第47話 医療院
嘆願書を携えて執務室を訪れたのは王都の神殿から派遣されてきた神官とこの街の司祭、小さな医療院の医院長と魔塔の魔術師。
「現在の医療院はあまりに小さ過ぎるんです」
「王都でも嘆願書を出しましたが、一番此処が取り組みの先端だと聞いています」
「ですからね、最新の魔道具で助けれる命があるんですよ」
うーんと私が唸るのをずいっと前のめりに詰め寄り三人。
「まあ、考えなくもなかったんですが、どうしても神殿の領分を侵してしまうでしょう?」
「神殿だって万能じゃあないんですよ!国民全部は救えないんです!あと回復魔術が使える神官も限界があるんですよ」
なんとも情けない話だが、確かに回復魔術で治せるのは怪我や呪いが元の不良ぐらいで病には効かない。
たまに現れる聖女が使う魔術ならば病にも効果はあるが、そんなもの数百年に一人ぐらいしか誕生しないわけで、神殿は常に満床状態。
「せめて軽傷者や病は、薬で治せるものは任せれる場所が欲しいと神殿の総意でもあるのです」
そうは言っても現状の薬師だけで回せるのは限られているし、そもそも今の小さな医療院で足りないとは聞いていない。
「これから列車が走るようになれば、必ずパンクします」
ああ、確かに。
「わかりました、各々必要になれば声をかけますので協力願います、魔塔から提供できる魔道具のリストアップもお願いします」
さて、料金体系の見直しと医療院の新たな建設、人員の確保と育成。
やることが増えた、サミエルとフィンを呼ばなければならないわね。
「ふむ、料金は領民証がある場合は二割負担ない場合は十割、これは国民に変えれないだろうか」
何故ジオさまが居るんだろう。
「国民に変えるなら国民証の発行が先だろう、でなければ一律かかった費用のうち負担分を纏めて国に請求することになるが?」
「予算を通すのが先になるな、国民証というか各領地での領民証作成の指示は去年出したのでそこは問題なかろう」
「浸透するのに時間がかかりすぎます、現在の状況ならばカルバーノの領民証だけでやらなければそれこそうちがパンクしますよ」
議論が進む中、新しい薬師の面接と看護師や介護士の手配も考えなければならない。
「薬師や看護師介護士は王都でも募集をかけてみましょうか、此方で独身寮と家族寮も建設して……なら候補地はここが良いわね、路面列車の駅を増やして」
当然年内に片付く話ではない。
神殿からも協力があり修道院で暮らす前科のないものを中心に志願者を集めてくれた。
「薬師が足りない」
「魔道具を使う技師も足りてないね」
給与体系を見直しながら優秀と聞く薬師に打診を繰り返しているが、基本的に薬師となるような人物は人の多い土地を好まず、自然豊かな土地に根差す。
となれば当然組織体である医療院など真っ先に断られるわけで。
「流石に国外というわけには」
悩んでいるとセバスからセオドアが面会を希望していると言われた。
「通して」
すぐにセオドアが入室してくる、手にはかなりの厚みの紙束。
「薬師育成のため、留学をさせる仕組みを考えてみました、まだ穴だらけだとは思いますがアルバート殿下にも協力してもらい、セダム王子にもみてもらいました」
「セダム王子ってセダム王子また来てたの?」
「はい、先週」
「彼、自由過ぎないかな」
クリスも呆れているが本当に大丈夫なのかしら、仮にも第一王子のはずなんだけど。
「うん、悪くないね」
「確かに、これなら薬師はどうにかなりそうね」
セオドアが持ってきた書類を読めば、嫡出の子以外は職に困っている人がかなり多いらしい、薬師であれば生涯困らないが本来の薬師となると先の理由で街中で活動していくのが難しい。
ならば勉強をさせてくれる薬師を探し、就職としての医療院を約束。
免状を条件に滞在費用と勉強を依頼する費用の捻出。
最初に出して仕舞えば後を育てるのはこちらに帰ってきた薬師に頼めば良い。
「技師もこの仕組みを利用して、うん、あとは費用の試算ね」
セオドアは自分が提案した内容をさらにその場で適用するために出されていく改訂案に感心の溜息を吐いた。
「セダム王子に礼状を出さないとね」
「アルバート殿下もセオドアも、よく考えてくれたわ、ありがとう」
礼を告げれば破顔して照れたように両手で顔を押さえてからキリリと表情を作り直して頭を下げて執務室を出た。
「将来有望なのはいいけどね」
「少し、二人とも気負い過ぎだね」
閉じた扉を見ながら、私とクリスが呟いた。
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