第四十一章 その手を離せ
わしはこのシェルターの主、
話している途中に
「そういえばお主の家族たちは?」
「・・・・・・親は幼いころに亡くなってて・・・それに兄弟はいませんし・・・」
「そうか、悪いことを聞いたな」
つい相手のプライベートの話をしてしまった。まずかったかな・・・
わしはとりあえず話題を変えることにした。
「この状況はいつから始まったんじゃ?」
「つい1週間前くらいから・・・それまではみんな平和に暮らしていたのに・・・」
一週間前・・・ニュースで話題になったのは一昨日からだということを考えるとなぜ一昨日になるまでニュースで取り上げられなかったのかが気になる。誰かが裏で世間に出ないようにもみ消してた?
「ちなみにそれまでの暮らしの間で何か変わったことは?」
「特に何も・・・秋のシーズンだったから観光客が多かったけど・・・」
この町、『
「誰かが観光客に紛れて薬を盛ったの?」
美紀が考えながらボソッとつぶやく。それにわしも同意する。
「それはわしも考えていた」
「それはないわ!!」
すると篠宮が否定の声を上げる。
「この町では駅の中に検疫所が配置されているの!早々突破されないわ!」
「うーむ、そうなると・・・上空突破が考えられるが・・・」
「ドーム型のバリアを張ってあるわ!」
「だよな~」
駅に検疫所を置いてるのに上空の対策をしてないわけないよな・・・するとますます謎が深まるばかりじゃ。
「とりあえず観光客に集中するのはやめよう」
「そうね、観光客じゃない可能性だってありえるわ」
篠宮がうなずく。わしは近くにあった椅子に座りこんだ。
さて、よく考えろ。検疫所もあってバリアも張ってあるとなると気がかりなのは内側じゃな。これだけ完璧な対策をしていたら内側の警備や検査が疎かになっている可能性もある。一度聞いてみるか。
わしは篠宮の方に視線を向ける。
「なぁ、中に入った後は何か対策はしてあるのか?」
「う~ん、聞いたことないけど・・・」
篠宮の反応を見て大方わかった気がした。
わしは一度椅子から立ち上がる。
「よし、少し確認したいことがある」
「
わしはカバンの中からいつしか美紀の噂の出どころを探すために遅延が使った『コウシュミレート』を取り出した。わしは『コウシュミレート』を起動させると四角い物体からカメラのレンズと翼が展開された。すると『コウシュミレート』は飛び上がりシェルターから出て行った。
「あいつにこの町の状況を調べさせる。数時間すれば町全体の様子がわかるはずじゃ」
「す、すごい」
篠宮が驚愕の表情を見せている。『コウシュミレート』が飛んで行ったのを確認した後、わしは篠宮に質問を投げかける。
「お主らの町にはこういう魔道具はないのか?」
「私たちの町にはそんな高価なものは売ってないわよ。科学文明の発展速度はすさまじいが魔法文明は衰退気味なの」
どうやらこの町は魔法文明だけ全然発展していないようだ。・・・ん?
わしはその話を聞いてハッと気づいた。
「わかったぞ、町がこの状況になった原因が」
「本当に!?」
「ああ」
わしは自分の考えを皆に説明する。
「要はこの現象は薬物の仕業でもなければ洗脳装置などの類でもない」
「というと?」
「簡単じゃ、洗脳など住民を暴徒と化す魔法またはその魔法を使えるようにする魔道具の仕業じゃ」
「なんだと!?」
「そうか!」
篠宮が驚いた様子を見せ、逆に
「魔道具はともかく魔法は薬などと違って検査に引っかかることもない。僕らの町では対象の人の属性を調べることができる機械というのがあるけどこの町ではそもそも魔法文明が発展していないからそういった機械が置いてないんだ」
「そういうことじゃ。魔道具も中には透明にする魔道具だってある。その効果を利用して検査の目をかいくぐっている可能性じゃってある」
「それじゃあ犯人は?」
篠宮がたずねてくるがわしは首を横に振る。
「わからん。犯行が魔法によるものだとすれば犯人の特定は難しい。魔道具じゃったら話は別じゃが・・・」
わしはズボンのポケットからスマホを取り出す。電波は一応届いているようで
「ここには人数分の寝床はあるか?」
「さすがに全員分はない。3人までだったらあるが・・・」
「よし、わしが起きて見張りをする。おぬしらは先に仮眠しておけ」
「それはいくら何でも申し訳ないわ!見張りは私が・・・」
「だめじゃ。わしの放った『コウシュミレート』はわしにしか起動できん。おぬしらが寝ている間に『コウシュミレート』が戻ってくる可能性がある。見つけたらすぐに映像を確認したいんじゃ」
わしがそう説得すると、篠宮は少し下を向いて考えた後、こちらを向いた。
「わかったわ、なら遠慮なく休ませてもらうわね」
そういうと篠宮はわしら用の布団の準備を始めた。わしは美紀たちに視線を向ける。
「ということじゃ。おぬしらも休んどけ」
「じゃあ遠慮なく休ませてもらうけど・・・」
「それじゃあ一緒にシャワー浴びよ美紀さん!私の服でよければ使って!!」
そのまま美紀は篠宮に連れられてシャワールームに入っていった。すると美紀がシャワールームからひょこっと顔を出す。よく見ると美紀の顔が赤くなっていた。
「・・・こっち見ないでよ?」
「当たり前じゃ!!」
幼馴染がシャワー浴びてるところに覗き見するか。いや、そもそも覗きなんてわしゃあせん!!
二人がシャワーを浴びている間、見張りをしていたら放っていた『コウシュミレート』が戻ってきた。わしはすぐに中に入り『コウシュミレート』が録画したデータが入っているSDカードを抜きとりカバンの中からパソコンを取り出した。そしてパソコンにSDカードを差し込み、録画した動画を見ることにした。
———一つ目の映像はわしらを襲ったやつらじゃった。血相変えてわしらを探し回っているようじゃ。
———二つ目はまた別の家のドアを叩いて騒いでいる暴徒の人たちだった。よく見ると中に人がいる。どうやらこの町にも篠宮と同じく暴徒と化していない人たちがいるようだ。
このようにいろんなところから撮った映像を見ていた。そして最後の映像には・・・
篠宮と同じ顔と服をしている女性が暴徒と化している姿が映っていた。
「・・・・・・は?」
いや待て待て。人違いだそうに決まっている。そうに・・・・・・
その時、篠宮の言葉が頭をよぎった。
『それに兄弟はいませんし・・・』
まさか・・・!?
わしは椅子から立ち上がり二人が入っていったシャワールームに顔を向けた。中からは二人の笑い声や話し声が聞こえる。
「おい、どうしたんだ?次射」
「い、いやなんでもない・・・」
遅延はきょとんとした顔をしていたがわしはそれを無視し一度椅子に座りこんだ。そしてもう一度シャワールームに視線を向けた。相変わらず二人の笑い声と話し声しか聞こえてこない。
———ちょっと長くね?
◆
「はぁ~、シャワー気持ちいい~♪」
「寝ないように気を付けてね。私一回シャワー浴びながら寝たことあったから」
「え!?ほんとに!?」
私はシャワーを浴びながら
彼女は今回暴徒と化した町に住んでいたらしい。私はシャワーを浴びた後、バスタブに浸かった。
ここ、シャワールームと言っているけどバスタブもあるし風呂って感じなのよね。
音ちゃんに聞いてみたら音ちゃんが見つけるまでは本当にシャワーしかなかったんだけど、ここに住むことになってからバスタブを新たに設置したらしい。
「そういえば、美紀ちゃんって・・・」
「ん?」
「ごにょごにょごにょ・・・」
「っっっっ~~~~~~~~~~~!!!」
私は顔を赤面させて音ちゃんに叫ぶ。
「なんてこと言うのよ!」
「いや、ちょっと純粋に思っただけで・・・」
「純粋に思っても口に出さないで!!」
本人の前でなんちゅうこと言うのよ!!
私は顔を赤くさせながらも風呂の湯に浸かった。
「そういえば音ちゃんだけなんで暴徒になってないの?」
「なぜだかは私にもよくわからないんだ。おそらく抗体みたいなものだと考えてる」
「ふぅ~ん・・・」
「まぁロボットみたいな生物じゃないものはそういった魔法は効かないはずよ」
まるで世間話でもしているかのように音ちゃんの話を聞いていた。だが、次の瞬間!音ちゃんが姿を消したと思えば私のところに急接近してきた!そしてそのまま私の首を片手で掴んだ。
「うっ・・・・・・・・・な・・り・・・・・・ちゃん・・・・・・?」
「まさかこんなうまく行くとはな」
ボソッとつぶやいた先ほどの音ちゃんの声とは違う。そして彼女は私の方をゆっくりと見上げる。
「悪いわね、あなたには死んでもらうわね」
「あ・・・なた・・・・・・いった・・・い・・・・・・?」
すると音ちゃんが自分の髪に手を置きガシっと掴む。そしてそれを引き抜くと黄色いロングの髪が露わになった。
「私はデストロイ・サンダーの幹部の一人。『黄金のレイ』よ」
その彼女、黄金のレイは自己紹介しながらも私の首を掴んでいる手にさらに力を入れてくる。息ができずにいる私を見ながら彼女は話し続ける。
「こうも簡単にやってくるとは思わなかったわ」
「うっ・・・・・・くっ・・・・・・・・・」
そう悠長に話しているので私はチャンスだと思い何とか振りほどこうとした。だが彼女は一切力を緩めることなく掴んでいる。そのせいか全然振りほどくことができない。
「無駄よ、私はこう見えてもデストロイ・サンダーの中で一番の怪力を持っているの。そんな簡単に振りほどけないわ」
最近使っているメリケンサックを持っていれば多少は攻撃ができるかもしれないが、そのメリケンサックは脱衣所に置いていっている。
———まずいっ!息ができていなくて・・・意識が・・・・・・
「その手を離せ」
ふと誰かがつぶやいたのが聞こえた。その時!目の前に何かが飛んできた。それは黄金のレイを蹴り飛ばし、倒れた私に毛布をかけてくれた。
意識が朦朧としているが微かな視界に見えたのは・・・
「お主・・・・・・わしの幼馴染に何ちょっかいかけとるんじゃ?」
襲雷が発動していて足が黒く発光しながらも相手の方をにらみつけている次射の姿がそこにあった。
———そしてその瞬間、私は意識を失った。
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