第48話 カルバーノ騎士団
大型医療院設立と長距離列車に関わる初期段階の計画がひと段落し、王太子一家もようやく王都に帰れば近く魔獣討伐が始まる。
伯爵位を得て許可された騎士団設立も今年の討伐から本格化されるため、今年はファステン侯爵領の騎士隊は来ない。
騎士団設立に時間がかかったのは人材の不足。
騎士団長を決めるのもひと騒動あったが、実力で他者を捩じ伏せたのはカタリナだった。
文官として王宮で働いていたカタリナの父パレタイン前男爵をカタリナが引き抜き騎士団の参謀として再就職させると、それまで傭兵隊長を務めたガイを副団長に任命し、新たに騎士団を育て上げた。
この数年、ファステン騎士隊の魔獣討伐にも参加し実力と経験を積み上げたカルバーノ騎士団は今年から単独任務として秋の魔獣討伐に乗り出す。
「今回の討伐計画です」
薄い紫の騎士服に身を包んだカタリナが副団長のガイを伴い計画書を提出する。
受け取った私がさっと目を通してクリスにも計画書を渡す。
「魔銃部隊も実戦投入しますが、今年は少し過剰戦力になるかもしれません」
治水工事で魔獣の生息域が減った上に長距離列車のための開拓もあり、魔獣被害がからに少なくなっている。
「生息域がずれてますからね、場合によっては山向こうの領主から応援要請があるかもしれません」
カタリナの意見に頷きながら、計画書の中にある通信魔道具の許可を出す。
「向こうの領主とこの時期だけ連絡が取れるようにしておくのも必要かと」
「そうね、押し出すように魔獣が彼方側に行ってしまっているし」
まあ迷惑をかけているのだろうが苦情がないのはカルバーノとの取引にある程度便宜をはかっているからではあるけれど。
「それよりリリアンは大丈夫なの?」
同じ伯爵領である山向こうの領主は私の盆暗父と同年代で、その孫にリリアンを婚約者として迎えたいと何度も打診されている。
「リリアン自身はセオドアさまかランドリックさまと婚約したいと言ってきかないので……サミエルは同じ男爵位か子爵位の相手を探しているようですが」
「ああ、セオドアはどうなのかしらねえ、まだ早いかと思うのだけど一度話を聞いてみた方がいいかしら」
私がクリスに目を向けるとクリスは少し難しい顔を見せた。
「まだ打診より前の段階だから話していなかったけど、エルスト現公爵の長女からも打診があるんだよね」
「オッフィさまの弟の?確かセダム王子の妹が嫁いだ……」
「そう、そこの長女のスノウ嬢だね、ちょうどセオドアと同じ年齢なんだけど」
「セオドアさまの婚約者探しとなるとハルシオさまも黙ってないでしょう」
「だよねぇ、ハルシオさまからも長女か次女のどちらかの婿養子にと言われてるんだけど、セオドアがカルバーノを継ぎたいって言ってるからお祖父さまが断ったのよ」
まあだからと言って引き下がる気はなかったみたいで、ならば嫁にと言い出しているのだけど。
「夜会の時期に王都のタウンハウスで茶会でもするしかないわね」
溜息混じりにそういえば、カタリナもリリアンを王都に連れていくため令嬢教育をしなければと拳を握った。
貴族令嬢は拳を握るものではないのよ、カタリナ。
カタリナが作り上げた騎士団は普段の領内警備も担っており、入出領の増えたカルバーノには欠かせない組織となっている。
第一騎士団は精鋭を集め、魔獣討伐や討伐要請に対応している。
第二騎士団は街を中心にした警備を主にする対人間のスペシャリスト。
第三騎士団は領境の警備を担っている。
それらの組織に加えて見習い騎士隊がある。
この全てをそれまであった傭兵隊を解体して一からカタリナが組み上げた。
「そういう素質があるし希望があったからね、だからカタリナに結婚を申し込んだんだ」
サミエルが得意気にそう言った時はカタリナが気分を害するのではと心配したがカタリナ自身は得意満面で「サミエルなら私の願いを叶えてくれると信じてましたから」と生涯剣を握りたいと願っていたのだとその時に初めて知らされた。
そんなカタリナから滞在中にセオドアと一緒に指南を受けたアルバート殿下が王宮に帰ってから王宮騎士団に鍛錬を申し込み騒ぎになったらしい。
私の知ったことではないが。
魔獣討伐は異例のスピードで終結し、カルバーノ騎士団の凱旋はちょっとした祭りになった。
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