第31話 新章:新紙幣発行に裏で偽造紙幣が、、、

門司港の晴れた朝、信用金庫の窓口には忙しげな空気が漂っていた。三田村香織は、開店準備を整えながら、鮮やかな光が差し込む窓の外を一瞥した。港町特有の潮風が心地よく、今日も穏やかな一日が始まるはずだった。


高橋美咲は、いつものように窓口で顧客を迎えていた。彼女の明るい笑顔が顧客の心を和ませる。午前中のピークを過ぎ、少し落ち着いた時間が訪れた時、初老の男性がゆっくりと歩み寄ってきた。美咲はにこやかに対応し、預金の手続きを始めた。


その時、美咲の目に一枚の紙幣が映った。手に取ると、その紙幣には微かに違和感があった。表面の質感が他の紙幣とは違い、微妙なずれが感じられたのだ。美咲は慎重にその紙幣を確認し、心臓が高鳴るのを感じた。


「ちょっとお待ちくださいね。」美咲は男性にそう告げると、紙幣を手に取り上司の東寿郎のデスクに向かった。緊張した面持ちで紙幣を差し出し、「東支店長、これをご覧ください。何かおかしいんです。」と告げた。


東寿郎は紙幣を受け取り、じっくりと観察した。彼の表情が一瞬にして険しくなる。細部まで精巧に作られたその偽造紙幣に、彼もまた驚きを隠せなかった。


「これは…非常にまずいことになったな。」東は深い息をつき、すぐに対応を決めた。「美咲、このことは他の職員にはまだ知らせるな。三田村と藤田にすぐに来るように伝えてくれ。」


美咲は急いで香織と涼介を呼びに行く。香織は東からの呼び出しを受け、涼介と共にデスクへと急いだ。彼女の心には、いつものように事件の解明に向けた決意が燃え上がっていた。


「どうしたんですか、東支店長。」香織が到着すると、東は偽造紙幣を差し出し、状況を説明した。香織は紙幣を手に取り、涼介と共に細部を確認する。二人の目は真剣そのものであり、すぐに調査を開始する意欲がみなぎっていた。


「これは新紙幣発行を狙った犯行だと考えられます。」東は緊張した声で続けた。「新しい紙幣が流通し始めたばかりで、偽造の精度がこれほど高いとなると、何か大規模な計画が背後にあるはずです。」


「わかりました。この紙幣の出所を探りましょう。」香織は決然と答え、調査の第一歩を踏み出す準備を始めた。


東からの指示を受け、香織と涼介は信用金庫内外の調査に乗り出す。偽造紙幣の謎を解き明かすための、長く厳しい戦いが始まろうとしていた。


門司港の朝の光が差し込む中、彼らの新たな挑戦が静かに幕を開けた。


信用金庫の調査室にて、三田村香織と藤田涼介は東支店長からの依頼を受け、早速調査に取り掛かった。香織はデスクに座り、偽造紙幣の特徴を一つ一つ確認していた。新紙幣の発行を狙った犯行であることを念頭に置きながら、彼女は紙幣の微細な部分に目を凝らした。紙の質感、印刷のズレ、透かしの異常、どれも見逃せないポイントだ。


一方、涼介はコンピュータの画面に向かっていた。偽造紙幣を持ち込んだ顧客の情報を検索するため、取引履歴を精査していた。彼の指がキーボードを打つ音だけが、静まり返った部屋に響く。


「香織、見つけたよ。偽造紙幣を持ち込んだ顧客は田中次郎という名前の商店主だ。」涼介がスクリーンを見つめながら言った。


香織は顔を上げ、涼介のところに歩み寄った。「田中次郎…取引履歴を見せて。」


涼介はモニターを香織に向け、田中次郎の詳細な取引履歴を示した。「彼は近隣の市場で仕入れをしているようだ。最近の取引で受け取った可能性が高い。」


二人はすぐに田中次郎の商店へ向かうことに決めた。田中の取引履歴から、彼がいつどこで仕入れを行ったかを確認し、手がかりを掴む必要があった。


「田中さんから直接話を聞けば、何か分かるかもしれないわね。」香織はそう言って、データをプリントアウトし、調査の準備を整えた。


「そうだな。さっそく行こう。」涼介も立ち上がり、外出の準備を始めた。


田中次郎の商店に到着した二人は、店の入口で軽く頭を下げ、中に入った。小さな食料品店には、棚にびっしりと並べられた商品があり、田中次郎がカウンターの向こう側で客の対応をしていた。


「失礼します。田中次郎さんですか?」香織が声をかけると、田中は振り返り、微笑んだ。


「はい、そうですが…何かご用ですか?」田中は少し不安そうに答えた。


「信用金庫の三田村香織と藤田涼介です。少しお話を伺いたいのですが。」香織が名刺を差し出し、丁寧に説明した。


田中は名刺を受け取り、「何か問題でも?」と尋ねた。


香織は偽造紙幣を取り出し、「実はこの紙幣についてお伺いしたいのです。先日、田中さんがこの紙幣を持ち込まれたのですが、どこで手に入れたか覚えていますか?」と聞いた。


田中は紙幣を見つめ、驚いた表情を浮かべた。「これは…私が使った紙幣ですか?確か、先週末に市場で仕入れをした際に、お釣りとして受け取ったものだと思います。具体的にどの店で受け取ったかは覚えていないのですが…」


涼介がメモを取りながら質問を続けた。「市場で仕入れをされる際、どのような店でどのような商品を購入されましたか?可能な限り詳しく教えていただけると助かります。」


田中は少し考えてから答えた。「はい、あの日は野菜や魚、肉などをいくつかの店で買いました。特にいつも仕入れている八百屋と魚屋、それから肉屋があります。そこで受け取った可能性が高いですね。」


「ありがとうございます。これから市場で調査を進めてみます。」香織は感謝の意を示し、涼介と共に店を後にした。


「田中さんの情報を基に、市場での聞き取りを進めましょう。」涼介が言った。


「そうね。まずは、いつも仕入れているという八百屋から始めましょう。」香織は決意を新たに、市場への道を急いだ。


こうして、香織と涼介は市場での調査を開始し、偽造紙幣の流通経路を追跡するための新たな一歩を踏み出した。門司港の事件の謎が少しずつ解き明かされていく過程が、これから始まろうとしていた。



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