親子の語らい

 目を開けてすぐ、目の前にはカオスが広がっていた。

 心配そうに見つめてくる母さんと、バチバチに魔力を迸らせて睨み合うリリスとセレンの姿だ。

 昔と何も変わらない美しい見た目のセレン。

 こうしてまたリリスと同じく再会出来たのは嬉しいことだが、このカオスな状況をどうにか出来るのは俺しか居ない――魔王とのやり取りもそうだったが、悩まされていた問題の解決を確かめるためにも、このマッドサイエンティストハイエルフは俺が止める!


「母さん、俺が彼女を止める。それと色々話したいことがあるから待っててほしい」


 母さんとしても、気になることは沢山あるはずだ。

 それに母さんからすればセレンによって俺の身に何かが起こったようにも見えているだろうし、それこそ母さんが怒りに任せてセレンに攻撃していないのは奇跡に近い。

 セレンは強い……が母さんも強い。

 その実力は拮抗していると思うけど、一度やり合ったらここら一帯が更地になるくらいの被害は確実に出てしまう……だからまだ何も起こってないことに俺は安心したんだ。


「トワ……」

「大丈夫」


 母さんに安心させるように笑みを浮かべ、セレンへと体を向けた。

 彼女の空のように青い瞳は俺を捉え、荒れ狂う魔力とは裏腹に優しさへと満ちているその瞳は、やはり何年経っても変わらない。


「セレン、落ち着け」

「分かったわ」


 俺の言葉に、セレンはすぐ魔力を収めた。

 リリスも続くように魔力を収めていくが、俺の言動に対してとてつもない動揺を見せている。

 真実を話すか、或いは肯定するか……そうすることでそれを知った相手に異変が起こることは証明されているため、何も起こらないことにリリスは唖然としているんだろう。


「トワさん……?」

「……あ~、一旦まずは落ち着いて話をしよう。セレンの魔法をきっかけに色々とあったんだ。俺の中にあった奇跡の力は魔王だったとか、それで魔王は完全に消えて色々と大丈夫になっただとか、そのおかげで俺に課された制約もなくなっただとか」

「色々とありすぎじゃないか!?」

「そうですよ! そんな涼しい顔で説明しないでくださいよ!!」


 いやほら……周りが慌ててると逆にこっちは落ち着くってやつだよ。

 取り敢えず全員で椅子に座って……そう言おうとしたところで、背後からギュッとセレンに抱きしめられた。

 二本の腕で強く抱かれ、背後に押し当てられる抜群の膨らみ。

 もはや今の俺にとっては慣れた感触ではあるものの、相手が再会したばかりのセレンとなればドキッとしてしまう。


「トワ……トワぁ……っ!」


 さっきまでの威圧感は完全になくなり、セレンは泣いた。

 俺からすればセレンが泣く瞬間というのはあまり見たことがないため、しばらく好きにさせてあげよう。

 そうしてセレンが落ち着くまで待った後、俺は全てを話す……の前に、一つのけじめを着けておきたかった。


「っと、その前にまずは母さんにまず伝えたいことがあるんだ。セレン、悪いけど待っててくれ」

「え……」

「セレンさん、私とお話しましょうね」


 リリスはそう言うが、セレンは切なそうにこちらを見つめた。

 俺だってセレンと話したいことは沢山ある……それに、あのセレンがこんな気落ちした様子を見せてくるのも調子が狂う。

 だが俺はけじめを着ける必要がある……それは今の俺がしなければいけないことであり、何よりも優先しないといけないことだから。

 セレンはリリスに任せ、母さんを連れて俺の部屋へ。

 二人してベッドに腰を下ろし、こちらを見つめる母さんと視線を合わせて話し始めた。


「なんとなく……なんとなく察してはいるんだ。母さん、リリスから色々と話を聞いたんだろ?」

「あぁ」


 思った通り、母さんはリリスから話を聞いたようだ。

 元々それに関してはリリスに提案していた部分もあったけど、それならある程度は省いて話を進められる。


「その……俺はトワだけど、一度死んで生まれ変わった。かつては奇跡のトワだなんて名前で呼ばれることもあって……魔王の自爆からみんなを守って死んだトワだ」

「みたいだな。お前は昔から賢いと思っていたが、確かに生まれ変わりであるならそれも頷ける」

「……その~」


 母さんは笑顔のまま表情は変わらない。

 だがしかし、俺としてはそんな母さんの様子をありがたいと思いつつも複雑な部分があった。

 話せない理由があったにせよ、ちゃんと成熟した考えを持っていた俺が母さんに……子供として甘えていたこととか、それをどう思っているかが怖かった。

 母さんを見ればその心配は決してないだろうけど……それでも気になってしまったんだ。


「……ふっ」

「母さん?」


 ふっと笑った母さんは、隣に座る俺を抱きしめた。

 こうするといつもと変わらない抱きしめ方……その豊満な胸元へ全く恥ずかしがりもせずに、優しく包み込む抱擁だ。


「確かに驚きはしたが、あくまでそれだけだった。お前に対する気持ちは何一つとして変わらなかったよ」

「母さん……」

「生まれ変わりか……聞いたことのない出来事だ。だが私はそんな奇跡のような出来事に感謝している。何故ならトワに……お前という素敵な子に出会えたこと、そして母親になれたのだからな」

「っ……」


 母さんの言葉は、声音と共に優しかった。

 どこまでも俺という存在を受け入れ、これからもずっと傍に居てもいいんだと教えてくれる。

 何も心配なんて必要ないんだと……この居場所こそが、母さんの傍こそが俺の帰る場所だと実感させてくれる。


「母さんは……素敵な人だな」

「ははっ、そうだろう? お前にそう言われるのは嬉しいし、言われたいと思うのもお前だけだ」

「……………」


 母さんは俺を泣かせる気かな?

 でもやっぱりこうやって受け入れられることの嬉しさはもちろん、以前の俺が家族の愛というものに触れなかったというのもあるので、こうして抱く感動もひとしおだ。


「俺が真実を話そうとすれば母さんたちに良からぬことが起こるのも分かってた。だからリリスと夢境で会った際に、母さんには一早く伝えたいことも言ってたんだ……だから今回のことで、結果的にこうして母さんに自分の言葉で説明出来たのは嬉しかったよ」

「私もトワの言葉で聞けたのは嬉しかった。その上で敢えて、何度でもこの言葉をお前に贈ろう――私はトワを愛している。トワがどんな存在であってもそれは変わらないからな?」

「……うん」


 本当に……本当に家族って温かいなぁ。

 俺は人間で母さんはヴァンパイア……種族の違いがある中で、ここまで思い合える家族を持てたこと……母さんに出会えたことは、本当に俺のこの人生において何よりも幸福なことだと胸を張れる。


「……あはは」

「ふふっ、さてと……それじゃあ彼女たちの元に戻ろうか?」

「そうだね」


 まだ話足りないが、リリスとセレンを待たせるわけにもいかない。

 そうして立ち上がり部屋を出ようとしたところで、母さんが一つ言いたいことがあると言って立ち止まった。


「どうしたの?」

「リリスと……セレンと言ったか? あの二人に先を越される可能性を潰しておこうと思ってな」

「??」

「実は私も発動してしまっているんだ」

「何が?」

「ブライトオブエンゲージが」

「……え?」


 ブライトオブエンゲージが発動……母さんが!?

 一体誰との間に……少しだけ心がキュッと痛くなった気がしつつも、母さんの次なる言葉を俺は待つ。


「もちろんトワ、お前との間に……だ」

「……え?」

「ふふっ、やっと伝えることが出来たな。こういう状況だし、トワの正体を知った今となっては伝えても問題ない。これからが楽しみだな?」

「……………」


 ……えっと、冗談ではないんだよね?

 今すぐに足を止め、もっと詳しく事情を聞かないとスッキリ出来なくなってしまったが、母さんに背を押されて仕方なくリリスたちの元へと戻るのだった。

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