あまりに変わったというか……凄いことになってる

「……えっとぉ」

「どうした?」

「あのぉ……」

「……そりゃこうなりますよ」


 目の前でリリスが呆れた表情をしつつも、困り果てた俺を見てずっと可愛いと言って見つめてくる。


(これは……)


 目を覚ましてからずっと、母さんが俺に向ける視線は優しい。

 これは別にいつものことではあるが、明らかに今まで以上の違いをこれでもかと感じさせる。


「気にするなトワ。お前の苦労は分かっているし、それを聞こうとは思わない。だがまあ、厄介なことに変わりはないがな」


 母さんの言葉に、リリスが困ったように笑う。

 これは何かあったなと察することは簡単だったが、リリスがこんな風に笑っているのを見るともしかしたらという考えが脳裏を過る。

 ただ今は何も話すことも、聞くことも出来ない。

 なのでこのことに関してはその内、またリリスから夢境で聞かせてもらうとしよう。


「……ってちょっと待って。今更だけどなんでリリス……リリスさんがここに居るんだ?」


 そうだよ……そうだよなんでリリスがここに居るんだ!?

 もっと早く疑問に思うべきだったんだろうけど、母さんがあまりにも俺のことを構うのと、リリスがあまりに自然体すぎてスルーしかけてしまったが……まあでも、母さんが何も言わないってことは……何も言う必要がないってことで良いのか……?


「……………」


 何だろうなこの感覚……凄くもどかしくて気持ち悪い。

 気になることは聞けば良い……言葉にして伝えれば良いのに、それを全部ダメだと否定しやがるのが奇跡の力であるあの野郎だ。


(おい……聞こえてるか?)


 自分の中に居るであろう奇跡へと声をかけるが、奴は答えない。

 無視をされているわけでもなく、単純に声は届いていない……あの夢の空間だったり、奴の苛立ちを感じるあの感覚がないので、本当に俺が肯定するかしない限り奴の力が作動しないんだろう。

 しかしまあ……本当に面倒なことだ。


「……………」


 いや、でもそうか。

 俺が母さんに事実をどうにか伝えたいと、それに関してリリスがどうにか出来るかもしれないと言っていたので、もしかしたらそれで伝えてくれた可能性もあるのか。

 ……くっそぉ、これが夢境ならリリスに色々聞けるのにさぁ!!

 どれだけのことを考えても、俺の脳裏を埋め尽くすのはクソ面倒な制約を押し付けやがった奇跡の力に対する文句ばかりだ。


(どうにか……どうにか早めに対処したいなやっぱり)


 奇跡の力……幾度となく俺を助け、そして仲間たちを助けてくれたあの力に恨みはないが、それでも俺の行動一つで母さんやリリスが危険に晒されることに変わりはない。

 再び生まれ変わったこともまた奇跡の一端かもしれないが、誰かを傷付ける可能性のある奇跡を奇跡とは呼びたくねえし、そうなるとどうにか俺の中から奴を追い出す手を見つけたいところだな。


「トワぁ♡」

「トワ君♡」


 両サイドから圧倒的ボリュームの胸に挟まれた。

 俺を取り合うわけでもなく、まるで二人でその温もりを与えてくれるかのようなこのやり取りに、やはりリリスから母さんに何かを伝えたんだろうなと確信した。

 リリスはともかく母さんの声も凄く甘々で……恥ずかしさは確かにあるというのに、ずっと浸りたいほどの包容力をこれでもかと感じさせてくるんだ。


(おっぱいがいっぱいやぁ……)


 もうさぁ……体に引っ張られる感覚に抗うのはやっぱり無理だ。

 思考は以前の俺と何も変わらないけれど、それでもこうして母さんたちに甘やかされるとどうも……どうも体から脳に甘えろと逆信号が送られるかのごとく、抵抗する気が一瞬にして失せてしまう。


「あ、そうでした。そういえばアレ、持ってきましたよ」

「アレ?」

「なんだそれは」


 アレってなんだ。

 リリスは胸の谷間に指を入れ、そこから何かを取り出す……って一体どこに仕舞ってんだ……?

 取り出したそれは何か錠剤のようにも見えるが……。


「これはトワ君の見た目年齢を成長させる薬です。ほら、用意すると言っていたでしょう?」

「……あ~」

「もう持ってきたのか?」


 学園に向かうにあたって必要になる薬だっけ。

 リリスが手にした薬を見てふと思ったのは、最近考えていることに関してだったりする。

 というのも学園に通う理由として、生徒として魔法を改めて習うのではなく、アリオスとリリーナの子供たちを見守りたい……そう思えてきたんだよな。


「俺は――」


 そう思ったからか、つい母さんが居るのにリリスに対してストレートにそれを話してしまいそうになったその時――玄関に誰かが来たようで、母さんとリリスが動きを止めた。


「……?」


 なんだ……?

 子供の俺はそこまで気配に敏感なわけじゃない……それなのに、妙にこの玄関に居るであろう誰か……そうだ。

 なんで俺はこんなにも、玄関の外に誰かが居ると感じるんだ?

 途端に胸がザワザワしだした……これは一体?


「……そんな、まさか――」


 リリスが驚きを露にするように玄関の方へと消えて行き、俺と母さんはそれをただ見送るだけだ。

 母さんは俺を抱きしめたまま動かず、口だけを動かした。


「リリス、入れても構わん」

「母さん?」


 状況が呑み込めないまま、事態は進んでいく。

 濃厚な気配を感じる誰かが中へと入ってくる……出迎えに行ったリリスが口を抑えながら、信じられない者を見つめるような表情をして……そして現れたのは全身をマントで包んだ何者かだった。


「……………」


 俺はその誰かから視線を逸らせなかった。

 その人物は肩を震わせ、ゆっくりとマントを脱いでいく……そうして現れたその姿に、俺は目を丸くした。

 輝く金髪をツーサイドアップにし、リリスのように露出度が高い白を基調としたドレス……そしてとにかく目を惹くのは、美しすぎる顔と抜群のスタイルだ。

 俺はその人を……その女性を知っていた。

 その女性は暗く濁った瞳で俺を見つめ、ニコッと微笑んだ――あまりにも歪でありながら、優しさと残酷さの二面性を見せる彼女は……。


「見つけたわ……トワ」

「……………」


 セレン……かつて共に旅をし、リリスが消息を掴めないと話したエルフの彼女だった。



【あとがき】


お久しぶりです。

書籍化が決まり、執筆作業もひと段落しました。

結論を言うと内容もそうですが、登場人物もそこそこにテコ入れが入りましたので、このカクヨムに投稿している内容と、いずれ発売されます書籍版ではかなり違っていると思います。

それはそれでこっちの設定で書くのも……大丈夫かな?

そう不安になりながらも、せっかくなので続きを書いてみました。

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