隣居る理由をくれし夜の桜

隣居る理由をくれしさくら



季語は夜の桜です。



「……暗くなってきたね。楽しかったし、桜もゆっくりと見られてよかったね」

「うん、ありがとう!」

「こちらこそ、ありがとう。暗くなりすぎる前に、そろそろ帰ろうか。もちろん、お家のそばまで送るからね、あ、ビニールシートはここに入れるよ」

子ども用のビニールシート。

前のお花見でも使ったもの。

二人で座るには少し狭いけど、それがいい。


だけど、暗くなってきたので、お花見はおしまい。

私の門限とか、自宅の近くまで送ってくれるとか、色々考えてくれてるのも、すごくよく分かる。


だけど、ほんとうは。


もう少し、一緒にいたい。


でも、そう言ったら、多分、彼は困ったような顔をするはず。


私の門限にはまだ時間があるけど、仕方ないよね。

すごく、真面目。

そこも……好き。


あれ、でも。


「あっちの方、見て!」

夜桜が、ライトアップされてる。


遠視の彼が、眼鏡を外した。

「ほんとうだ。うん、あそこなら明るいね。じゃあ、もう少し……桜をみていこうか。一緒に」


え。いいの?


「あ、でも。寒くないかな」

「大丈夫、カーディガン持ってるから!」


色がかわいいから、なんとなく買っていた春色のカーディガン。

持っててよかった。


早めに買ったから、定価で少し高かったけど、とか思っててごめんね、カーディガン。高くない、むしろ安かったよ!


「それなら大丈夫だね。じゃあ、片付けたら行ってみよう」

「うん!」

ビニールシートとか、色々。

二人で、きちんと片付けて。


「手、つなごう。はぐれないように」

「嬉しい。ありがとう」

彼が差し出してくれた手。嬉しい。


そして、ありがとう、は夜桜にも。


ありがとう、ね。


もう少しだけ、彼と一緒にいられる理由をくれて。



※くれし、には暮れ、とくれ、を掛けております。


彼女のお家の門限にはまだまだ時間があります。


二度目のお花見は、ちゃんと約束をしてから。

あの小さめビニールシートも大活躍でした。


夜のデート……はこんな彼なので、しばらくは難しいかも知れませんが、夜桜のお花見は大丈夫みたいです。


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