第32話 市場での調査
香織と涼介は、門司港の賑わう市場に到着した。市場は活気に溢れ、多くの人々が新鮮な食材を求めて店を行き交っていた。二人は田中次郎がいつも仕入れを行っているという八百屋に向かうことにした。
「まずは八百屋から調査を始めましょう。」香織が提案すると、涼介も同意した。
「了解。何か手がかりが掴めるといいんだが。」涼介は市場の賑わいに目を向けながら、二人で八百屋へと歩みを進めた。
八百屋の店主は、活気のある中年男性で、威勢よく客を迎えていた。香織と涼介が店に近づくと、店主は笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ!今日は何をお探しですか?」
香織は名刺を取り出し、店主に見せながら話しかけた。「信用金庫の三田村香織と藤田涼介です。少しお話を伺いたいのですが。」
店主は名刺を見て、少し驚いた表情を浮かべた。「何か問題でも?」
「実は、最近市場で流通している偽造紙幣について調査をしています。田中次郎さんがこちらで仕入れを行った際に受け取った可能性がある紙幣です。」涼介が偽造紙幣を見せながら説明した。
店主は紙幣を手に取り、じっくりと見つめた。「うーん、確かにこれはよく出来ているな。でも、偽造紙幣だとしたら大変だ。最近、似たような紙幣を受け取ったことがあったかもしれない。」
「いつ頃のことですか?」香織が尋ねると、店主は少し考えた。
「そうだな、確かに先週末の仕入れの際に、お釣りとして受け取ったかもしれない。でも、どの顧客が使ったかまでは覚えていないな。」
「それだけでも助かります。他に何か心当たりはありますか?」涼介が続けた。
「最近、外国人の観光客も多いからね。もしかしたらそういう人たちが関与しているのかもしれない。でも、確証はないな。」店主は申し訳なさそうに答えた。
「情報ありがとうございます。他の店も調査してみます。」香織は礼を言い、涼介と共に次の店へ向かう準備をした。
次に二人は、田中がいつも仕入れを行っているという魚屋と肉屋を訪れた。魚屋の店主もまた、偽造紙幣を受け取った可能性を示唆した。
「この紙幣、確かに怪しいね。先週末に何人かの顧客からお釣りを受け取ったけど、細かいことは覚えていないな。」
肉屋でも同様の回答が得られた。「最近は忙しくて、細かい紙幣の確認までは手が回らない。でも、偽造紙幣が出回っているとなると注意しなければならないね。」
市場での聞き取り調査を終えた香織と涼介は、収集した情報を整理するために一旦カフェに立ち寄った。二人はテーブルに座り、ノートを広げてメモを見直した。
「市場全体で偽造紙幣が出回っていることが分かったわね。」香織がノートを見ながら言った。
「そうだな。市場での流通経路を突き止めるには、さらに深く調査する必要がある。」涼介も同意した。
「それに、店主たちが言っていた外国人観光客の関与も気になるわ。」香織は考え込む。
「次は、税関の取引記録を調べて、偽造紙幣がどのように日本に入ってきたのかを探ってみよう。」涼介が提案した。
「そうね。東支店長に報告して、税関での調査の許可をもらいましょう。」香織は決意を新たに、携帯電話で東支店長に連絡を取った。
こうして、香織と涼介は税関での調査に向けて準備を進めることになった。市場で得た情報を基に、次の調査段階へと進む決意を固めた二人。門司港で巻き起こる偽造紙幣事件の真相に、一歩ずつ近づいていくのだった。
香織と涼介は市場で得た情報を整理し、偽造紙幣がどのように日本に入ってきたのかを探るために門司税関への調査を決意した。東支店長に連絡を取り、税関での調査の許可を得ることに成功した二人は、早速税関に向かった。
「東支店長からの許可も取れたし、次は税関での調査ね。」香織はカフェを出る際にそう言った。
「よし、門司税関で何か手がかりが掴めるといいな。」涼介も同意し、二人は税関に向かうタクシーに乗り込んだ。
門司税関に到着した香織と涼介は、担当者の案内で取引記録を保管しているオフィスに案内された。担当者は親切に対応し、必要な記録へのアクセスを許可してくれた。
「こちらが最近の取引記録です。必要な情報があれば、お手伝いしますので遠慮なくお申し付けください。」担当者はにこやかに言った。
「ありがとうございます。早速調べさせていただきます。」香織は礼を言い、涼介と共に膨大な記録の山に取り掛かった。
二人は新紙幣が流通し始めた時期に焦点を絞り、詳細に記録を確認していった。すると、ある特定の取引が二人の目に留まった。それは、新紙幣が流通し始めた直後に行われた大規模な輸入取引だった。
「この取引、ちょっと変じゃないか?」涼介が記録を指差しながら言った。「新紙幣が流通し始めた直後に、こんな大規模な輸入が行われている。」
香織もその記録を覗き込み、「確かに。この取引先は海外の企業で、取引額もかなりのものね。」と同意した。
「さらに調べてみよう。この企業の背後に何かあるかもしれない。」涼介は取引先の詳細を確認し始めた。
二人は税関の担当者にその取引について質問することにした。「すみません、この取引についてもう少し詳しく教えていただけますか?」香織が尋ねると、担当者は記録を確認し始めた。
「この取引は…確かに少し異常ですね。通常、これほど大規模な取引は事前に通知があるものですが、この件に関しては急に決まったようです。」担当者は眉をひそめながら答えた。
「取引先の企業について何か情報はありますか?」涼介がさらに問いかけた。
「この企業は最近急成長している新興企業ですが、背後にどんな資本があるのかは分かりません。私たちも注意深く監視していますが、特に問題は見つかっていません。」担当者は慎重に答えた。
香織と涼介は、収集した情報を基に警察との連携が必要だと判断した。税関での調査結果を東支店長に報告し、警察に協力を求める許可を得た。
「東支店長、この取引には何か裏がありそうです。警察の協力を得て、さらに調査を進めたいと思います。」香織が報告すると、東は真剣な表情で頷いた。
「分かった。すぐに警察に連絡を取って、協力を求めてくれ。」東はすぐに対応を指示した。
香織と涼介は地元警察署に向かい、刑事課の野口幸次郎刑事に事件の詳細を報告した。野口刑事は二人の説明を聞き、協力を約束した。
「これだけの証拠が揃っているなら、我々も全力で協力します。税関の記録と市場での証言を基に、捜査を進めましょう。」野口刑事は真剣な表情で答えた。
警察との連携により、香織と涼介はさらに深く捜査を進めることができるようになった。警察の協力を得て、犯罪組織の動きを監視し、証拠を集める作業が始まった。
「警察との協力で、これでようやく全貌が見えてくるかもしれないわ。」香織は涼介に向かって言った。
「そうだな。次は犯罪組織の日本国内における拠点を突き止める番だ。」涼介も意欲を燃やした。
こうして、香織と涼介は警察との連携を強化し、偽造紙幣事件の真相に迫るための新たな一歩を踏み出した。門司港で巻き起こる事件の謎解きが、ますます緊迫感を増していくのだった。
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