44話・学園祭

「次はお化け屋敷」

 女子生徒の霊は一体何を目的としているのか、建物内を指差して次の目的を口にする。

 

「次はお化け屋敷だってさ。行こう」

 先ほどの失敗を活かして、理人や一条に事前に声をかける。


「うん。行こう」

 苦笑する理人と

「お化け屋敷か。俺達は楽しめるかもしれないけど、九条は楽しめるのか?」

 一条が互いに顔を見合わせる。

 本物が見える九条にとっては、物足りないかもしれない。

 しかし、女性の霊がお化け屋敷に行こうと言っているのだから、何か考えがあるのかもしれないし

「お化け屋敷は北側の校舎だね」

 理人がパンフレットを開いて校内の地図を確認する。


「北校舎には南校舎の二階から行けるみたいだね。ちょうど一階にある大きな食堂の上を通過する形になるみたい」

 理人を先頭にして、ゆっくりと階段を登る。

 階段を上がってすぐは広く長い廊下が先へ続いていて、ひたすら真っ直ぐ進むと北校舎の二階にたどり着く仕組みになっているらしい。

 地図を広げる理人が足を進めると、後に一条と片桐先生が続く。

 少し遅れて妙子が足を運び、妙子に対して少々疑問を抱いた様子の女子生徒の霊が、妙子の横顔をまじまじと見つめている。

 妙子は女子生徒の霊を見ないように視線を逸らしているものの、その態度は更に女子生徒の霊に不信感を抱かせる。


「もしかして、貴女も私のことが見えている?」

 北校舎に向け足を進め始めたところで女子生徒の霊が口を開く。

 必死に視線を逸らす妙子の顔を覗き込み、疑問を口にした女子生徒の霊は、やはり妙子の見る能力に気がついた。

 妙子はどう返事をするのだろう。




 疑問を抱いて様子を伺っていれば、ふと誰かに名前を呼ばれた気がして背後を振り向いてみる。

 しかし、背後に人の姿は見当たらない。


 理人や一条の視線は正面に向いているため、俺に声をかけたのは彼らではないことが分かる。

 男性の声が聞こえたような気がしたんだけど、空耳だったのだろうかと疑問を抱き足を踏み出そうとしたところで、再び背後から声がかかる。

 

 窓の外?

 

 か細い声で人の名前を呼ぶ人物は、窓の外にいるようで、事実を確認するために窓を開き視線を下へ移したところで気がついた。




「あ……これ、やばい奴」

 思わず本音が漏れ出てしまうほど、目にした光景は予想とはかけ離れていて

「やぁ。久しぶりだな」

 両目を黒く塗りつぶされた短髪の男性は青白い顔をする。灰色の髪の毛が印象的な霊に腕を捕まれて、はっと息を呑む。

 真っ赤に染まった唇が三日月型に変化して、奇妙な笑みを浮かべる霊は明らかに俺狙い。

 

 窓の外から声が聞こえる時点で気づくべきだった。

 ここは二階なのだから、一般の生徒や教師の声のわけがない。

 男性の霊に勢い良く腕を引かれて姿勢を崩す。

 

 

 咄嗟に窓枠に手を掛けることが出来なかった。

 激しい浮遊感と胸を圧迫するような息苦しさを感じ、自然と表情は険しいものになる。

 つかみ損なった窓枠に視線を移せば、窓枠に手を掛けて俺を見下ろす女子生徒の霊と目があった。


 急な状況の変化に戸惑っているだけの余裕もない。




「救急車!」

 九条は男性の霊の思惑通り、なす術もなく地面に叩きつけられたのだろう。何とも鈍い音が響き、続けて沢山の悲鳴が上がる。突如慌ただしくなった窓の外。状況は下を確認しなくても容易に想像することが出来る。

 理人と一条は互いに顔を見合わせると、言葉を発することなく同時に駆け出した。

 足早に階段をかけ降りて、正門玄関を抜けて校舎から飛び出した。


「たぶん左だな」

 九条が落下した地点を予想して、校庭がある方向へ素早く移動する。


「九条は大丈夫かな?」

 理人の問いかけに対して

「真っ逆さまだったからな。頭から地面に叩きつけられている可能性があるな」

 一条は少し前に見た光景を思い起こして顔を真っ青にする。

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中庭の幽霊 しなきしみ @shinakishimi

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