第2話 否、面倒くさい。

礼奈ちゃんが誘われた意味について、言い方は悪いがダラダラと話してきていて、仕事にも戻させたいので、さっさと同意してしまいたくなるが、それをして「綾乃さんがそうだって言ったから意識したのに、違っていました」なんて因縁をつけられても困る。


否、面倒くさい。


そう言えば、同じクラスで高卒ですぐにママになった子が居たが、生まれた子供との歳の差はほぼ一緒、こんな会話を毎日しているのかと思うと頭が上がらない。


「どうしてそう思うの?礼奈ちゃんはどうなりたいの?」と聞くと、ようやく「よくわかりません」と言った。


要約すると「お母さん教えて、お母さんが決めて」だった。


こりゃ、少子化にもなるよ。

リスクを恐れて、その後の友達への拡散トラブルを忌避する大橋礼奈ちゃんは、お断りもお付き合いも、相手が好意を寄せているのかも、全部決めてくれと言っていた。


私にあなたの人生を背負わせないでくれ。


聞いていて思ったのは、恋愛は陽キャにのみ許された娯楽のようになっている。

少しでも道を間違えれば陽キャ、明るいキャラクター以外の連中の恋愛は全て、笑いものにされて、メッセージアプリで拡散されて更なる笑いものにされてしまう。

何度も言うが、そりゃ少子化にもなるよ。


まあ…私たち、氷河期世代の時は、恋愛は金持ちにのみ許された娯楽だった気がしていた事も思い出して嫌な気持ちになった。


仕方ないので「礼奈ちゃんはどう思うの?釣り合いは取れてる?仲良くできそう?」と聞いてみる事にする。


返答はまさかの「質問の意味はなんですか?」だ。


本格的に考えが及んでいない。


これ以上は仕事に差し障るので、さっさと「ほら、告白するにしても、ご飯に行くにしても、好みじゃない男の子からされたら「は?」ってなるじゃない」と言ったのだが、返事は「はぁ……」だった。


これが良くなかった。

礼奈ちゃんはそこら辺が気になると手が止まる。

ミスが増える。


仕方なく、「変な子からご飯誘われても嫌だし、そもそもアンタごときが行けるとか思わないでよ。とか、私ってそのくらいって思われてる?ってなるでしょ?」と説明すると、ようやく理解して自分に当てはめ始めた。


眠気は飛んだようだが、仕事の進捗は5割しか進まずにいた。


流石に「翌日に影響するような飲み方はやめなさい」と経営者としても、年長者としても苦言を呈しておいた。


礼奈ちゃんはシュンとしながら帰って行った。



まあこれで懲りて明日はバリバリ働くだろうと甘い夢を見た訳だが、翌日は翌日で、彼氏(候補)と自分は相応しいかを悩んだとかで、寝不足なのだろう、目の下に盛大なクマを作って出社してきて頭を抱えた。


だが、考えは出たようで、釣り合いは取れているらしく、ひとまずはご飯に出かけたりする所から始めたいと言った。


「いいんじゃない。でも楽しみすぎて翌日に影響を及ぼさないでね」


今みたいにね。


何かを言ってパワハラだと言われても困るので最後のひと言は言わずに終える。


礼奈ちゃんは「はい!ありがとうございます!」と言った後で、とんでもない事を言い出した。


「綾乃さんは、釣り合わない相手から告白とか、釣り合わない人とお付き合いをした事はあるんですか?」


釣り合いね…。

記憶の扉からチラチラと漏れてくる中、礼奈ちゃんは「はっ!?」と言った後で「もしかしてそう言ったことがなかったり…。ごめんなさい!」と言いやがった。


失礼な。

彼氏くらいいた事はある。


「彼氏くらい、いたことあるわよ」


そう言っても礼奈ちゃんは左手をじっと見てくる。


失礼というか、全体的に無礼な子だ。

だが本人は何も無い、こういう経験もない。

これから沢山の人を怒らせて、ひとつずつ学んでいくしかない。


「結婚はしなかった。適齢期に会社を興したのよ?そんな暇なかっただけよ」


この言葉でようやく納得をした礼奈ちゃんは「なるほど!」と言うと、「それで、釣り合いとかは…」と聞いてきた。


この鈍感力も若者特有なのかもしれない。


「仕事しながら、変な相槌を打たなければね。あなた、進捗が遅れてるのよ?」


気持ちの良い返事はするが、それでも「依頼者には遅れる旨を伝えたら 『待ちますよ』と言ってくれました」と言い返してきた。


アンタの所には、温厚で待ってくれるお客様を割り振ってるからで、その分大変なお客様は全部こっちだよ。

それくらい言い返しても良かったが、それはせずに「別に付き合った話じゃないわ。ただ私に釣り合いって言葉を終えててくれた人の話」と言って話し始めた。


もう30年近く前の話だ。

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