第45話 依頼と調査の始まり
夏の日差しが強く照りつける門司港の街。老舗旅館「緑風荘」は、歴史ある風情と穏やかな雰囲気を保ち続けていた。しかし、その平穏は最近の不思議な現象によって破られていた。旅館の女将、高橋範子は悩み抜いた末に、信用金庫の内部調査班である三田村香織と藤田涼介に助けを求めることを決意した。
信用金庫の会議室で、範子は香織と涼介に事情を説明していた。
「最近、緑風荘で不可解な現象が続いているんです。物が勝手に動いたり、廊下から誰もいないのに足音が聞こえたり…。これが原因でお客様が怖がって、宿泊をキャンセルするケースが増えてしまって。」範子は困惑した表情で話した。
「そんなことが…」香織は驚きの表情を浮かべた。「具体的にどのような現象が起きているのか、詳しく教えていただけますか?」
「はい、例えば夜になると、客室内の家具や小物が勝手に移動しているのが確認されます。また、廊下で誰もいないのに足音が聞こえることが多く、特定の部屋では急に寒くなることもあります。」範子は深いため息をつきながら続けた。
「それは確かに不気味ですね…。お客様に安心していただくためにも、早急に調査を開始しましょう。」涼介が決意を込めて言った。
香織と涼介は範子の案内で緑風荘に向かった。旅館の外観は美しく、歴史を感じさせる趣があったが、内部では確かに不安が広がっているようだった。
「ここが問題の部屋です。」範子は一つの客室の前で立ち止まり、鍵を開けた。
「この部屋で特に不思議な現象が多く報告されています。お客様が夜中に目を覚ますと、テーブルの上の物がすべて床に落ちていたり、カーテンが勝手に開いていたりするんです。」
香織と涼介は部屋に入って、詳細に調査を始めた。家具の配置や部屋の構造を確認し、防犯カメラの設置場所も検討した。
「まずは、この部屋にカメラを設置して、現象が実際に起こる瞬間を捉えましょう。」香織が提案した。
「そうだな。それと、廊下にもカメラを設置して足音の原因を探る必要がある。」涼介が同意した。
その夜、香織と涼介は設置したカメラの映像をリアルタイムで監視しながら、現象の発生を待った。部屋は静まり返っており、二人の間には緊張感が漂っていた。
「何か動きがあったらすぐに知らせて。」香織は涼介に言い、モニターを凝視した。
夜が更けるにつれ、部屋の中で何かが動く音が聞こえ始めた。香織はすぐにカメラの映像を確認し、驚愕した。
「見て、テーブルの上の物が勝手に動いている…。」香織は涼介に画面を見せた。
「確かに…。これは自然現象では説明できないな。」涼介は真剣な表情で答えた。
その後も、廊下からは誰もいないのに足音が聞こえ続けた。香織と涼介は慎重に廊下を調べ、足音の正体を突き止めようとしたが、誰も見つからなかった。
翌朝、香織と涼介は範子に昨夜の出来事を報告した。
「昨夜、カメラに奇妙な現象が捉えられました。確かに物が勝手に動いていました。そして廊下からも誰もいないのに足音が聞こえました。」香織は録画映像を範子に見せながら説明した。
「これは一体…」範子は信じられないという表情で映像を見つめた。「本当に幽霊が出るんでしょうか…」
「まだ断定はできませんが、何か他の原因があるかもしれません。次は旅館の歴史を調べてみることにしましょう。」涼介が冷静に提案した。
香織と涼介は、緑風荘の歴史を調べるために地元の歴史研究家、珍名幸一を訪ねた。彼は緑風荘や門司港の歴史に詳しく、過去の出来事について多くの知識を持っていた。
「緑風荘に最近起きている不思議な現象について調査しています。何か心当たりはありますか?」香織が尋ねた。
「実は、緑風荘には有名な芸術家、村上祐一が滞在していたことがあります。彼は多くの作品をここで生み出しましたが、その中には未発表の作品もあったと言われています。」珍名は語り始めた。
「未発表の作品が隠されている…それが原因で現象が起きているのでしょうか?」涼介が興味を示した。
「可能性はあります。村上祐一は非常に神秘的な人物で、彼の作品には特別な力が宿っていると噂されています。」珍名は続けた。
「それなら、その作品がどこに隠されているのか調べてみましょう。旅館の中に何か手がかりがあるかもしれません。」香織は決意を固めた。
香織と涼介は、村上祐一の未発表作品を見つけ出すために、緑風荘内をさらに詳しく調査することにした。旅館の隠された部屋や地下室の存在を突き止めるべく、二人の冒険が始まる。
「この調査を通じて、旅館の不思議な現象の真相を解き明かし、緑風荘を再び繁盛させましょう。」香織は涼介に向かって力強く言った。
「もちろんだ、香織。必ず成功させる。」涼介も決意を込めて答えた。
こうして、香織と涼介は新たな手がかりを探し出し、緑風荘の秘密を解き明かすための調査を本格的に開始するのだった。
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