第49話 お茶会は戦場と化した

 王都に子どもたちが訪れるのは初めてだ。

 末のランドリックが三歳になったこともあり、ファステン前侯爵との顔合わせもある。

 ただ、今回は顔合わせや夜会ではなく、お茶会が主な目的となる。

 少し早いが現状執務を圧迫するほどになってきたデイジーの婚約者に関しても目星があればと思っていたら挙手してきた中にアルバート殿下とダレン殿下が居たせいで私とクリスが頭を抱えた。

 どちらも乗り気らしいがデイジーが渋っている。

 仕方ないのでお茶会を二回に分けて開く予定を人数の都合もあり、纏めてやってしまおうという話になった。

 出来れば招待客同士で縁組してくれたら私が楽なのだけどね。


 恙なくファステン家との顔合わせをしたところ、ハルシオ次期ファステン侯爵の娘二人がセオドアとの婚約にかなり前のめりになった。

 セオドアは成長するに連れ父であるクリストファーに似て美少年と呼ばれる見た目になってきた。

 髪色こそ私と同じ紅玉のようではあるが目鼻立ちや新緑の瞳は明らかに父親に似た。

 「初めまして、セオドア=カルバーノです」

 そう言って微笑んだセオドアを前に口を開けて固まった二人は長女をアンナ、次女をハンナというらしい。

 二人は母親に似たらしくどちらもチョコレートブラウンの髪にカルバーノらしい紫の瞳をしていた。

 「おおおおお茶会には!是非!呼んでくださいまし!」

 前のめりに詰め寄る二人を軽く去なす我が子がやっぱり少し心配だったりする。


 お茶会当日、いつもよりずっと召かした二人を伴い会場としたカルバーノのタウンハウスにある中庭に向かう。

 ランドリックはタウンハウスの中で楽し気に侍女やメイドたちと遊んでいる。

 真っ先に到着したのはアスターとリリアン、まあ前日から泊まり込んで居たので当たり前なのだけど。

 リリアンに向かいセオドアが「今日も可愛いね」と言えばリリアンが少しだけムッとしている。

 お世辞だと気付いているのだろう。

 そうこうしているうちにエルスト公爵が夫人を伴いやってきた。

 「姉がお世話になっています」

 「久しぶりだね」

 「クリストファーさまも」

 エルスト公爵はオッフィさまの弟にあたる。

 公爵夫人はセダム王子の妹、セダム王子に似た面影はあるがとても優しそうな穏やかな雰囲気がある。

 「は、初めまして、エルスト公爵が娘スノウです」

 美しいカテーシーに思わず溜息が漏れる。

 「セオドア=カルバーノです、今日は足を運んでいただきありがとうございます」

 いや、我が息子出来過ぎじゃないか?

 デイジーはといえば、席を離れリリアンと遊んでいる。

 黒髪に優し気な濃い緑の瞳は夫人に似たのだろうスノウ嬢がチラチラとセオドアに目を向けている。

 ややあってファステン家の姉妹が到着すると、セオドアの両脇を固めている。

 遅れてアルバート殿下とダレン殿下がやってくる。

 二人を見てファステン家の姉妹が色めき立つのを、ハルシオが目を押さえながら天を仰ぐ。

 セオドアが用意したテーブルに移動する、セオドアのテーブルにはスノウ嬢リリアン、それに夜会で声をかけてきた幾つかの家の令嬢が座り、デイジーのテーブルにはアルバート殿下とダレン殿下、アスターにセオドアの婚約者候補のはずの幾人かの令嬢が座っている。

 「わかりやすいわね」

 「まあね」

 少し遅れて辺境伯が少年を伴ってやってきた。

 「カルバーノ伯爵、招待状がないにも関わらず邪魔をしてすまない、だがどうしてもデイジー嬢に息子と会ってもらいたくてだな」

 そう言いながら眉尻を下げて少年を促した辺境伯に私はデイジーを呼んだ。

 「カルバーノ伯爵が娘、デイジーです」

 ちょっと震えながらカテーシーをするデイジーに銀髪に深い青の瞳の少年が慌てて頭を下げた。

 「ローゼン=サディアスです」

 デイジーは一頻り挨拶を済ませてローゼンの手をひいて自分のテーブルを素通りし、別に用意させたテーブルに座った。

 これに慌てたのがアルバート殿下で、デイジーのテーブルに移動するためにダレン殿下を贄にした。

 なかなかに酷い。

 デイジーの気持ち次第ではあるが、どうやらこのままいけばアルバート殿下かローゼンのどちらかに決まりそうだ。


 セオドアの方を見ればスノウ嬢の手をひいて中庭の奥にある薔薇園に連れて行こうとしている。

 「我が子ながら、セオドアのああいう所は誰に似たのかと思うね」

 「義姉さんでしょ」

 「ああ……」

 ああじゃないんですよ、旦那さま?とサミエルと小声で話すクリスをひと睨みする。

 「アルには分が悪そうだが、巻き返して欲しいな、王太孫妃なんだけどな」

 「難しいかもしれませんね、ただアルも諦める気はなさそうですし」

 王太子夫妻の陰ながらの応援を背に受けてアルバート殿下がデイジーに話しかけている。

 

 当然そうなると残された令嬢たちが黙ってはいない。

 キャンキャンと不平を漏らし出した令嬢たちから弾き飛ばされたリリアンを庇ったのはダレン殿下だった。

 「君たちさ、そんな風でどうして自分が選ばれると思うの?大体君たちの相手はセオドアだよね?僕や兄上ではないでしょ、何しにきたの?」

 ダレン殿下の言葉にハルシオが姉妹の手をひいた。

 「淑女教育からやり直させるよ、グロリオサ悪かったね」

 「仕方ないわ、あの子たちがしっかりしすぎなのよ……」

 私の言葉を慰めと取ったのか申し訳なさそうにしながらハルシオが姉妹を連れ座を辞した。

 連れてデイジーのテーブルに居た令嬢たちが親に連れられて帰る。


 結局、セオドアはエルスト公爵家のスノウ嬢とデイジーはサディアス辺境伯の嫡男でデイジーの二つ歳上になるローゼンと婚約することが決まった。

 そしてリリアンはダレン殿下との婚約が何故か決まりサミエルが頭を抱えていた。

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