第46話 努力の結果

 セオドアのブースで充分な休憩を取ったので早めにアルバート殿下のブースに向かう。

 既に入り口は長い列が出来ていたけれど、そう待つこともなく列は進んだ。

 「これは、面白いですね」

 「きれーい」

 「照明の魔道具を上手く使ったのか、やるなぁ」

 薄暗い通路には白く塗られた板張りの壁に包まれている、入り口から暫く歩くように順路を進めば照明を上手く使った幻想的な絵が壁や床、天井に浮かび上がる。

 アナウンスが響く、どうやらカルバーノ領の歴史を表現しているらしい。

 海と岩だらけの床から光で表現した魚が飛び出す。

 魚が弾けると草原の風景が。

 「これを調べるのも大変だったろう」

 「アルバート殿下が表に立たなくても良い、凄いアイデアね」

 出口まで飽きることのなかったアトラクションはプロジェクトマッピングの簡易版といったところか。

 「工夫もすごいけど、あのストーリー仕立てもなかなか素晴らしいね」

 「照明自体も普通にある明かり用の魔道具だし、うん面白いわ」

 まだまだ続いている行列を避けて関係者以外立ち入り禁止が掲げられた扉が薄く開き隙間からアルバート殿下が顔を覗かせたのを見て私は親指を立ててみせた、アルバート殿下ははにかみながらとても良い笑顔を覗かせた。


 サミエルの息子アスターは小物を販売するブースに居た。

 レース編みや刺繍、細工を男女問わずやりたいことで作品を作ったらしい。

 男子生徒が母親にだろう自分が編んだんだとレース編みのリボンを見せていたり、細かな組み木の美しい小箱を作った女子生徒がそれを父親に見せている。

 アスターに手を挙げて挨拶すると、サミエルに似た笑顔を見せた。

 「これ、僕が刺繍した髪留めなんですよ、クリス叔父さん良かったらグロリオサ叔母さんとデイジーにお揃いでどうです?」

 いやほんと、小さいサミエルだわ。

 ちょっとフィンの影響受けてないかしら。

 クリスが選んだものは丘から海が見える帆船の美しい柄の髪留め、それを私に着けるとアスターがデイジーに髪留めを着けた。

 「ほら!やっぱり二人とも似合うし可愛いですよ」

 「本当だ、二人とも凄く可愛いよ」

 そんな照れ臭いクリスの言葉に私が素直になれずに居るとデイジーがふふんと鼻を鳴らした。

 素直に言葉を受け取るデイジーはやっぱり可愛いし、アスターのアレはお世辞だろうなと苦笑する。

 「ありがとうございます」

 クリスにだけ聞こえるように礼を言えば嬉しそうに破顔したクリスに手を握られた。


 ぐるりとブースを回って校舎前に作られた舞台に向かう。

 すっかり楽しんだらしいジオさまとオッフィさまにダレン殿下、アスターにかなりの買い物をさせられたサミエルとカタリナの五人と合流し、係に割り振られた生徒に案内されて貴賓席に座る。

 今は合唱をしている舞台が最後の曲を終えたらしく退場したあと幕をして舞台の準備をしている。

 リリアンは劇だと聞いた。

 幕があがり演じられる物語は馴染みのあるラスクート国の話ではなく予想外にも北の隣国ユーフォリビアに伝わる創国の物語、悪竜と戦う騎士が竜に捉えられた巫女を救い善竜と共に悪竜を封印して結ばれ、善竜の加護を得て悪政を強いて贄姫として巫女を担ぎ上げてきた王家を打倒し新たにユーフォリビアを建国するまでの御伽話。

 リリアンはまさかまさかの善竜役だった。

 巫女に抜擢されたのは酪農業を営む家の長女だったはず。

 何度か視察の際に顔を合わせてはいた、利発で妹弟の面倒をよくみる控えめな少女が今はまるで聖女のような気品溢れる演技を見せている。

 「さあ!勇者よ!竜の巫女よ!悪しき心に囚われた王から今こそ全てを取り戻すのです!」

 リリアンが白い竜の被り物を着て高らかに宣言すると勇者がハリボテの剣を掲げる。

 勇者役は長らく取引のある子爵家の次男だ。

 その勇者の前に立ち塞がるのはリリアンが捩じ込んだというオリジナルのキャラクター、黒いマントに黒い騎士服を身に纏った暗黒騎士、その正体は悪政を強いる王家の王太子。

 勇者と黒騎士の一騎打ちに会場が息を呑む。

 黒騎士役は良く知る商家の嫡男。

 劣勢の勇者に巫女が寄り添い、渾身の一撃を黒騎士に打ち込む。

 会場が湧き立ち歓声と共に幕が降りた。

 カーテンコールに登壇したリリアンは凄く良い笑顔で私たちに手を振った。


 会場を出ればもうすっかり夕方、閉会が近付いている。

 食べ物を販売していたブースは殆ど売り切れて撤収を始めていた。

 彼方此方で打ち上げの準備が始まっているので私たちも帰路につく。

 カルバーノ邸に全員が帰るとすぐに指示を出して普段より豪勢な晩餐の準備を始めた。

 はしゃぎ疲れた子どもたちが早々に眠った頃、セオドアたちが帰宅した。

 「おかえり」

 「ただいま戻りました」

 やり切ったのだろう良い顔をしているセオドアを私とクリスは交互に抱きしめて今日までを労う。

 隣ではアルバート殿下をジオさまとオッフィさまが労い、アスターとリリアンはサミエルとカタリナに労われている。

 晩餐では彼らのそれまでの苦労話を聞かせて貰っていた。

 今回のバザーは二年ごとに行うことになったらしい。

 そこで得た収益は学校の備品購入に回されるのだけれど、これは生徒たちにリクエストしてもらい、後に投票で購入品を決めるとのこと。

 大人が見て必要だからと提供しているものと、実際に学んでいる彼らが欲しいと願うものは違う。

 今回の収益では図書室に入れる本とピアノを購入するとのこと。

 「芸術も必要だと思うのです」

 アルバート殿下はピアノ導入に積極的だ、セオドアは少し渋い表情をしている。

 「僕は絵の具などを推していたんです」

 二人とも芸術に関するものだった。

 「心を豊かにするためにも、それらに触れる機会があるとないでは違いますから」

 学校で教えているのは読み書き算数に外国語ぐらい。

 「本もね、ラスクート国の歴史とか他の国の話とかもっとたくさん知ってればって思うの」

 リリアンがそう言うのも納得出来るほど、今日の劇は素晴らしかった。

 「いずれは工具も欲しいですね、今回思ったんですが今から色んな職業体験をするのも悪くないのでは?」

 アスターが言うのもわかる。

 というか、この子たちまだ六歳と五歳よね?ちょっと考え方が大人すぎない?

 そう呆気に取られる私たちを尻目に子どもたちはこれからの学校に必要なものを話し合っている。

 将来有望過ぎて、引いているのは私以外も同じ……。

 「義姉さんも似たようなものでしたでしょ」

 とサミエルに言われて私だけが苦い顔をしていた。

 

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