母の嫉妬
セレンと少し危ない感じになったら母さんがやってきたでござる。
「あんた……一体どこから現れたのかしら?」
「お前がトワと会って少ししてからだな。どうやら私の影に入り込む技は英雄殿の探知にも引っ掛からないらしい」
「……分かってたことだけど、あんた相当規格外ね」
「息子が絡めばな。それ以外のことで使う技ではないよ」
なんか……レベルの高い話してんな二人とも。
まあ母さんが規格外の存在であることはともかく、セレンも十分に規格外の存在だとは思うのだが……でも実際、母さんとセレンがやり合ったらどっちが勝つんだろうか。
「ふと思ったんだけど」
「なんだ?」
「なに?」
「母さんとセレンは……戦ったらどっちが強い?」
じゃあ試しにやり合うか、なんて言い出したら止めよう。
ただ純粋な疑問としてそれは気になったんだよなぁ……レベルとか魔力の質で言えば二人ともに似たようなものだけど、実際はどうなんだ?
しばらく見つめ合う母さんとセレンだったが、すぐ答えは出た。
「私だろう」
「フィアでしょうね」
二人同時の答えは一致していた。
母さんは自らを指差し、セレンは特に悔しがる様子もなく母さんを指差しと……どうしてそう結論が出たのか聞いてみよう。
「どうして?」
「単純に相性の差と言えるだろうな」
「相性?」
母さんが頷き、セレンも同時に頷いて言葉を続けた。
「私は主に魔法を主体としてるけど、フィアは鎌を使ったゴリゴリのインファイトでしょう? それでもある程度の奴に私が遅れを取ることはないけれど、フィアの場合は次元が違う……だからこそね」
「……へぇ」
セレンの口からそう言われるってことは、それだけ母さんが凄いってことだ……かっけえなぁ母さん。
「セレンが放つ魔法は強い……が、私はそれを上回る速さで魔法が発動する前に首を落とせる。覚えておけトワ――お前の母である私は、凄く強いってことをな」
「……あはは、分かってるよ」
母さんが強いことくらい分かり切ってるさ。
でもそうかぁ……セレン相手にこれくらい言えるってことは、リリスにも相性の差で母さんは勝てるってことかぁ。
まあ母さんが強すぎるというよりは、母さんたちのレベルが高すぎるのもあって、他の誰かでは比べられない領域なのは確かである。
「話を戻すぞ。セレン、どうしてトワを連れてきた?」
「別に良いでしょ? 本当にトワと二人になりたかっただけ……でもちょうど良かったとも言えるでしょうが。だってトワ一人だったし」
「むっ……それはそうだが」
まあ、確かに一人で時間を持て余していた。
いきなりセレンと会ったのはビックリしたけど、セレンに連れられて同じ時間を共有出来たのは普通に嬉しかったし……何より、セレンと一緒に居られるだけでも俺は幸せな気持ちだった。
「まあ、さっきのやり取りはともかく……俺もセレンと会えて、こうして一緒なのは嬉しいしさ。母さんもあまり疑わないでほしい」
「トワがそう言うなら……分かった。すまなかったな、セレン」
「物分かり良すぎでしょ……ま、トワに言われたらそうなっちゃうか」
「うむ」
胸を張って頷く母さん。
そんな母さんに苦笑したセレンは、俺の体を持ち上げて太ももの上に置く……ってこの体勢は!
「はい、あんたこの姿勢好きそうだもんね」
「……………」
「無言は肯定とみなすわ。別に恥ずかしがる必要ないでしょ? あたしはあんたの女なんだし」
「おい、ズルいぞセレン」
「はぁ? そもそもあたしが二人になりたいから連れてきて、そこにあんたが入ってきたんでしょ? なら今この場におけるトワの優先権はあたしにあるんだから」
「し、しかし……」
頼むから俺を挟んでやり合わないでくれ!
なんてアホなことを言うつもりはないが、最強の母さんも口先の勝負ではセレンに勝てるわけもなく……流石セレン。
その口から発せられる言葉にどれだけの存在が潰されてきたことか……とはいえ、仲が悪いわけではないのでその点は安心している。
「……ふっ、まあ今はお前に譲ってやろう。所詮は今だけだ――家に帰れば一緒の風呂も、ご飯も、就寝も全て私が独占出来るのだからな」
「……あんた、卑怯でしょそれ。トワを数日ここに泊めなさいよ」
「嫌だ」
ツンと母さんは顔を背けた。
リリスの時もそうだけど、セレンとのやり取りをする母さんはいつも以上に可愛いというか……何となくだけど楽しそうに見える。
思えば俺を連れて旅をする際は、親しい知り合いは居なかった。
母さんは知り合いを必要とはしなかったけど、目の前の母さんを見ればこういうやり取りを楽しんでいるがとても良く伝わってくる。
「……母さんが楽しそうにしてるのを見れるのは、息子冥利に尽きるな」
「お前と会ってからずっと私は楽しいぞ」
ありがとう母さん、俺もだよ。
さてさて、こうして母さんがやって来たことでセレンの目的は露と消えてしまったわけで。
「……はぁ、仕方ないわねぇ。先を越そうとしても上手く行かないわ」
「当たり前だ。トワの初めては全部私がもらう予定だからな」
恥ずかしいことを言うのは止めてね。
一昨日から完全に色々と隠さなくなった母さんに恥ずかしくなるも、急に表情を引き締めて母さんはこう言った。
「そういえばトワ」
「な、なに?」
「さっきのゴミはなんだ?」
「ゴミ……?」
ゴミ……ゴミってなんだ?
母さんの不快そうな表情もさることながら、今すぐにそのゴミとやらを始末しそうな雰囲気である。
ふと脳裏に浮かんだのはナニモだが……。
「ナニモのことでしょ。よくもまあ出てこなかったわね?」
「一昔前の私なら奴の首は飛んでいたぞ。まあ、トワに会っていないという仮定の話だが」
「そう考えるとあんたは随分丸くなったってことよね。いずれ昔の話を聞いてみたいものだわ」
「面白いことは何もないがな」
なるほどなぁ……ナニモが殺されていた未来もあったと。
別に俺にとっちゃどうでも良いとまでは言わないけど、知らない所で実家の誰かがどうなっても気にはしない。
一応俺を産んでくれた家でもあるけど、された仕打ちを考えればな。
「ああいうのが居るからトワが戻ってきたとは言えないわ。そもそも死んだ人が生き返るだなんて誰も思わないだろうけど、仮にそうだと分かったら分かったで面倒なことになりそうだしね」
「そうだな……一度死んで蘇ったなど前例がない。他所のちょっかいもあるだろうしな」
だよなぁ……他人事じゃないのは分かってるんだが、それでも自分がそんな重要な立ち位置に居るというのは、当人であっても実感が薄い。
だが、セレンの考えに俺は賛成だ。
面倒事はごめんだし、俺のことを知っている人……かつて共に過ごした人たちだけが知っていればそれで良い。
「じゃあ、このまま静かに暮らすのが一番だよな。母さんを含めてリリスやセレン、アリオスにリリーナくらいが知ってればそれでいいよ」
「そうね、私も賛成だわ」
「……一国の王と妃の知り合いでしかも子供……静かに暮らせるのか?」
母さん、それは言っちゃダメだぜ。
それから母さんが俺を奪おうとしたが、セレンの強固な守りによってそれも叶わず、ぶぅっと不貞腐れて体育座りをしている。
「あ、そうだったわ。アリオスとリリーナだけど、明後日には帰るみたいだから」
「おぉ……会えるのか?」
「もちろんじゃないの。絶対に会わせてあげる」
「……ありがとな」
「いいのよ。あぁもちろんフィア、あんたもだからね?」
「言われなくてもだ」
明後日……か。
明後日になればかつての仲間たち勢揃いした状態で会えるのか……果たしてどんな再会になるのか今から気が気でないけど、何事も無く再会出来るなら俺はそれで良い。
でも……二人は信じてくれるか?
なんてことを少しだけ考えてしまった。
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