依頼に行こう
『なんでだよ! 友達の家に遊びに行くのは普通だろ!?』
『突然来たことは謝るわ。でも会いたかったのよ……いいでしょ?』
リリーナはともかく、アリオスに関してはガキというか……どうも俺と再会してから昔のような活気が戻ってきたらしい。
もちろんベッドの上では変わらない若さを発揮だとか、どうでも良い話をリリーナが赤面して話していた。
「……ったく、一応これから来るときはちゃんと連絡しろとは言っておいたが」
仮にもあの二人は国王夫妻なのだからその辺は徹底してもらいたい。
いくら変装して住民に知られないようにしているとはいえ、流石に俺や母さんとしても心臓に悪いからな……。
「にしても母さん……凄い人気だな」
先日の騒ぎを思い出していた俺の視線の向こうでは、母さんが色んな冒険者に声をかけられている。
今居る場所は冒険者組合ということで、依頼を受けるためだ。
別に金に困っているというわけではなく、単に俺が母さんと一緒に依頼を受けてみたいと言ったらこうなった。
「アストレフィアさん! 是非一緒にパーティを組もう!」
「女性が一人は危ないからな!」
「そうですよ! 俺たちが必ず守りますから!」
当然だが母さんは誰かとパーティを組むつもりはない。
そもそも高難度の依頼を母さんが熟していることはそれなりに知られているはずなのに、ただ母さんに近付きたいからとあんな風に言い寄っている。
「……なんつうか、あまり見たい光景ではないわな」
それだけ母さんが頼られているわけでもあるが、少なくともそんな理由であの周りに居る男たちは近付いていない。
ある程度離れているのに分かる彼らのいやらしい視線。
母さんの胸や尻をチラチラ見ているのがよく分かる……てか昔のリリスとセレンもあんな感じに見られてたよな。
「よしっ……行くぞ」
屈強な冒険者たちの間を歩き、母さんの元へと辿り着いた。
案の定なんだこいつはという目線を向けられたが、その視線を一切気にすることなく母さんの元へと向かい、その白い手を握りしめた。
「行こう、母さん」
もっとも、こうして俺が母さんの手を引いた理由はもう一つあった。
これ以上母さんがあの場に居ると爆発してしまいそうだったから……まあ俺からすればそれもまたざまあみろって気持ちだけど、それ以上に少し嫉妬してしまったわけだ。
「まさか嫉妬してくれたのか?」
「したよ」
「……そ、そうか」
心配ないとは分かっていても、俺だって嫉妬くらいはする。
ブライトオブエンゲージによって繋がっている俺たちは、彼女たち曰く無理やり引き裂こうにも引き裂けない繋がりがあるらしい。
だからこそ無用な心配は要らないのだが、俺にとって母さんたちは将来を一緒に過ごすお嫁さんたち……なら嫉妬するのは正当な感情だろう。
「……ふふっ、悪くはないものだな。こうして愛している息子に……将来を共に過ごす伴侶に嫉妬されるというのは」
そう言った母さんは、獲物でも見るかのように舌なめずりをした。
最近になって増えてきたその視線……もし俺の体がもう少し大人だったとしたら、すぐベッドの上に押し倒されて色々吸われてしまうだろう。
「それで依頼は何なの?」
「東の森に発生しているダークウルフの討伐だ。他にも色々と依頼は数多くあったが、やはり討伐系の依頼が一番分かりやすく楽だ」
「……それはまあ確かに」
だろうと誇らしげに笑う母さんと共に、すぐ東の森へと向かった。
この森はよく魔物が大量発生する場所であり、冒険者の間で討伐隊が組まれたりすることもある。
そうして森に近付いてきたが、視界を埋め尽くすほどの広大さはいつ見ても圧倒される……これはもう一つのダンジョンと言っても差し支えなかった。
「それじゃあ行くぞ。くれぐれも私から離れるな」
「うん」
剣術も魔法も、ある程度は使えるようになった。
ただそれでもまだ俺が弱いことは変わらないので、魔物の大群に囲まれたらまず生き延びるのは不可能だ。
……冷静に考えると、俺が付いてくるのはリスクがある。
それは重々承知だが母さんに付いてきた理由はもう一つあって、それがそろそろ吸血衝動の周期なのだ。
「さてと、軽く舞うとしよう」
母さんは俺の手を握ったまま、鎌を握ってただ歩いて行くだけだ。
たったそれだけなのにこちらに襲い掛かろうと飛び出してくるダークウルフたちはみんな、バラバラに切り刻まれて死んでいく。
「……こりゃほんとにすげえわ」
「ははっ、トワも隠さなくなってきたな」
「そりゃね。てかずっと俺はこんな風に呆気に取られてたよ」
いつだって俺はこんな風だった。
鎌を握った母さんはとにかくかっこいいだけでなく、道を歩けば全ての敵意ある存在は地に伏していく。
堂々と歩きながら近付く魔物たちが切り裂かれるその光景は、正にアニメや漫画で描かれる最強キャラだ。
「ほら、残り一体だ」
俺が考え事をしていたのはほんの少しだ。
それなのにもう俺たちに襲い掛かろうとしていたダークウルフは残り一匹となっており、口元から涎を垂らしながら俺を見ていた。
普通ならば仲間がこうもやられたら怖くなって逃げだすだろう。
しかしダークウルフの種族特性として、奴らは群れて行動するが仲間意識は全くない……つまりこうして周りに仲間の死体が多く転がっていたとしても、ダークウルフの考えていることはただ腹を満たすことだけ。
「危なそうならすぐに手を出すが」
「うん。ありがとう母さん」
背中を守ってくれるのは母さん……これ以上ないほど心強い。
「……ふぅ」
母さんが用意してくれた特注の剣を手にしながらウルフの前に立つ。
どうやら奴は仲間意識や恐怖を感じない頭ではあるものの、母さんよりも俺の方が弱いということくらいは考えられるらしい。
クソ獣風情がよぉ……正解だよそれぇ!
「でも俺だって強くなった……前の俺に比べて、早い段階から色々と教わったからな」
それでも前の俺の方が圧倒的に強いが、今の俺だってやれる。
そもそも俺は強くなりたい……たとえ母さんたちのように圧倒的な強さを持てなくても、ただ俺は彼女たちを守られる男になれればそれでいい。
「ダークウルフ……お前は俺にとって通過点だ。俺はもっと強くなる……前の俺と違って、背負うべき存在が……守りたい大切な人が居るんだ。だから俺の糧になってくれ……っ!」
「うおおおおおおっ! かっこいいぞトワぁああああああ!!」
ちょっと母さん!?
頼むからそんな声援というか、気が抜けるようなことをしないでくれないかな!? だってほら、俺だけじゃなくてダークウルフまで目を丸くしちゃってるし!
「その……やるか」
「……ガウッ」
そうして俺はダークウルフへと駆け出し……見事打ち取った。
戦い方としては剣術はもちろん、母さんから教わった魔法を駆使して戦ったのだが、十分やれるという手応えを感じることが出来た。
「でもまだダークウルフ一匹だしなぁ……」
「そう言う必要もないだろう。少なくとも、私はトワの姿から必ず強くなる未来を感じたぞ?」
「そう?」
「あぁ」
そっか……ならいいか。
母さんの言葉に勇気付けられ、俺も更にやる気が出てきた。
それからも母さんは狩りを続けたが、数体残してもらって自分の鍛錬のためにダークウルフを狩り続けた。
「よしっ、こんなものだろう」
「……地獄絵図だこれ」
周りはダークウルフの死体で溢れ返っており凄まじい光景だ。
しかしこれで一旦間引けたと思うので、依頼に関しては十分すぎる成果と言っても良いだろう。
「いやほんと、母さんの戦い方は惚れ惚れするよね。鎌を持って舞うように戦う姿はいつ見てもかっこいいよ」
「ありがとうトワ、そう言ってもらえると嬉し……い……っ」
っと、そこで例のアレが来たようだ。
一気に頬を紅潮させた母さんの様子は、分かりやすい吸血衝動に駆られている。
常に俺が傍に居るのと、我慢もある程度出来るから予備の血は持ち歩いていないが……まあ俺が傍に居るから我慢の必要もないし、そもそも母さんにとって俺の血は本当に極上らしく他はもう飲めないとのこと。
「なあトワ……今日は少し違う飲み方をしても良いか?」
「え? それはまあ……良いけど」
なんだ?
舌なめずりと共に微笑みながら母さんは近付き、そのまま顔を近付けてきて……ってえええええっ!?
「むぐっ!?」
「ぅん……」
思いっきりキスをされた……てか、これは普通のキスじゃない。
キスと言われたらキスなのだが、どうやらこの状態で器用に母さんは俺から血を頂いているらしい。
「……どうだ? 気持ち良くないか?」
くっ……!
気持ち良くない……なんて言えないというか、思考がぐちゃぐちゃになりそうなくらい気持ち良い。
てかなんだこの吸血の仕方……エロすぎんか!?
「凄く……良かったかも」
「ふふっ、そうか! こうしてお前と気持ちが通じ合ったのだし、これくらいのことはもう普通にやって良いと思ったんだ。いやぁ、これからが楽しみだなトワ!」
「……………」
てことは、これから吸血の時はあれを……?
これは頭おかしくなるぞとは思いつつ、ちょっとドキドキしてしまう辺りに俺も男なんだなと呆れてしまうが……仮にこれをリリスとセレンに知られたらどうなる?
『私ともしましょう!』
『あたしともその濃厚なのするわよ!!』
……ふぅ、とにもかくにも大変なことになりそうだ。
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