第29話 マイネの告白

「はい」

 マイネは震えそうな声で、ようやく答えるのが精一杯だった。


 すると、ルシャードの胸の中に閉じ込められ、後頭部に大きな手のひらがそえられる。

 逞しい身体に包まれ、ルシャードの温かい体温と愛情が伝わった。

 

「四年半前、マイネに近づけたと思ったら、消えてしまった。先ほどの虹のようにな。今度は消えたりしなでくれ」

 ルシャードが懇願するように言い募る。


 マイネを失ったルシャードが、どんなに深い悲しみに沈んだのかが垣間見えた瞬間だった。


 ルシャードの背中に腕を回したマイネは、溢れる想い口にした。

「俺もルシャード殿下を好きです。離れたりしません」


「このまま一緒に王宮に帰ろう」


 ルシャードは、一層、強くマイネを抱擁する。

 しっかりと。


「え?今ですか?」

「そうだ。駄目か?別れの挨拶ぐらいはした方がいいか?」


 マイネは狼狽した。

 まだ大切な存在を伝えていなかった。


 どんな反応が返ってくるだろうか。

 緊張しながら、マイネは告白する。


「四年前、ルシャード殿下の子を産みました」


「産んだ?」

 ルシャードは、口を開けたまま絶句する。


「はい。あの後、すぐに妊娠していることがわかりました」


 数秒間、ルシャードは唖然としたままだった。 


「どうして…どうして、もっと早く…妊娠したとわかった時に教えてくれなかったのだ?王都に戻れない理由でもあったか?」


 目を瞠り詰問するルシャードに、マイネは正直に明かした。

「ルシャード殿下には公表してないだけで婚約者がいると思ってました。だから」


「婚約者などいない!」

 マイネを遮り、ルシャードが反論する。


「はい、今はわかってますが、あの時はルシャード殿下がアプトに王女殿下を出迎えに行ったと聞いて、婚約者が訪問されるのだと誤解してしまって」


「そんな誤解をさせていたのか」とルシャードは呟く。


「薬剤師のリサと暮らす女性に会って、初めて自分の間違いを知りました」

「姉上に会ったのか……マイネは発情期の間のことを覚えてないようだな」


「初めての発情期だったから、記憶が曖昧です。殿下はオメガのフェロモンに誘惑されただけで、一度きりの過ちなんだと思ってました」


 マイネがそう言うと、ルシャードは短く嘆息した。


「俺はアルファ用の抑制剤を飲んでたし、自分の意思でマイネを抱いたんだ。それに、何度も好きだと伝えた」


 やはり、現実だったのか。

「よく覚えてなくて、夢かと思ってました」


「それで、俺から逃げて、一人で出産したって言うのか?」

 苦痛に耐えるようにルシャードが眉を顰めた。


「はい。妊娠してるってわかった時、すごく嬉しかったんです。そしたら、ルシャード殿下にそっくりの子が産まれて、すごく幸せでした」

 マイネは思わず涙をこぼした。


 ルシャードが顔を寄せて、頬に落ちた涙に唇を落とす。

 啄むように、繰り返した。

 徐々にマイネの唇に辿り着き、ルシャードの唇が軽く触れる。

 

 再び唇を重ねると、ルシャードの舌が歯列の間から口内に侵入した。

 湿ったルシャードの舌がマイネの舌を撫でる。


 唇が離れると、うなじの匂いを嗅がれた。


「発情期はいつあった?」

「ルシャード殿下と再会した日に一日だけありました」


「俺が誘発してしまうのか。今日も抑制剤を飲んだ方が良さそうだ」

「不思議ですね。ルシャード殿下だけに反応して発情してしまうなんて」


「俺もマイネだけが、好きすぎて怖いぐらいだ。マイネが呆れてしまうのではないかと心配だ」


 ルシャードが甘えた仕草をして、マイネは一瞬驚く。

「呆れたりなんてしません」


 マイネが目を細めて笑うと、ルシャードが真摯な眼差しで言う。

「これからは誤解が生まれないよう、些細なことでも何でも話してくれるか?」


「はい」

 マイネは頷き、これから王弟ルシャードと番になるのだと思い至った。

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