学院へGO

「……ふぅ」


 とある日の朝、俺の肌はそれはもう艶々していた……なんてのは冗談であり、色々な意味で疲弊した結果の汗でテカテカなだけだ。


「トワさん……うへへぇ」

「……ほんと、良い顔をしてやがるぜ」


 ベッドの上で涎を垂らしながら寝ているのはリリスだ。

 今朝の目覚めはいつもの自宅ではなくリリスの家の寝室ということで、彼女の身に起きた副作用を治療する目的のためだ。

 そう……目的のため……目的のためなんだが。


「……にやけたいのは俺だって同じだわこれ」


 羽毛のようなベッドの上。

 そこで横になっているのは美しさとエロさを極限の形で両立させ、手を出したい欲望と同時に、おいそれと手は出せないという神聖さえも兼ね備えている。

 リリスはサキュバスなので神聖とは真逆……だというのに一枚の絵画かのようである。


「リリス……?」

「すぅ……すぅ……」

「リリスさん?」

「……むにゃ」


 あぁうん。

 分かってたけど完全にまだまだ起きる気配はない……ならちょっと悪戯でもしようかなと思い、リリスの頬に向かって指を伸ばしてみた。

 ツンツンと軽く突いてみると、くすぐったようにリリスは……って!?


「おっと!?」


 ぬるりと伸びてきた腕を回避した。

 くすぐったそうにして身を捩るかと思いきや、まさか原因である俺を直接捕まえに来るとは予想外だ。

 しかもこれ、リリスは起きているわけじゃない。

 眠っているままの状態で瞬時に俺を捕まえようとしたんだ……流石だぜリリス。


「サキュバス……流石夢魔ってやつか」


 まあ違うだろうけど。

 そんな風にリリスの腕から逃れたわけだが、まだまだ俺の悪戯心は収まってくれなかった。

 こちら側に体を向け、むにゅりと形を歪める大きな胸。

 止めておけと思いつつも、ただでさえサキュバスの魅力に抗うのも難しいのに、こんなエッチな姿を見せられては何もするなというのが酷な話なのだ。


「……つんつん」


 以前の俺ならば、奇跡の力のおかげで耐えられていた。

 しかし今の俺は無力とは言わずとも、以前のように精神干渉に完全な耐性があるわけではない……だが子供の体で良かったとも思う。

 だって大人だったら……いや、もう少し体が成長したら色々と危ないことになってるだろうし。


「だからかな……控えめなパイタッチでスッキリする」


 こうして胸に触れていると落ち着くのは、リリスだからだ。

 これはサキュバスとしての種族特性であり、こうしていると異性の心を落ち着かせて癒すのだとか……なので人間に混ざり、娼館でこういう癒しを提供するサキュバスも居るのだとか。


「……ふふっ♪」

「……へっ!?」


 つい夢中になってつんつんしていたが、リリスは起きていた。

 一体いつから……そう思ったけど、リリスはこれでも魔王との戦いを生き抜いた歴戦の強者でもある。

 いくら警戒していない俺とはいえ、体に触れる存在が傍に居て目を覚まさないわけがなかったのだ。


「……ごめんなさい」

「どうして謝るんですか? むしろもっと揉みしだいたり、吸ったり噛んだりしても良いんですよ?」


 起こしてごめんなさいと、勝手に触ってごめんなさいの意図だった。

 しかしリリスは全く気にした様子もなく、むしろもっとしてほしいという始末で……そういやリリスはそういう子だったなと苦笑する。


「そもそも昨日はしてくれたじゃないですか! 今更恥ずかしがって何になると言うんです!」

「止めろおおおおおおおおおっ!!」


 思い出させるんじゃない!

 ニヤニヤとベッドの上から見つめてくるリリスだが、今の言葉で咲夜のことを全て思い出した……というか忘れられるわけがない。

 母さんからお許しが出たことで、昨日のリリスは機嫌が凄く良かった。

 腕によりをかけて作ってくれた夕飯は最高だったし、とにかく引っ付いて離れようとしない彼女は可愛くて……俺としても最高の時間だった。

 だがそれが極まったのは、二人で風呂に入った時だ。


『はい、お背中流しますねぇ♪』


 そこでリリスがしてきたこと……あれは凄まじかった。

 石鹸を泡立ててそれを胸元に塗りたくり、俺の全身を余すことなく体を使って洗ってくれた……その時に俺の息子の状態を確かめ、元気にならないことに軽く舌打ちをしたりと完全に食う気だった。

 そして更に極めつけは寝る前だった。


『とにかくトワさんに甘えられたいんです。なので沢山、吸ってくださいませんか?』


 完全にリリスの愛と欲望が暴走していた。

 詳しくは話さないけれど……まさか赤ん坊を卒業してなお、授乳を経験するとは思わなかったとだけ言っておこう。

 そんなこんなで、大変疲れはしたが……男としての俺はとても喜んだ時間が昨晩だったわけだ。


「ふふっ、困らせてすみませんトワさん。でもおかげで、大分マシになってきたのではと思います」

「おぉ……確かに」


 たった一夜だが、リリスの下腹部に浮かぶ紋様の輝きは控えめだ。

 風呂に入っている時も寝る前の時も、意識せずとも視線が向くほどの輝きだったが……でもまだもう少し傍に居る必要はありそうだ。


「さてと、それでは朝ご飯を作りましょうか」

「手伝うよ」

「はい……♪」

「どうした?」

「いえ、一緒にお料理を用意するのって夫婦みたいじゃないですか?」

「それはまあ……でもいずれそうなるしな」

「と、トワさんっ!!」

「むがっ!?」


 あ、朝から弾丸級の包容力……!!

 そんな風に朝から騒がしい時間を過ごした後、リリスと共に訪れたのは王立魔法学院だ。


「あの……リリス?」

「大丈夫ですよ~。今日は担当授業はないですし、主に書類の整理などですので目立ちません」

「いや、もう目立ってるが」


 既に事情に関しては教師の中で伝わっているとはいえ、生徒間に俺のことは伝わっていない。

 なので俺とリリス……特に俺を見る視線の凄いこと。

 まあ以前に一度ここに来た際に、一度見たことのある生徒に関しては俺を見てあっと声を出していたが。


「それじゃあ行きましょうね~♪」


 そうして俺は教員室へと連れて行かれるのだった。

 予め話が通っているとのことで教師の人たちは、ほとんどの人が俺のことを歓迎してくれたがその逆も然り。

 まだ俺なんてけちょんけちょんのガキだというのに、リリスの傍にベッタリくっ付いているのが気に入らない男性教師が数名居た。


「トワ・ラインストールです。よろしくお願いします」

「よろしくねトワ君!」

「奇跡のトワと同じ名前か! 親御さんはファンだったりするのかねぇ」

「リリス様の子供かと思ってしまった……」


 ちなみに俺の立場についてだが。

 友人が旅行に行くため、その間に預かっているという設定……それだけなら良かったのだが、俺がリリスにかなり懐いており少し離れるだけでも不貞腐れるとも伝えられているとのこと。

 これに関しては完全にアリオスとリリーナの入れ知恵だが……本当にやってくれたなあいつら。


「それではトワさ……トワ君、挨拶も済ませましたしこちらにどうぞ」

「あれ、教員室で仕事じゃないの?」

「それも良いんですが、元々用意されている私専用の部屋に行きます。トワ君もあまり堅苦しい雰囲気は嫌でしょうし……あ、別にトワ君と個室でという欲望からではないですよ?」

「……………」


 本当かな……?

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