第45話 子どもたちのアイデア
あれから一週間、いつの間にかセオドアとアルバート殿下の話し合いにはアスターとリリアンが加わり、時々デイジーやダレン殿下がその会話に加わっているうちに、自分たちなりの打開策を見つけたらしい。
「バザー?」
「はい、幾つかのグループに別れてそれぞれが何かを作って売ったり出し物をしたり、そこで協力することで少しはお互いに歩み寄れるんじゃないかと」
なるほど、と前世の記憶にある文化祭やそういう類のものかと納得する。
「良いんじゃないかしら」
「収益で学校の図書室にある本を増やしたいと考えています、そのことは明日バザーの提案と共に話してみたいと思っています」
セオドアとアルバート殿下が私とクリスに報告する、その内容もしっかり組み立ててあり企画書を自分たちなりに作っていた。
「それで、ですね」
そこまで話て少しモジモジと俯いてセオドアとアルバート殿下が顔を見合わせる。
「あの、あと一週間体験入学の日数を増やして欲しいんです」
ああ、と思い至って私とクリスが笑う。
「わかった、ジオには私から話そう、お前たちの思う通りに頑張ってみなさい」
クリスの言葉に二人は精気に満ちた笑顔で「はい!」と答えた。
私たちの後押しを受けた二人はその後も精力的に動いているようだった。
私たちはそれを見守ることに専念し、学校には何かあれば相談して欲しいと告げておいた。
特に学校から連絡が来ることもなく、時々経営に関してや人をまとめるための助言を求められれば答えるというだけに留めた。
ここで頭角を表したのがアスターだった。
貴族と平民の間に立ち上手く緩衝材としての役回りに徹しながら思う方に誘導していく。
凡そ五歳児とは思えない手腕に大人たちは舌を巻いた。
時折、セオドアとアルバート殿下の意見が衝突するらしく、泊まりにきたアルバート殿下とセオドアの部屋から二人が熱く語り合う声が漏れ聞こえたこともあった。
どちらも長子ということもあり、普段は聞き分けよく落ち着いた二人が声を荒げながらも意見をぶつけ合う姿に陰ながら親たちはホッとしていた。
迎えた最終日、街の人たちも呼び込んでのバザーが開催された。
入場には生徒たちからの保護者への招待状か前以て学校から入場券を購入する必要がある、これについてはアルバート殿下のアイデアだったらしく、態々入場券を買ってまで来る以上、不審者を学校内へ招き入れないためのシステムだという、購入時に身分証の提示が必要としたため客数が減るかと思われたものの、それは杞憂だったよう。
私とクリス、来年には同じく体験入学を控えるデイジーとで私たちは学校へ向かった。
門の辺りで丁度着いたばかりのサミエルとカタリナ夫妻、ジオさまとオッフィさまにダレン殿下に出会した。
「入場券を確認します!はい!こちらバザーの配置図になっています!」
入り口の係は生徒が数名と後ろに何かあった際に対応する教師が控えている。
私たちは配置図を見ながら学校内に入った。
入り口すぐに良い香りが食欲を刺激した。
「焼き鳥か……隣は……この辺りで採れるフルーツを食べやすくしてあるのか、このアイデアはいいね、デイジー食べるかい?」
「食べたい!」
クリスが並ぶ出店風のブースを眺めながらデイジーに声をかける。
この辺りでは良くある柑橘の果物を一口大にしてあるだけのものだが、食べやすいのか気温のせいもあるのかデイジーはサラッと食べ終える。
「結構色々あるのね」
「とりあえずは皆我が子の出し物を見るんだろ?あ、サミエルんとこのリリアンは劇だったか」
「そうですね」
「では劇の時間に集合しましょうか」
そう決めて私とクリス、デイジーはセオドアのブースに足を向けた。
セオドアの居る場所は教室のひとつ、カフェだと聞いていたので食事になるものを控えながら向かうと、白いセーラーを着た男女の生徒たちが接客をしているのが見えた。
中にはセオドアの姿もある。
「コンカフェ……」
『前世の記憶』にあるコンセプトカフェを彷彿とする装飾は港があるカルバーノ領らしいコンセプトになっている。
セーラーを着たセオドアが普段より少しとっつき悪く、耳を赤くしながらメニューを差し出した。
「私とクリスはコーヒーを、デイジーにはケーキセットをお願いするわ」
「かしこまりました」
「お兄さまカッコいい」
デイジーがぽそりと呟くとセオドアがへらりと笑ってデイジーの頭を撫でてからメニューを通しに向かった。
よく周りを見れば人数のいるこの教室のブースは貴族や平民が皆一様に介している。
衣装は同じデザイン、聞けばデザインをしたのは平民の少女らしい。
衣装の縫製を男爵家の子女が先頭に立って指導、メニューは男女混成、ケーキ作りは子爵家の嫡男と農家出身の少年が主導で行われたとか。
セオドアとアルバート殿下の狙い通り上手く行っているようだった。
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