第30話 来年に向けて

 夜会から帰宅した私たちはグッタリしていた。

 王太子殿下の話は完全に聞いて居なかった話で、クリスもかなり戸惑っている。

 陞爵についても私には話が全く通っていなかったので、あの後色んな人から質問攻めにされても答え様もなかった。

 そして案の定クリス絡みで私に仕掛けてきた令嬢も居るには居た。

 「貴女なんかでは勿体無いわ、クリストファーさまは私が飼って差し上げます」

 そう言いに来たご令嬢はお父上にその場で引っ叩かれて連れ帰られていた。

 まあ失礼にも程があるしクリスは引き攣った顔をしていたし、なんなら向こうから王太子殿下がゆらりと黒いオーラを発しながら近づいてきていたので、お父上に帰されたなら良かったかもしれませんね。

 それ以外はほぼ予定通り、元より付き合いのある貴族家に対してのサミエルの婚約に改めてクリスの紹介、また学園の関係で同級生たちやクリスの同級生の一部とは発展的な話が出来た。

 耳の早い連中だと絹織物のことや電気柵、ユーフォリビア関係以外にも上下水道や道路整備、また内密に準備をしていた領民権関連の話まで知っている者もいた、多分独自に諜報が得意な組織を持っていたりするんでしょうね。


 そろそろ内密に動かしていた領民権についてもクリスとサミエルに話さなければならない。

 これも前世知識に寄るもので前世では戸籍に当たるもの。

 これに様々な情報を付随させて医療施設などの領内の公共施設を優遇して使用できるシステムを作る、同時に彼ら領民の権利を保証するかわりに得られるデータはかなり重要になる。

 これには税金を納めた額だけでなく収入の情報も入る。

 家族構成もしっかり入るため学校施設への入学を勧めたり近親の縁結びを避けさせたり、人口の正確な把握なども出来る。

 ここまでの徹底管理は前世の知識でみれば大きな反発がありそうだが、領内の話であり私が貴族であり、さらに還元されるものがかなり大きいこともあり、進められている状態。

 開発には魔塔がガッツリ入っている、なんなら私は提案しかしていないけど魔塔が張り切って必要な魔道具を開発してくれた。

 それが形になったのが夜会の準備を領内でしていた頃。

 それを動かすのに新年から冬のあまり忙しくない時期を考えていた。

 

 「というわけで、新年すぐに私たちの登録をしてそれをパフォーマンスとする方向で」

 「うん、義姉さんそういう大きな話は計画を動かす前に話して欲しかったな」

 サミエルが素晴らしい笑顔で応えた。

 馬車の中の温度が下がった気がする。

 「でもまあ、時期的には丁度良いかもね」

 グッと足を伸ばしながらサミエルがくったりと息を吐いた。

 クリスは相変わらず長距離用の馬車に興味津々だ。

 既に王都を離れカルバーノ領地に向かっている。

 年末ギリギリに到着予定だが、通信魔道具のおかげで今回は領地に残っているフィンに連絡しやすく遠距離で出来る指示はしっかり通っている。


 「あの発表もあるし来年は忙しくなりそうだね」

 「弟がすまない」

 「義兄さんのせいじゃないでしょ、ってか僕ら何も聞いてないしね」

 「そうねぇ、とりあえず出費がねえ」

 そう、子爵から伯爵へ陞爵は本来めでたいのだが、伯爵家となれば当然求められるものが増える。

 何より無駄だと思う王都のタウンハウスの引越し、これが手痛い。

 子爵家だからこそ平民街に近いそう維持費もかからない建物で済ませていたのに、伯爵家となれば貴族街の中心地にタウンハウスを用意する必要がある。

 個人的には今のままで良いけれど、ファステン侯爵家の面目がある。

 この辺りの貴族特有の暗黙の了解は面倒だが無視もできない。

 「大体、当家に連絡も了解も得ずに勉強にくる王太子殿下の話はなんなんですかね」

 「重ね重ね弟がすまない」

 「それこそ義兄さんのせいじゃないでしょう、ってかあのブラコン王太子と行動したくないんですけど」

 「すまない、そこはよくわからない」

 うん、そうでしょうね。

 なんだかんだと文句を言いながらも結局、あれだけの場で話された以上どれに関しても拒否も辞退も出来ない。

 私たちは、諦めたようにため息を吐いた。

 伯爵位の承りに冬の間にもう一度王都に出なければならない、タウンハウス自体はファステン侯爵家の良い場所を指定してもらい購入しておくべきだろう、授与式後の宴会に合わせて王都でサミエルとカタリナ嬢の婚約披露も済ませておきたい、結婚式は来年の秋か冬前、伸ばしても次の春だろう。

 

 来年の計画を話している間にカルバーノ領が見えてきた。

 本格的な冬の前にやらなければならないことを済ませよう。


 で、王太子殿下はいつ来るつもりなんですか?

 

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