第四十九章 好きって・・・なんだ?
「なんじゃったんだ・・・」
翌日、大したケガじゃなかったのでわしはすぐに退院することができ、現在学校に登校している。だがずっと頭によぎっているのはあの後に
詳しくは言えないが・・・なんというか・・・簡単に言えば・・・メスの顔だった。
———うぅむ・・・・・・どういう意味かまったくわからん。
「おーい、
ボーっとしていると後ろから
「なんじゃ、禾本。なんかいいことでもあったのか?」
「ひひひひひひ・・・」
「気持ち悪いのう・・・」
禾本がバケモンみたいな笑い声をするからおもわず引いてしまった。そんなわしの姿を見て禾本が慌てだす。
「おいおい、そんなこと言わなくたっていいだろう!?」
「そんでなんかあったのか?」
「実はな・・・」
「
「ほう、よかったな」
「反応薄ッ!」
禾本が突然叫び出した。せっかくわしが心からの祝福をしてやったというのに・・・
「いやもっと驚けよ!?」
「そんなこと言われてものう・・・それで相手は誰なんじゃ?」
すると禾本が急に真面目な顔をし始めた。
「驚かずに聞いてくれ・・・実はな・・・」
「・・・・・・」
「その相手は
「なんじゃとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「うわぁ! びっくりした!」
今度はわしが叫んでしまったので禾本が驚愕していた。耳までふさいでおる。
「なんだよ、脅かすなよ」
「これが驚かずにいられるか!」
「ん? 大場さんが取られて悔しいってことか?」
「いや、そんなことはないが?」
「マジなんなんだよお前・・・・・・」
わしが驚いている理由はずばり至極単純。美紀に恋人などできないと思っておったからじゃ。
美紀は元々力が強いのもあって下手をしてすればそこら辺の男子にも負けないほどじゃった。そして彼女はこの16年間、一度もモテたことがない!!
そんな美紀に恋人ができたんじゃぞ!? びっくりするじゃろう。
「とりあえず遅延には先ほどよりも心から祝福したろう・・・おめでとう」
「何かお前におめでとうって言われるの気持ち悪いな・・・」
「何じゃとぉ!?
「わぁぁ! そうムキになるなって!!」
そのままわしは校門まで禾本を追いかけ続けた。
校門を抜けたところで、わしはしばらく禾本を追いかけていたが、やがて足が止まった。禾本も少し息切れしているようで、わしの前で手を広げて立ち止まる。
「よっしゃ、これで満足か?」
「ん? まだ終わりじゃないぞ」
「はぁ!? 何を言っとるんだ、さっきから!?」
わしが冷静に答えると、禾本は顔をしかめて言った。どうも、わしの反応が予想外だったらしい。
「お前、まさか大場さんのことを好きだったんじゃないのか?」
「は?」
「いや、だってさ、お前、明らかに大場さんのこと過保護すぎるだろ? 何でそんなにあの子のことを心配してんだ?」
「心配してるわけじゃ・・・」
「じゃあ、なんであんなに気にかけてるんだ?」
わしは一瞬、言葉に詰まった。
———確かに自分でも過保護すぎると感じることがある。でも、どうしてあんなに美紀のことが気になってしまうのじゃろうか。いつもなぜだか無意識にそうなってしまっているんじゃ。
「な、何でかって言われてものう・・・別に、特別な理由はない」
「ほんとか?」
「ああ、ほんとじゃ」
でも、心のどこかでわかっている。美紀のことを、無意識にでも守りたいと思っている自分がいること。あの子が不安そうにしている顔や危なっかしいことをしているところを見ると、どうしても気になってしまう。どこかで助けてあげないといけない気がして、それが過保護に見えているのかもしれない。
「お前、いつも大場さんのこと、気にしすぎだろ。あの子、あんなにしっかりしてるのに」
「……わかってる。でも、どうしても放っておけないんじゃ」
禾本が不思議そうな顔をする。わしが美紀を気にしすぎる理由に、まだ気づいていないようだ。
「放っておけないって、お前…本当に大場さんのこと、そんなに気にしてるんだな」
「……ああ」
わしは、深いため息をつく。美紀のことをこんなに気にするのは、ただの友達としてじゃない、何かもっと深い感情があるからじゃ。でも、肝心なことを忘れている。なぜだか自分がその感情を覚えていないという事実を。
――でも、どうしてだろう。美紀のことを好きだって、実感が湧かない。なのに、どうしてこんなに過保護にしてしまうんだ?そもそも・・・
———好きって・・・なんだ?
「お前、本当に違うのか?」
「気づいてないって、何を?」
「・・・・・・違う」
「違うって、じゃあ、なんであんなにあの子に過保護なんだよ」
「わ、わからん」
「本当に?」
「本当じゃ!」
禾本は少し納得したように頷いたが、どこか納得いかない表情を浮かべている。
「まあ、いいけどさ。お前、気づいてないんだな。美紀に対して特別な感情があること、もっと早く気づいても良かったんじゃないの?」
「わからんと言うとろう。それに今更気づいても、どうしようもないじゃろ」
「いや、どうしてもって言うなら、今からでも告白すればいいじゃん」
「何を言うとる。彼氏持ちのやつに告白する奴がおるか」
じゃがその言葉に、わしはさらに混乱した。告白? 美紀に? そんなこと、今さらできるわけがない。でも、心の中で何かがもやもやしている。なんだか外部から何かを隠しているような、気づかせないようにしている感情があるような気がして、どうしてもその先に進めなかった。
「そんなこと、無理じゃよ」
「お前、ほんとにわかってないな。気づいてるくせに」
「だから、わからんと言っとるじゃろうが!」
そのまま言い合いが続き、しばらくの間、禾本はわしに無理に話を振り続けたが、結局、どうしても答えを出すことはできなかった。美紀に対して何が自分にあるのか、わからない。けれど、今の自分の感情は、確かに美紀への何かだということだけは、痛いほど感じていた。
「ねぇねぇ美紀ちゃん! 遅延君と付き合ったってホントなの!?」
「ちょ、恵美ちゃん。順番に話すから落ち着こ、ね?」
昼休憩、美紀が禾本の彼女、小鮒さんに言い寄られていた。わしはその会話を盗み聞きしながら昼食をとっていた。
「でもどうしたの? いきなり。だって美紀って黒速君のこと・・・」
「しぃ————————!! 本人いるじゃん!」
「あ、本当だ・・・ごめん」
「あぁ!そんな落ち込まないでぇ!」
あわただしい奴らじゃのう・・・わしはそう感じながらも昼食を食べ終わった。
喉が渇いたので学校内の自販機で飲み物でも買ってこよう・・・
そう思いわしは立ち上がり、教室を出た。
「遅延も趣味が悪いな・・・美紀を選ぶとは・・・」
わしは廊下をのんびり歩きながら二人をディスっていた。教室を出た後、わしはいろんな人から二人の情報を集めたその情報の中で一番驚いたのは美紀が告白したということじゃ。
どうやら昨日の放課後、美紀が遅延に告白したらしい。じゃがどうも違和感がある。じゃったら昨日の病室でのあれはなんじゃったんじゃ?
ますます美紀のことがわからなくなってきた。今まで、美紀のことは一番よくわかっていたつもりでいたが・・・
「次射、どうしたんだ?」
すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り返るとそこには遅延が立っていた。
「ああ、遅延。なんでもない。少し考え事をしておっただけじゃ」
「そうか・・・」
「せっかくじゃしわしについてきてくれ」
「まぁ、いいが・・・」
そしてわしは遅延を連れて廊下を歩きだした。
「遅延、お主美紀と付き合い始めたんじゃってな?」
「ああ、そうだが・・・?」
わしは廊下を歩きながら遅延と雑談をしていた。遅延が美紀と付き合うことになった理由。そこまでの流れなど。じゃが話を聞いているとなにかがひっかかる。なんかまるで作り物の話のような・・・
「どうした? 次射」
「ああ、なんでもない」
とりあえず美紀に彼氏ができたんじゃ。素直に喜ぶか。
「・・・・・・」
「次射?」
じゃがわしはまったく喜ぶことができなかった。
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