40話・学園祭
「あなたは私のことが見えているのでしょうね。合ってる?」
まじまじと顔を見られて問いかけられる。
見えていると答えた場合、どのような反応を見せるのか予想がつかないから怖い。
しかし、無視を決め込むと後が怖い気がする。
問いかけに対して、小さく頷き返事をする。
「因みにだけど、電車に乗るのは小学生のころ以来だから」
彼女が何処で俺に似た人物に出会ったのか分からないけれど、事実を小声で口にする。
周囲に人がいる状況の中で霊と話をしていれば、霊が見えない人たちからすれば、俺が独り言を話しているように見えるだろう。
不審者だと思われたくはない。
「小学校に入学したての頃に一人で電車に乗っていた。その時は椅子に力なく腰かけて私の問いかけに対しても全く反応を示さなかった」
出来れば人の多い電車の中で、独り言をしゃべっていると思われたくはない。
早く離れてはくれないかなと、淡い期待を抱いていれば思わぬ事実を耳にすることになる。
彼女が誰と俺を勘違いしているのか疑問を抱いていれば、どうやら彼女の言う人物は俺で間違いないようで、確かに小学校に入学したての頃。1年生の10月頃まで電車で小学校に通っていた。
その後は寮生活になり電車に乗ることもなかったけれど、当時は気持ちが沈んだ状態が続いていたから人に声をかけてもらったとしても返事をしなかった気がする。
「ごめん」
無視をしたから恨まれたか。
姿や大きさが変わっても気づくほどだから、当時の俺に対して相当な恨みを抱いたのだろう。
「肩にかかるほどのストレートの灰色の髪の毛。前髪は目に少しかかっていた。目は虚ろ。視線は足元。ある日を境に全く見かけることが無かったから、気になっていた」
続けられた言葉を耳にして
「ん?」
もしかして、恨みを抱いているわけではないのだろうか。
気になっていたの意味が知りたくて、首をかしげて声を漏らす。
女子生徒話に気を取られている間に、周囲の状況が少しずつ変化していた。
周囲に大勢の人が佇んでいる状況の中で、理人のすぐ背後に佇んでいる女子生徒が、どうやったら自然に理人に触れることが出来るのかと試行錯誤する。
電車の揺れによって身体のバランスを崩した女子生徒の思い通りに理人の背中に触れることに成功したものの、思っていたよりも勢いが良かったのだろう。体重を盛大にかけることになり、何度も頭を下げる。
少し触れるつもりが、盛大に頭突きをくらわせ体重をかけてしまったことに焦り、女子生徒は真っ赤になった顔を両手で覆い隠して別の車両に向け小走りに移動する。
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