえたような・・


「勝負です、日高君! 私と魔法で勝負してください!!」


「いきなりなんで!?」


 本当にいきなりだ。それに勝負といっても、今のままじゃ


「落ち着いて、立花さん。今のあなたと彼では勝負にならないわ。彼がざんぱ・・あなたが圧勝なのは目に見えてる。」


・・いあ、そのとおりだけど、率直過ぎて涙が出そうです。・・・しかも、わざわざ言い換えるなんて、やっぱりこの先生鬼だ・・


「・・なので今から2週間後、中間試験最終日にある「魔法勝負」で戦うと言うのはどう?」


 しかも結果的には止めないんだ。・・って、それはともかく、


「え、魔法勝負?」


 ドサッ


 その時、それは起こった。



 ・・望がいきなりその場に倒れたのだ。

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