第41話 時は経ち

 セオドアは今年六歳になった。

 それから四歳の妹デイジーに三歳の弟ランドリック、三人の子どもに恵まれた私とクリスは二十五歳になっていた。

 まだまだ働き盛り。

 サミエルとカタリナは双子が産まれた、五歳の男女でアスターとリリアン、王太子殿下夫妻もまた三人の子どもたちがいる。

 ファステン侯爵子息も結婚して五歳の息子がいるが、デイジーが生まれて以降ずっと婚約の打診を受けている、これはクリスが首を縦に振らないので早く諦めて欲しい。

 そんなデイジーの初恋はセダム王子だった。

 とはいえセダム王子もその頃には結婚をし王女が生まれていたので今は良き友人として家族ぐるみの付き合いがある。

 フィンは相変わらず独身を貫いている、浮いた噂もない。

 

 「そろそろ着く頃ね」

 子どもたちがソワソワしているのは今から来る来客、王太子夫妻とその子どもたち。

 夏季休暇に合わせての旅行という体でカルバーノに顔を出すのはあの日以来、王都に帰った二人が推し進めた上下水道と道路の整備、そして治水工事が漸くひと段落したタイミングだった。

 遠く蹄の音がして庭先に出た私たちの前に大型の馬車が止まったのが見えた。


 「久しぶりだね、やぁ随分大きくなったじゃないかセオドア」

 そう言いながら走って迎えたセオドアを抱き上げるのはグラジオラス王太子殿下。

 後ろに続いてオフィリア王太子妃殿下が続く。

 その後ろから金糸の髪の三人が此方の様子を伺っていた。

 「ほら、ご挨拶して」

 オッフィさまに促された三人が恐る恐ると姿を現す、金糸の髪に新緑の瞳の三人が一人ずつ自己紹介をした。

 「アルバートです」「ダレンです」「マリオンです」

 長子から順に挨拶をする三人は五歳四歳三歳の年子。

 ジオさまに似て穏和な雰囲気のアルバート殿下、オッフィさまに似て精悍な空気を醸し出すダレン殿下、マリオン殿下は何処となく国王陛下やクリスに似ている。

 私は三人に挨拶した後ジオさまに戯れている子どもたちに声をかけた。

 「セオドアです、妹のデイジーと弟のランドリックです」

 「デイジーです」「ランドリックです」

 セオドアが先に立って挨拶をすると、アルバート殿下とダレン殿下がジッとデイジーを見ていた。


 その後サミエルの子どもたちも合流し、元々面倒見が良いセオドアがまとめ役となって子どもたちはあっという間に仲良くなった。

 中でも普段は甘えることが難しい立場のアルバート殿下が随分とセオドアに懐いている。

 「セディ兄さん」そう呼びながら我が邸にある王都では見たことのものについてアレコレと問いかけている、ダレン殿下とデイジー、サミエルのとこの双子アスターとリリアンは走り回って遊んでいるし、マリオン殿下とランドリックは絵本を読んでいる。

 「人数が多いと性格が出るね、ところでデイジーちゃんはまだ婚約者いないよねぇ、うちのアルかダレンのどっちかはどう?」

 「王家にはやらないよ?」

 にっこり笑ったジオさまに笑みを崩さないでクリスが食い気味に即答する。

 冗談めかしてジオさまは話しているけれど目の奥は笑っていない、現在私の持つ『前世持ち』の記憶にある知識とリン殿を始め、生きづらさから逃げてきた複数人の『前世持ち』が知識を共有するカルバーノ伯爵領を王家としては繋いで置きたいのだろうと、以前ファステン前侯爵である祖父から聞かされている。

 ファステン家が王家に影響のない範囲で王家の縁を結ぶという祖父の企みはクリスのやらかしでカルバーノに婿入りさせて成し遂げている。

 そう、デイジーが王子三人の誰かに嫁ぐのは過剰な縁に成りかねない。

 ファステン家の役割は王家に遠からず近からず、ある意味でストッパーの役割がある。

 それはそれとしてクリスは窮屈な王宮に愛娘を送りたくないとデイジーが生まれた時に話してくれている。

 「デイジーは跡取りと言うわけではないから、好いた人と結ばれて欲しいかな」

 私がそう言うとオッフィさまがウンウンと頷いた。

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