カミサマになった火曜日
駅で男性型の怪異と遭遇した翌日。
バイトが終わり、いつも通り自宅であるアパートへ帰る。
冷蔵庫から、昨日作り置きしておいたカレーを取り出し、電子レンジで加熱する。
そして、ソファーに座ろうとすると、可愛らしい猫のクッションが笑っていた。一人暮らしを始める前、祖父が私にくれた物だ。
あぁ、そういえば実家に居た時、爺ちゃんから何か大切な話をされた気がする……。
たしか、マガツヒサマだっけ?
*
あれは懐かしい夏の日。
まだ、私が実家に暮らしていた頃。
あの頃は、よく縁側にクッションを並べて枕代わりにしていた――。
窓辺からは蝉の声。
頭上には金魚柄の風鈴。
縁側から差し込む光が、少し蒸し暑い。
呑気に、ペットボトルに入ったサイダーを飲みながら、漫画を眺めていると、廊下から怒鳴り声が聞こえてきた。
「
氷華は私の名だ。
そして、怒鳴りつけてきたのは祖父である
「だって、この前、爺ちゃんが畳でジュース飲むなって……」
「だからと言って、縁側で飲んでいい訳がないだろう。今すぐ、キッチンに行きなさい」
「えぇー」
こちらが口を尖らせると、祖父の顔が、鬼の如き形相へ変わった。
「そうやって、悪いことばかりしていると、マガツヒサマに祟られるぞ!」
*
祖父の言葉を思い出すと、無意識のうちにため息が漏れた。
そんなものが居れば、この界から犯罪なんてとうに消えている。
なにより、世の中に、産まれてから一度も罪を犯していない人間なんて一人も居ないだろう。
虚言。虚勢。そして虚妄。
知らず、知らずのうちに誰だって罪を犯している。
電子レンジから取り出したカレーをテーブルに置き、冷蔵庫からイチゴを取り出す。
イチゴから少し異質な匂いがしたので、消費期限を確認してみれば、一昨日に切れていた。
「あーあ、もったいない事したなぁ」
仕方がないので、イチゴを生ゴミに放り込み、ソファーに座る。
そのままカレーを頬張ると香辛料の風味が口に広がった。
壁を眺めながらカレーを食べることも退屈になってきたので、なんとなくスマホを開く。すると、そこには一つのメール通知が表示されていた。
『縲悟?繧√∪縺励※縲よ乖譌・縺九i雋エ譁ケ縺ョ繧ケ繝医?繧ォ繝シ繧偵@縺ヲ縺?k閠?〒縺吶?』
「ヒィッ――!」
あまりにも異様な文面に思わず、悲鳴を上げそうになる。
しかし、ここは深夜のアパート。
冷蔵庫裏からゴキブリが現れようが、文字化けだらけの奇妙なメールが届こうが、悲鳴を上げるなど御法度である。
それにしても文字化けしたメールなど、始めて見た。
データが破損していたり、異なる文字コードでデコードすると、文字化けが起こると聞いたことがあるが、まさかこの目で見る日が来ようとは。
このままメールを消しても良いが、念のため文字化けを解読できるサイトを開き、文面を戻してみる。
すると、不完全な状態ではあるが、一つの文面が現れた。
「??めまして。昨日から貴方のスト??カーをして????????す??」
ストーカー?
それに昨日からって……。
恐怖のあまり、スマホを落とす。
そして、玄関がしっかり施錠されていることを確認し、ドアスコープから外を覗き込む。
通路に設置されたフェンス。
その向こう側に見える夜景。
異常は無い。いつも通りの風景。
胸を撫で下ろし、スマホを拾い上げる。
――これは迷惑メールだ。イタズラだ。そうに決まっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます