第39話 秋ですね

 セオドアが産まれて一カ月。

 私も徐々に執務に復帰したいところなのに、過保護な身内が一切何もさせてくれない。

 メイドから乳母となったマリは春に出産したばかりでセオドアの同じ歳の息子がいる。

 乳兄弟となるだろう二人を愛情深く面倒を見てくれるため、私の負担はビックリするほど軽い。

 それでもまだ産後ひと月、まだ動き回るには早いと快適な邸に押し込まれ、執務室は出入り禁止にされている。

 先日、魔銃を三十ほど都合してくれたセダム王子が出産祝いに訪れてくれた。

 彼の国ユーフォリビアでは一般的な男児が産まれると身内から飾りのついた剣が送られるらしく、態々セオドアのためにと特注で作ってくれたらしい。

 勿論刃は潰してあり誕生祝いの席に飾ったりするもので、強く逞しく何ものにも折られることなくという願いが込められている、如何にも強い魔獣が多く棲む厳しい土地柄のユーフォリビア国らしい風習だと思う。

 因みに女児の場合はレイピアや弓になるらしく、強く折れずしなやかにという願いになるらしい。

 

 秋も近くなると討伐隊の話が出てくる。

 既に出没情報も出ており、今年は経験が欲しいと対策にジオさまが加わった。

 統括をクリスが、サミエルとフィンにジオさまがクリスに協力する形になる。

 カタリナは領都の守備に衛兵たちと回るらしい。

 私は参加を許されず、報告だけ聞く形とされる。

 「準備は問題ないよ」

 寝室のベッドの上に報告書を乗せてクリスが私にそういうと気遣うように私の髪を一房掬い取った。

 「セダム王子の持ってきた魔銃はカルバーノの傭兵隊で今射撃訓練を行っているよ」

 「そう、慢心はしないけど安心は出来そうね」

 「ファステン侯爵家から今年は例年より派遣する騎士隊の規模を大きくすると連絡が来た」

 重なっている報告書から該当する一枚を抜き出して私の膝に置く。

 「まぁ、叔父さまどうしたのかしら」

 「セオドアが産まれたからね、安心して暮らせるようにしたいと前侯爵に話していたらしい」

 「そうなの……」

 息子は随分愛されているようで私の眉尻が下がる。

 「陛下がそれを聞いて王立騎士団を動かそうとしたのは断ったよ」

 「そっれは、ありがとう」

 愛されて、愛され過ぎ?

 「私は彼らの期待を裏切ったはずなのにね」

 「愛されているのよ」

 「そうだね」

 しばらく私の手にある報告書に視線を落としていたクリスがふと顔をあげた。

 「リン殿の報告で来年から無事に米の栽培が始められそうだと」

 「それは楽しみね!」

 「海路の方に出た魔獣はセダム王子が随分楽しそうに討伐したと報告を受けたから礼をしないといけないんだが、先日届いた南国の果実などを中型船で送ろうかと思う」

 「良いわね!」

 次々と報告を聞いて現在の状況を把握していく。

 クリスは問題なく領地を回してくれていて安心した。

 「流石ね」

 「サミエルたちが居るからね」

 サミエルとも去年よりずっと上手くやれている。

 和やかに話していると隣室から泣き声が聞こえてくる。

 「きっとお腹が空いたのね」

 直ぐにノックがしてマリがセオドアを連れてきてくれた。

 授乳中のセオドアをクリスはいつも微笑んで見ている。

 因みに授乳が終わりゲップをさせるのはクリスが率先してやっている。

 いい父親なんじゃないかしら。


 今日は久しぶりに女性陣の都合が付いたので中庭の四阿にてお茶会です。

 秋らしく揃えた菓子はパンプキンやスイートポテトにマロンを使った商会が運営するカフェの季節メニュー。

 どれも自然な甘みがこっくりとした味わいの色鮮やかな菓子が並ぶ。

 お茶はルリ国から輸入した玄米を炒ったお茶にした。

 授乳期間だからね。

 「ん!甘くて美味しいですわ」

 オッフィさまが顔を綻ばせている。

 カタリナも美味しそうに食べている。

 「今年も、討伐隊には加われませんでした」

 シュンと肩を落とすカタリナは学園時代に剣技大会で優勝する剣の腕前。

 強すぎるが故に縁談が纏まらず困っているのをオッフィさまからサミエルに話が行って縁が結ばれた。

 「サミエルはどう言ってたの?」

 「人と魔獣は違うから、と」

 「それだけ?」

 「守らせて欲しいし、守って欲しいって」

 サミエルにしては随分と甘やかしているのだとわかる。

 「でも私は肩を並べて戦いたいんです、勿論街を守るのも大事なのですが」

 カタリナの気持ちもわかる。 

 オッフィさまがお茶を一口飲んで息を吐きました。

 「ふう、背中を預けてくれているのではなくて?カタリナだから任せれるんでしょう」

 「今年は街の防衛にジオさまもいるのでしょ?」

 「すごい不服だったみたいだけどね、今のカタリナと同じことを言ってましたわ」

 いやいや、殿下?何かあったら私たちの首が飛ぶから大人しくしてください?

 「サミエルが良くて何故私はダメなのですか!兄さん!って」

 オッフィさまがジオさまを真似て話すのが少し面白い。

 「そうしたらクリストファーさまだけじゃなくサミエルやフィンにリンまで一緒に王太子だからに決まってるだろ!って、あんまりにも息ピッタリでしたから私笑ってしまって」

 はぁと態とらしい溜息を吐いたオッフィさまに私も苦笑した。

 「まあ昨年の討伐でかなり減らしたこともあるし、今年は魔銃隊も組織出来たし、ファステン侯爵領の騎士隊も例年より多く送ってくださるようだから」

 私たちの出番は少なそうなのよね。


 その後は冬に向けての話し合いが行われた。

 毎年の年末にある王家主催の夜会に合わせてジオさまとオッフィさまは王都に帰る。

 それまでもう少しこの賑やかさに浸っているのも良いかもしれない。

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